『お前の妹と結婚する』と、姉の私が婚約破棄されたけどその妹、実は男の娘なんです
「お前の妹と結婚する!」
「えっ?」
驚く私を無視し、公爵様は後方で控えていた一人の人間を指差した。そして見下すようにしてもう一度さっきと同じ言葉を私に告げた。
「ミーア、お前との婚約は破棄する。そしてリエと結婚する」
リエというのは私の二つ下の、妹……ではなく、弟。今は、完全に女性と見間違うほどにおめかしをしていますが、間違いなく男。
つまり、公爵様は男と男で結婚すると堂々宣言なさっているわけで……、それを私たちは茫然と見守っているのです。
ただ一人、リエだけはこの空気に順応して少し誇らしげに、私に勝ったと言わんばかりの表情で壇上に登っていきました。
「ほ、本気ですか?」
「ほほう、妹に私が盗られて悔しいか? はっはっは、なら私に見合う女になればいい。彼女は私と釣り合う女なのだよ」
いや、だから違いますよー。
その娘は、男の娘なんです!
と大声で言いたいところですが、なんだか面白そうなので何も言いません。
それに私はこの男と結婚する気などさらさらありませんでした。自分の立場を利用して人をこき使って私利私欲を一番に考えるような人に人生の半分以上を捧げる勇気はないです。
それになんだかリエの方も嬉しそうですし、良しとしましょう。
「それじゃ、ミーア。アデュー」
リエの手を握り、この場を後にした公爵様。
ぽかんと取り残された私たち、あっと言う間に婚約破棄されたのでした。
◇ ◇ ◇
突然の破局、からのリエとの結婚を発表。
そんなドタバタの一日が過ぎ、リエが家に帰ってきました。
少し疲れているのか、顔色は良くありません。
「どうだった?」
興味津々な私は、好奇心を隠そうとはせずに聞き出します。
「んー、別に。ちょっと触られたくらいかな」
リエは疲れた表情をサッと消して、誇らしげに笑います。
「まだバレてないの?」
一日目ですぐにばれるものだと思っていた私にとって意外でした。
すぐに行為に移ると思っていたけれど、案外公爵様は奥手なのかしら。
公爵様の誘いを全て断ってきた私、今思えばもう少し歩み寄ってもよかったかもしれない。
「そう言えば、こんなことも言われたよ。女性関係に口出ししないことを約束して欲しい、と」
前言撤回。
汚物以上に気持ち悪い男で間違いない。誘いを断ってきて正解。
◇ ◇ ◇
二日目。
今日も公爵様とリエは一緒に出掛けていたようで、帰って来たのは夜分遅く。
「随分と遅かったわね」
流石に今日はバレたでしょ。
「バレたよね?」
前のめりになりながら聞くと、リエは鼻で笑いながら、
「キスはしちゃったよ、でも今日はそこでおしまい」
「え?」
「なんか予定があるとか言ってたな」
残念、と楽しそうに言うリエ。
私が気になってるのはそこじゃないんですよ。
えーと、男と男がキスしたって……ことは……。
「あまり私の知らないリエにならないでね」
「はぁ?」
◇ ◇ ◇
今日は公爵様が血相を変えて家へとやって来た。
「なんだお前の妹は!? 男じゃないか!!」
はい、そうです。
あなたが勝手に勘違いされたのです。
遂にバレてしまったよう。
「ご結婚おめでとうございます」
これ以上ないというくらいの満面の笑みで私は祝福の言葉をかける。
「ふざけるな! 男と結婚なんてするわけねえだろ、婚約破棄だ。……覚えてろよ、お前ら」
「公爵様、一つご忠告させていただきます」
「今更、許しを乞おうとしても遅いからな!」
公爵様はぷるぷると怒りを抑えながら帰ろうとした。
その背中に向かって忠告の言葉を送る。
「あなたが今まで行った悪事、全て我々が握っていますよ」
「……なんのことだ?」
「とぼけないでください、リエを連れて行かせたのもこれが目的です」
「……ちっ、今回の件を水に流すから、その秘密を握りつぶしてくれ」
私はこの男と関わりたくない。関わることが二度とないのならまあ良しとしましょう。
「交渉成立ですね」
◇ ◇ ◇
「話は終わったかな」
「ええ、終わりました」
ウィッグを外して元の短髪に戻ったリエ。
まるでお人形さんのような可愛い姿だったのに、リエ自身はあまり気に入らなかったのでしょうか。
「ありがとう、リエ。婚約を反故にすることができたわ」
「なんでこんな周りくどいやり方するんだよ……」
そんなの決まってます。
「おもしろそうだから、です」
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