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「痛っ………」
美祐は腹部の重い強い痛みを感じ、目を覚ます。
昼間の様な吐き気は収まったものの、まだ痛みを感じる。
息をする度に胸元の痛みも微かに感じる気がする。
こんな事で彌生を起こす訳いかないし、と痛みを耐えながら眠る事にした。
痛いからと言って摩るとさらに痛みを感じる。
「最悪だ………」
部屋で1人そう呟く。
そういえば今日1日何も口にしていなかった。
飲み物ならスポーツドリンクを飲んだがそれもほんのちょっと。
取り敢えず何か飲もうと思い起き上がると頭がクラクラとしてそんな事を思い出した。
少しフラフラしながら立ち上がる。
何とかキッチンまで歩けるだろう。
近くの壁を伝って、痛みを堪えながら足を少し引きずり壁を擦る様に歩く。
カチリ。と言う音と共に辺りが昼間の様に明るくなった。
一瞬状況が読めなかった美祐はポカーンとその場で立ち尽くした。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
どうやら電気を付けた者の正体は彌生だったらしい。
美祐はその声に対して、少ししょぼんとした様子を見せながら「飲み物を飲もうと思って」と答える。
それから付け足すように「起こしちゃってごめんね」とも言った。
すると彌生はスタスタとキッチンの方へと向かって行き、「お兄ちゃんはそこの椅子座ってていいよ。飲み物用意してあげる。歩くの大変でしょ?」と言って率先して飲み物の準備を始めた。
美祐はもうどうしようも出来なくなって申し訳ない気持ちで一杯のまま近くにあった椅子に腰掛けた。
椅子に腰かけると幾らかマシになった様で少し眠気に襲われたので、そのまま少しうたた寝することにした。
ちょうど目の前に丁度いい高さのダイニングテーブルが置かれていたので、そこに突っ伏しておく。
「お兄ちゃん、って、寝ちゃったか」
彌生は用意した飲み物のグラスを美祐から少し遠くに置くと、自分の部屋からタオルケットを1枚持ってきて美祐の肩にかけた。
彌生はこのまま電気を消して自分の部屋に戻ってしまおうか迷ったが、起きて暗闇というのも自分がその立場なら嫌だし、先程までフラフラと歩いていた美祐が心配というのもあり、スマートフォンだけ持ってきてすぐ側にあるソファーで寝る事にした。
「お兄ちゃん、おやすみなさい」
彌生は眠っている美祐に小さな声でそう声をかけると、自分の部屋からスマートフォンと先程美祐にかけたのと色違いの1枚のタオルケットを持ってきて、ソファーの上でそれにくるまりながら眠りに落ちた。
「おはよ」
彌生は朝一番からダイニングテーブルでパソコンをカタカタと打っていた。
朝一番から何やら調べ物をしている様だ。
「何調べてんの?」
「お兄ちゃんを何処の病院に連れてこっかなって」
「ふーん。そう」
美祐は内容だけ聞くと素っ気ない様子で近くにあったグラスに入った飲み物を飲み干すと、彌生の横に椅子を持ってきて座った。
「何処連れてかれんの?俺」
パソコンのモニターを彌生の肩越しに見つめながらそう問いかけた。
画面上に大量に上がっている住所は全て整形外科のもの。
どうやら彌生は胸元と腹部の傷を見せに行くつもりらしい。
「整形外科」
「ほえー。俺連れてかれんのか」
感心した様に返事をしていると、美祐は彌生に腹をつつかれた。
「痛えよ」
「知ってた」
彌生は舌をべーっと出すと、笑った。
そんな事彌生に対して、美祐は嫌な顔せずにむしろ可愛いなとまで思っている様で彌生の頭を優しく撫でて「心配してくれてありがとな」と言った。