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92 帰りたい理由

 


 俺の買ってきた最後のパンにパクつくアイヴィスを一瞥してから、窓の外へと視線を移す。


 綺麗な星だ。この世界の夜は暗い。故に元の世界では山奥や田舎なんかでしか見れなかった煌めく星が大抵の場所で拝むことができる。


「星、星ぃ、俺と星を見に行く人ー!」


 ……シーン。


「はーい、一人で行ってきまーす!」


 ミーラの家で星を見てからというもの、星を見るのが俺のマイブーム。

 いつもならフィアかヒトヨが来るのだが、しばらくはルーシアと進化したアイヴィスに夢中だろうな。


 たまには一人でゆっくりと一人、満点の星空鑑賞会といきましょか。





 *





[さて、今の内に部屋の問題を片付けましょうか。まずは領地を決めましょう]


「ふぃふぃ!」


「チュン!」


 フィアとヒトヨの先輩コンビがレアの言葉に手を挙げる。


[ここからここまでがクオンの領地。他は私達の領地です]


 レアが浮かび上がり、始点と終点を示す。その大きさは部屋の半分程度。


「いやいやいや、おかしいです。アイツなんてこのぐらいで良いんですよ」


 そう言ってルーシアが示した大きさはレアの示したサイズの半分の半分、そしてまた半分。つまり部屋の八分の一のサイズ。


「貴様……主人をそんな隅へと追いやって言い訳がないだろう! 私が思うにだな--」


 アイヴィスが歩き出し、そのサイズを示す。それなんと部屋の五分の四に当たる。


「いやいやいやいや! アンタ馬鹿でしょ!?」


「ちなみにこれは主人とレア様、フィアさんとヒトヨさん共有だ。残りのスペースは私とルーシアで使う」


「あの馬鹿の次に身体のデッカいアンタと私が!? 窮屈で死ぬわ!」


 そうして議論を重ねていき、出た結論は部屋の五分の二。半分はルーシアが認めず、これ以下はアイヴィスが許さなかった。


 ちなみにだが、議論に飽きたフィアとヒトヨはクオンのベッドで遊び始めていた。


[ふぅ、これで部屋問題は解決ですね。次に……と聞きたいことを聞いた方が早そうですね。ルーシア、何かありますか?]


「ハイハイハイ!」


[どうぞ、ルーシア]


ビシリと表拍子を広げてルーシアを指すレア。それにアイヴィスはパチパチと拍手を贈る。


「アタシ達の最終目標って、みんなであのバカの世界に戻ろうって感じなんですよね?」


[そうですね。クオンの住んでいた元の世界で皆で平和に過ごそうというのが着地点ですね]


「そこで気になったんですけど、アイツの世界に帰らなきゃいけない理由ってあるんですか? 別にこの世界で見つからないように生きていく方が現実的だと思うんですけど……」


 ルーシアの言うことは最もだろう。


 この世界で暮らすとなれば、常に狙われるという危険性を保持し続けるということになるが、レアの魔力を溜めなくても済む。魔力を溜めずに済むとなれば、最低限の外出で済むため見つかる可能性も大きく減少する。

 第一、異世界へ転移するためにかかる魔力は途方もなく、このままのペースで溜め続けたところで何年かかるかは定かではない。


 なればこそ、ルーシアのいうことは正しいと言える。


 だが、それはクオンの感情を無視した場合に限った話である。


[……それは、帰りたい理由があるのでしょう]


「アイツの帰りたい理由って?」



 ルーシアが問えば、レアの纏う空気が途端に暗いものへと変貌する。



[…………私には聞けませんよ。無理矢理連れてきた張本人ですよ? 左腕まで使えなくさせて…………どれだけ図々しくあればそんなこと聞けるのでしょうね]


「ふぃふぃー」


「チュンチュン」


 凹むレアにフィアとヒトヨが寄っていく。


 その光景を見て、ルーシアの中に湧き上がったのは怒りだった。レアをこうまで落ち込ませるクオンへの怒り。

 それはきっと理不尽なものだ。だが、ルーシアの中でクオンよりもレアの方が優先度が遥かに高い。なれば怒りが先行するのも必然と言える。


「……じゃあ私が聞いてきます。私はアイツに嫌われたってどうでもいいですし」


 クオンへの苛立ちからか、語気が少し強くなった。


[しかしそれは……]


「私が勝手に聞いて、勝手に聞かせた。それならレア様も納得でしょ?」


[しかし……]


「レア様は何も気にしないでください。私が勝手にやるだけですから」


 悩むレアにそう声を掛け、実体化していた身体を霊体化させ身体を浮かす。


「……ルーシア」


 窓を擦り抜けようとした時、アイヴィスから声が掛かる。


「何よ、別にアンタは付いてこなくても良いんだけど」


「あまり主人に迷惑をかけるなよ」


「ふんっ、話すだけよ」


 アイヴィスはクオンが左腕を失ったことに責任を感じていた。故にレアと同じく、付いていくという選択が出来ず、一言釘を刺し悩ましげな表情を浮かべると、レアの元へと寄り添いにいった。






「月はあるのに、星は全く別物……。この世界はどこにあんだろうなぁ……」


 ルーシアが外に出ればクオンはすぐに見つかった。段差に腰掛け、ぼんやりと空を見上げ、何かを呟くクオンにルーシアは隣……の隣の隣ぐらいの距離から声を掛ける。


「ねぇアンタ」


「ん? ルーシアか、どしたよ。俺と星見るんか?」


 上を向いていた首が、ルーシアの方を向き笑う。その笑みには一片の偽りもなく、決して嫌いな相手に向ける笑顔ではない。

 レアを悲しませたクオン--実際はそうではないのだが--へ少しキツめに当たってやろうと思っていたルーシアだが、少しだけ冷静さを取り戻す。


「……アンタって昼間も言ってたけど、この世界の人間じゃないんでしょ?」


 クオンの言葉をスルーして、ルーシアは問いかける。クオンは違いますよねー、と言ってがっくし項垂れる。


「……まぁそうだな」


「やっぱり元の世界に戻りたいの?」


「そりゃあな。この世界で数ヶ月過ごしてきたから慣れはしたし、良い所だっていっぱいあったけどさ、帰りたいに決まってるよ」


「なんか理由でもあるの? 帰らなきゃいけない理由とか。戻りたい理由とか」


「友達も家族もあっちに居るし、お別れもしてないからなぁ、せめて別れぐらいは言いたいし…………それに」


 続く言葉を少し待つがクオンは答えない。表情からもあまり言いたくないことなのだと察することができた。でもそれが妙に歯痒く、焦らされているようでルーシアはムカムカした。


「何よ」


「別に大したことじゃないんだけどな」


「私にアンタが隠し事とかムカつくわね、言いなさいよ」


 高圧的で不遜な態度をとるルーシアにクオンは理不尽だと言って笑う。


「………………親友を置いてきちまってるのが……心残りでさ」


 そういうクオンの顔は、出会って間もないルーシアにとって初めて見る表情を浮かべていた。

 レアに向ける温かな感情と酷似した、されど多分に寂しさが含まれた表情。


 レアやアイヴィスであったなら、これ以上は踏み込まなかったし、クオンも自発的にそれ以上話すつもりはなかっただろう。


「で、そんな言い方するってことはその親友となんかあったんでしょ? 何よ。勿体ぶらずに言いなさいよ、めんどくさいわね」


 だが、ルーシアは踏み込んだ。レアのため、そしてクオンになら別に嫌われてもいいという想いがそうさせたのだ。


「はぁ……別に面白い話じゃないぞ」


 だから、クオンも口を開く。

 自発的には話さない。だがクオンにとって隠すことではないから。


「それを決めるのは私。アンタは黙って話せばいいのよ!」


「ったく、聞いた後での不満は受け付けないからな」


 呆れたような、けれど仕方ないなぁといった風にクオンは語り出す。




「そうだな……これは--俺がこの世界に来る前の記憶だ」





明かされる主人公の過去(大した話ではない)!

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