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「おはよぉー。お兄ちゃん」
美祐は目を覚ますと、一瞬今の状況が理解出来なかった様で、辺りを念入りに見回した。
そして1度昨日の夜の少し曖昧な記憶を何とか思い出して辿る。
「俺、お前の兄ちゃんになったんだっけか。確か」
彌生は頭を上下に激しく振って頭の動きをピタッと止めると美祐の方をじっと見つめた。
美祐がそれに対して不思議そうにしていると、彌生は口を開いた。
「お兄ちゃん、昨日の夜の事無かったことにして帰らないでね?寂しいから………」
美祐はこの言葉を聞くまで、彌生が外出している隙を狙って黙って帰ってしまおうかと考えていたが、この言葉を聞き尚且つ目の前の彌生の純粋そうな瞳を見つめてしまうと、この考えもいつの間にか消え失せていた。
「馬鹿………。勝手に帰んねぇよ」
「ありがとう」
彌生は目を少し細めて静かに喜ぶと、「あっ、そうだ」とパチンと手を叩いた。
美祐は思わず手を叩く音に驚きもう一度彌生の方を見直した。
「お兄ちゃん、荷物持ってな来ないとだね。一緒に取りに行く?」
美祐もすっかり忘れてた話だった。
確かにここに一緒に住むなら自分の家から着替えを持ってくる必要がある。
昨日はこの服でそのまま寝てしまったが流石に汗をかいているので着替えたいと思うし………。
「あ、うん。大丈夫。そんなに量多くないし一人で行くよ」
美祐は本当は二人で行っても良かったと思っているが、何しろ家に帰れば当たり前の様に母親がいる。
居るだけなら問題は無いのだが、向こうが手を出してくる可能性が高いから厄介だ。
彌生に見られる程度は良いだろう。仮に彌生に母親が手を出したらそれこそ部外者である彌生を巻き込んだ形になるので、幾ら同居人でも良いとは言えないだろう。
ただ、この事実を言えば彌生も着いてくる未来が見えたので、美祐は荷物が少ないと適当に言うことにした。これなら納得してくれるだろう。そう思った。
「そっか、じゃあ僕は家で待ってるね」
案の定彌生は家で待ってくれるとの事だったので美祐は今すぐここで動作として胸を撫で下ろしたい程に安堵した。
「うん。なんか必要なものある?着替え以外に」
美祐にとってあの家に2回以上行くのは凄く嫌な事なので、出来るだけ1度で短時間で済ましたいと考えたらしく、取り敢えず着替え以外に何か必要な物が無いか聞いて、無ければ全て自宅に置いて帰ろうと言う魂胆だった。
「ああ、お兄ちゃんが必要だって思った物だけ持ってくればいいよ」
彌生はそう言った。
どうやら彌生は少し大雑把な性格らしい。
美祐は内心、彌生が細かくゴチャゴチャ言うタイプじゃなくてよかったと胸を撫で下ろしているが、問題はこれからだ。
如何に母親に何もされずに帰ってくる。
これが今日の最大のミッションだ。