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90 二人の強さ


明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 


 二人の強さを知るために、Bランクの魔物の情報を冒険者ギルドで探り、ついさっき見つけたわけなんだが……。


「ふんっ」


 ルーシアが大型の牛のような外見をした魔物の胴体へと鎌を振るうと、その鎌は魔物の身体をすり抜けた。しかし魔物が痛ましい悲鳴をあげ、動きが極端なまでに鈍る。


「ハァァァ!!!」


 両手で剣を振り下ろすために、自らの頭を振るう少し前に空中に向けてポイと放り投げたアイヴィスが、魔物めがけ巨剣を振り下ろす。その剣は真っ赤な炎に包まれている。クソカッコいい。


 鋭く重く速い。加えて炎付き。三拍子におまけもついた完璧なまでの一撃を食らった魔物は耐えることなど出来るはずもなく、身体を二つに分けて絶命した。断面は焼き焦げているためか、血液が溢れることもない。


 そしてアイヴィスは剣を腰にしまい、落下してきた自らの頭部を華麗に掴む。



「つ、強ぇ……」


[つ、強いですね……]


「ふぃ、ふぃー……」


「チュ、チュン……」


 Bランクの魔物がなす術もなくやられている。そんな光景を前に俺達は唖然とするしかなかった。


 Aランクが二人がかりなのだから、当たり前の結果ではあるのだが実際に目の当たりにすると言葉を失ってしまう。


 あの牛の魔物は仮にもBランク。決して弱い魔物ではなかった。俺一人だったら確実に殺されていたし、フィアと手を組んでも大苦戦、ヒトヨが更に追加で少し余裕が出来る。そんな相手だったはずだ。


 それを一方的に相手に何もさせずに倒したのだからこの反応は当然っちゃ当然だろう。


「ウォーミングアップにもならないわね」


「同意見だ。二人がかりで挑む必要もなかったな」


 たしかに彼女達の言う通りだろう。今のを見るに、一人で戦っていたとしても易々と勝利していたに違いあるまい。


「二人ともマジで強いな。おい」


[ええ、頼もしい限りですね]


 ちなみにだが、俺はDランク冒険者だからBランクの魔物の討伐なんて受けさせてもらえなかった。だからこれは依頼ではなく、あくまでも個人的な狩りだ。

 DランクがBランクに挑むとか、普通に考えたら死人が出るだけだしね。みんなが強いだけで俺個人の強さは平均的Dランク冒険者だから仕方ない。召喚獣のことはあんまり人に明かせないし。


「さっき使ってたのは魔法、なのか?」


「私のは魔法剣ですね。その名の通り魔法を剣に纏わせる技術です」


 アイヴィスはそう言って先程のように剣に炎を纏わせてみせる。


「さっきも思ったけど超カッケェ!」


[何処ぞの英雄みたいですね]


「ふぃふぃ!」


「チュン!!!」


「ほらフィアとヒトヨ、近づきすぎると危ないぞ」


 興奮してアイヴィスの剣の周囲を飛ぶ二人を注意する。


「この状態であれば、霊体であるゴーストやファントムなどの存在も斬ることが出来ます」


「ふんっ」


 ちらりとルーシアを見ながらアイヴィスは少し得意気に言う。それに対してルーシアは非常に苛立たし気というか、不満そうだ。


「ただ魔力消費がそれなりなので長時間の使用は難しいですが」


[それを加味しても、相手が苦手な属性を剣に付与出来れば、相当優位に戦いを進められそうですね]


「はい! 身体能力が格段に向上してもいますので、この力で主人とレア様を護ってみせます!」


 ふんすふんすと鼻を鳴らして意気込むアイヴィス。チラチラと褒めて欲しそうに俺の方を見てくるので褒めておく。凄いと思ったのは事実だし。


「頼りにしてるからな」


「ッ! ハイッ!!」


 嬉しそうに返事をしたアイヴィスがハッと何か気づいたように俺に無言で頭を差し出してくる。そしてうずうずしている。


「…………この差し出された頭は?」


「それはもう、ハイッ! お願いしますッ!」


 うーんとってもいい返事。で、何? 撫でろってこと? ビンタしろとかじゃないよね?


 ビンタじゃありませんようにと願いながら、綺麗な水色の髪を乱さないように優しく本当に触れる程度に撫でる。


「ふ、ふぁぁぁぁあ…………!! 活力が! 活力がとんでもなく漲ります! 主人!」


「う、うん。おめでとう」


 いきなり変な声出すからビックリしちゃったよ。


「ふふんっ!」


 アイヴィスがルーシアへ羨ましいだろうと胸を張りながら、視線で語りかける。


「いやソイツに頭撫でられたところで全く羨ましくないから。むしろ背中がゾワってするわ」


「ルーシアにもしてやろうか」


「キモッ」


[口喧嘩もほどほどに]


「はーい」


「はい……」


 ルーシアがレアに叱られてショボンとしている。が、顔を伏せた状態で俺のことを滅茶苦茶睨みつけてくる。アンタのせいでレア様に怒られたじゃない! と言っているのが丸分かり。目は口ほどに物を言うとはまさにこのことだろう。


[それでルーシアの使用していたものは?]


「アタシのは負荷魔法です。レア様」


「負荷魔法……。言葉による?」


「歴とした魔法よ、馬鹿じゃないの」


 フッ、俺は中学も高校もお世辞にも頭が良いとは言えない成績をしていたんだぜ。つまりルーシアは正解ということだ。体育と美術だけはいつも五だったんだけどなぁ。他がなぁ……出席率も良くなかったし。


 にしても聞いたことがない魔法だ。固有魔法に属する魔法だろうか。


[その名の通り、対象に負荷を与える魔法です。例に挙げますと相手の動きを低下させたり、相手の自重を重くしたりすることが出来ます。ただし、その効果は極端なものではなく、数を重ねて効果を発揮する魔法ですから、今の戦闘では、霊体の鎌での攻撃による精神的苦痛による鈍化も狙っていたのではないでしょうか]


 ふーむ、対象の能力を低下させる魔法か。フィアの付与魔法の逆バージョンって考えでいいのかな? 一対多の戦いだと活用が難しそうではあるが、戦う相手の数が少なければ、かなり有効な魔法になりそうだ。


「流石レア様、博識ですね! ……それに比べてアンタは……はぁぁぁ」


「人の顔見て長い溜息をつくんじゃない。泣くぞ」


「キモッ」


 おっと俺の精神への負荷魔法か? 効果は抜群だ!


「ちなみにアタシの得意分野ではないけど、精神に作用する負荷魔法もあるのよ」


「ほぉん、精神に負荷ってなんか凄いな」


 それってさっきから俺に向けて放ってるチクチク言葉とは別物だよね。あっちも精神への負荷であながち間違ってないと思うんだけど。


[私も興味がありますね。どんなのがあるんですか?]


「そうですねー、例えば、コレです」


 と、ルーシアが突如俺に向けて手をかざす。


 すると、胸の中というか、身体の中を違和感が駆け巡った。で、よく分からんが気持ち悪かったのでそれを掻き消す。


「対象の精神に歪みを生じさせて、幻覚に近しい効果を及ぼすわ」


[ふむ、強力ですね]


「まぁ今のは対象が油断していたから出来る芸当で、普通は無理ですけどね。あと私とコイツだと実力差がかなりあるのでって感じです」


 レアに褒められてルーシアが上機嫌に踊るように俺の前へと近づいてくる。


「見ててください。ほら、実体化してあげたわよ。アタシに触れてみるといいわ!」


 へぇ、実体化もできるのか。というかなるほど、さっき俺を叩けたのはそういうことか。


 実体化と霊体化を瞬時に交換出来るのならば、相当強くないか? どの攻撃を受けたらいいか分からなくなるから、取れる行動が回避一択になる。フィアの妖精魔法とおんなじ感じだ。


「コイツは幻覚にかかっていると思うので、あの木辺りをアタシと誤認するはずです」


 ほらほらと俺を急かすルーシア。何を言っているのやら。


「いや普通に見えてるが」


 ぺたりとルーシアの身体に触れてみる。あっ、とレアとアイヴィスの声が聞こえた気がした。


「…………………………………………?」


 あっ、ぷにぷにしてて柔らかい。


 ちなみにだが、俺が触ったのはお腹だ。胸でも触ったら殺されそうだし、死にたくないし。後悔はしてないよ。…………シクッたな。


「………………?????? ……ッッッ!!!」


 完全に硬直していたルーシアが顔を真っ赤に染め、実体化を解除して俺から距離を取る。半透明でも顔赤いとか相当だな。


「なななな、なんでッッッ!?」


 ペタペタと自らの腹部を触るルーシア。驚きすぎて、俺への暴力を忘れるぐらいだ。


「アンタ何してんのよッ! 気持ち悪いッ!」


 まぁ言葉の暴力は来るんですけどね。


「っていうか、ホントに嫌。マジでイヤ。無理なんだけど」


「やめて? いくら俺でも触られた場所拭かれたりしたら凄い傷つくから。レアにこの汚れた布どうしようって相談するのもやめよ?」


 服越しだからセーフでしょ。服が汚れたのも嫌って言われたらどうしようもないけど。もうその域まで来たら、イジメよ。わぁー、クオン菌だぁー! 状態。落ちた消しゴム拾うと嫌がられるやつね。


「てか、ルーシアが触ってみろって言ったんだからな。今回ばかりは俺は悪くない!」


「ぐっ、でも、それは触れないと思っていたからであって……」


「言ったこと自体は認めたな! 俺は悪くない! 許してください!」


「ムカつくわね! ぶった斬るわよ!」


[やめなさい。子供ですか]


 コツンと自らで俺の頭を叩くレア。怒られちゃいました。ちなみにルーシアはアンタのせいでまた怒られたじゃないと睨んできております。


[ふむ。ルーシア、クオンは精神干渉への抵抗力が非常に高いということですか? 故に精神干渉が出来なかったと]


「……少し違うかもです。それもあるかもしれませんけど、普通、精神干渉が阻害されたら使用者は認識出来ます。だけどコイツの場合、それがなかった」


[ふむ、つまり?]


「……もしかしたらですけど、コイツには精神干渉自体効果が無いのかもしれません。その、つまり簡単に言うと無効化です」


[無効化……それはあり得るのですか?」


「コイツが出来るのはムカつきますけど、有ってもおかしくはないかと。フィアさんはどう思いますか?」


「ふぃふぃふぃ、ふぃーふぃー」


[ふむ、可能性がないわけではないと。魔法に精通しているフィアとルーシアがそういうのであればそうなのでしょうね]


 無効化ってのは凄いのか? もしかして俺の時代が来るのか?


「よく分かんないけど時代来ちゃう? 俺の」


[地味ですので来ることはありません。安心してください]


 なーんだ、俺の時代来ないのか、安心安心。って安心出来ないだろ。むしろそれで心穏やかになれたら気持ち悪いでしょ。


「ともかく! コイツには運悪く効きませんでしたけど、アタシを相手にすれば敵は本来の力を発揮出来ないってことで、そこに力だけはあるアイヴィスが攻撃すれば負け無しって訳です!」


「貴様……ッ!」


「アイヴィスどうどう」


怒るアイヴィスを闘牛士が如く落ち着ける。どうどう、どうどう。


[確かに、二人がいれば並大抵の魔物は相手にならなさそうですね]


「ですです!」


 俺もそう思う。二人は強い。それこそ人を超えたと称されるAランクの実力に相応しいのやもしれない。


 それでも一抹の不安は消えやしない。もし仮にミカ達、天使の名を冠する者が最強と呼ばれるアルカ・ハイドールに匹敵する力を持っていたのなら……Sランクですら容易く屠る力を保持しているとするのなら……きっと逃げることすら困難だろう。


 仮に俺が逃げられたとしても、彼女達は傷付き……最悪死ぬだろう。

 それは許されない。俺だけ生き延びるなぞ、死んでもゴメンだ。俺はもう決めたのだ、皆で元の世界に帰ると。


「……方針は変えずに、見つからないことを第一に考えるべきだな」


 ボソリと呟き、決意を固めた。



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