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夜。コンビニから漏れる光が横顔と細々と口から吐き出される煙を照らした。
外気はとても冷たい。頬は痛いほどに冷えていた。
冷たいガードレールは体の熱で仄かに暖まっていた。
「お兄さん、お兄さん未成年でしょ?」
スマホに目を落としていた青年は、補導されるのかと思いつつ嫌々スマホから声の主の方へと目線を向けた。
が、声の主を見た瞬間拍子抜けしそうになった。
目の前に立って居たのは煙草を吸っている青年より少し幼い印象を抱くような青年だった。
「なんか用?」
煙草の煙を口から吐き出しながら問いかける。
声を掛けてきた青年は怖気ずいた様子も無く、その場に堂々と立って「健康に悪いですよ」と言った。
青年が煙草を吸うのを辞めて「いつもの事だしお前には関係無いだろ」と言おうと口を開こうとすると、ギュルルルルと腹の虫が鳴いた。
「ほら、子供は早く家に帰って夕飯食って寝ろ。」
面倒くさいと思いその場を立ち去ろうと青年が立ち上がり前に進みかけた時、もう1人の青年もまた、負けじと追いかけた。
生憎青年は今日徒歩でコンビニに来ていた様で、徒歩で追いかけ合う形になった。
「待って、待ってくださいっ!」
追いかけていた青年は、目の前に伸びる長い腕を白い手で思い切り掴んだ。普通であればその手を振り解いてしまうだろうが、今回に限ってはそうでは無かった。
「痛てぇな、離せよ、お前」
青年は立ち止まった。
2人の青年は街灯の下、向き合う形で再度対面する事になった。
手を離すと青年のジャージの袖の下が顕になる。
青白い、そんなもんじゃない。赤黒い、紫色?何と表現するのが適切なのかは分からないが、誰がどう見ても軽い怪我で済むような色では無い痣が、指の様な形でくっきりと付いていた。
「コレのこと、誰にも言うなよ」
体の深い場所から声を押し出す様に青年は視線を落としながら告げた。そしてもう片方の手で袖を引き「お前の用件は何だ?」と問いかけた。
「お家、来てくれる?」
先程の威勢は何処に消えたのか。子供の様な口調で、でも何処か明るさ無邪気さの様な物が欠けた様な声色で言った。
「家、何処だ?」
「着いてきて」
そう告げ、青年は真横にすっと移動すると「行こっか」と先程来た方向に足を進める。
そしてもう1人の青年は何故俺は見知らぬ子供に着いていく羽目になってしまったんだろう………と考えながらも勝手に立ち去れば何か言われそうだったので仕方が無くペースを合わせながら歩く事にした。
幼い青年は、歩きながら終始幸せそうな顔をしていたらしい。