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83 目指すは連合国

 


『クオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオンクオン』


「ぁぁ怖い怖い怖い怖い!!!」


 時刻はまだ太陽が昇る前。日課のアイヴィスとの素振りすらはじまる前の時間だ。


 目覚めのいい朝こそがその日一日を作ると言っても過言でないというのに、こんな怨霊に取り憑かれた恐怖的な起こされ方をした俺は可哀想過ぎる。


「何もう。何のよう?」


 なんかオネェみたいな喋り方になっちゃったよ。いっそ振り切った方が良かったなおい。


『新たな仲間が増えますよ!!』


「あらやだ」




 *




『ぶっすぅ!』


「……魔導書ちゃんを頭に乗せて何かあったんだぜ?」


「気にしないで下さい。いつものことなんで」


 フエゴさんと旅を始めて、四日ばかしが経過したが冷静に考えて、フエゴさんがいる前で新たに召喚なんて出来るはずもなく、また今度としたところ、レアがご覧の有り様。乗っているだけならまだしも時折、角の部分で頭を叩いて来るのは真面目にやめて欲しい。


 フエゴさんを信頼していないわけではないが、というより信頼しているが、情報を与えすぎて迷惑をかけるわけにもいかない。

 信頼していようがいまいが、知らない方が、否、知るべきでないことがある。


 召喚なんかは多分その類いだ。もしかしたらフエゴさんが何か知っていて、情報を手に入れるきっかけになる可能性もなくは無いだろうがそんなの分の悪い賭けだ。


「で、クオンたちは結局何処行くか決めたんだぜ?」


「ああ、それなんですけど、『勇者』のいる国に行こうかと」


「勇者--クワイエト連合国だぜ?」




 思い出す。そう、あれは、昨日のこと。

 今まで完全に忘れていたある手紙の存在を俺はふと思い出したのだ。




 *




「ルミナから貰った紙、完全に忘れてた」


 そう言って俺はレアの収納から取り出したルミナから渡された羊皮紙を広げる。


「なになに……」


 ふむふむ、なるほどな。


「読めねぇや」


 俺、この世界の文字読めないの忘れてたわ。レアに読んでもらおう。


『なるほど。では読み上げます。


 やっほー、クオン。これを書いているのは君に会う前だけど、君にこれが渡っているってことは多分、僕の企み……じゃない、作戦が成功しているってことだろうから、多少は感謝と謝意の気持ちを込めて、君に少しだけ良いことを教えてあげようと思う。君にとっては良くない情報かもしれないけれど、有益なのは間違いないよ。


 前置きが長くなったけど、僕が君にあげる情報は二つ。


 まず、君の持つ魔導書が少なくとも帝国含め、七大国中三カ国で手配され始めたこと。小国を含めると全部で九カ国で手配されている。よって検問なんかの際には気をつけることをお勧めするよ。


 次に、勇者のいる国について。簡単に調べがつくとは思うけれど、勇者がいる国は連合国クワイエト。クワイエトは連合国、つまり小さな国が一つの国と化し、大国となった国だよ。お偉いさん方の利権争いとかに巻き込まれると面倒だから、僕はあんまり好きじゃないけどね。

 君は--恐らくだけど勇者と関わりがあるだろう? その関わりの深さは知らないけれど、一度訪ねてみるのも一興だと思うよ。


 PS、都合が合うようだったら、竜が卵を孵す頃、公国に来てくれるとありがたいな。


 以上です』



「いや、ツッコミどころ多いぃ……」


 レアが手配されてることを教えてくれたのは嬉しいけど、少し遅いし、PSの意味が分からんし、いや……諸々置いておいて、ここにはそれ以上に重要なことが記されている。


「良かったなレア。俺たちの敵はまだ世界じゃない。たしかに敵は大きいけれど逃げ道も逃げ場所もある。だから、大丈夫だ」


『はい。ですが、相手が世界だろうとクオンが守ってくれるのでしょう?』


「ま、まぁ最大限の努力はするけどよ」


『なーんて冗談ですよ。正直……安心しています。読みながら、まだ私にも、居場所があるのだと。この世界でも生きていることが許されているのだと、心が、本である私にも確かに存在する心が、ホッと息を吐いたのを感じました』


 そういうレアの言葉は確かに安堵の感情が篭っているように感じられた。

 だから俺は静かにレアを引き寄せて、手を置いた。


「……」


 何を言うわけでもなく、良かったなと、そばに居るぞと体の触れ合いだけで伝える。今は何となく、言葉で言うよりもその方が伝わる気がしたから。


 時間にしたら多分ほんの一分程度、そうしていたが互いに無性に気恥ずかしさが込み上げてきたのだろう。どちらからでもなく、少し距離をとって、それからレアが口を開く。


『それにしても、勇者との関係性ですか……』


「まぁあの町について一日二日は黒髪だったしな。疑われてもおかしくはないだろ」


『いえ、それはまぁその通りなのですが…………クオンは勇者についてどの程度ご存知ですか?』


「勇者?」


 少し考えてみる。


 聞いた話によると勇者は俺の同郷。つまり異世界人だそうだ。

 勇者というとよくあるゲームやアニメなんかを思い浮かべる。世界を救うために選ばれる救世主。魔王を討伐するために剣をなんか引き抜いて成長していく的な。で、姫を娶る。ハッピーエンド。


「……改めて考えると全然知らないな。何してたんだ俺」


『まぁ、色々ありましたから仕方ありませんよ』


 そう言って俺を慰めてから、良い機会だとレアが勇者について教えてくれる。


『勇者、それは大凡二十年に一度、主に七大国の何処かがローテーションで召喚の儀によって異世界より招かれる存在。目的はその代によって異なります。確か、今代の目的は、世界秩序の安定のためだったはずです』


「……なーんかいまいちパッとしない目的だな」


『……勇者というネームバリューはこの世界で尋常ではありません。勇者が国に滞在するだけで観光客が増加し、経済が回りますから、言ってしまえば、召喚するための大義名分のようなものです』


 ……なーんか気に食わんな。国益のために誰かの人生無茶苦茶にするってこったろ。

 と、俺の不満そうな顔に気づいたレアが補足する。


『少し私の偏見が混じってしまいましたが、別にそれだけのためというわけではありませんよ。魔物を討伐したり、勇者には特別な力が宿るそうですからその力を役立てたりと、色々と仕事はあるそうですから』


「ほーん」


『召喚される異世界人の数は多ければ七人、少なければ一人になりますが、勇者に選ばれるのは必ずその中から一人のみです。今代召喚された異世界人は四人か、五人でしたが、勇者はただ一人のみ』


「へぇ、なんか勇者になるには条件があるのかな? それとも最初から勇者となる存在は決まってて、それに周囲が巻き込まれるのか」


「前者と後者の中間ですね。最初からある程度の目星は付けていて、されど最初から確定しているわけではなく、あくまで素質で判断されます」


 素質……俺が召喚士として選ばれたように、勇者にも素質が必要なのか。勇者としての素質……勇気ある者ということなんだろうか。

 もしも勇者の素質が勇気ある者、ということなのであれば。俺の召喚士としての素質ってどんな素質なんだろ。


『加えて言うならば、異世界より招かれる者は勇者含め全てが女性です。今までに例外はありません』


「んぁ? なんで? 男子の方がぶっちゃけ良くね? 男なんて大体ドラゴンとか好きだし、やる気出しそうだけどな男の方が」


『私も何故かは知りません。それを聞いた時の母は、今までにない顔をしていて、詳しく聞けませんでしたから』


「…………」


 女性限定…………いや、辞めておこう。

 俺は小さく頭を振って、浮かんだ考えを追い払う。


『で、ここからが本題です。思い出してください。天使の名を冠する者……ミカと名乗ったあの者と出会った時のことを』


 言われて、あのあまり良い思い出とは言い難い思い出を記憶から呼び起こす。


『勇者を酷く嫌っている様子ではありませんでしたか?』


「ああ確かにな。だけどそれはミカだけが嫌ってるだけの可能性の方が高くないか?」


 天使の名を冠する者は一人じゃない。少なくとも七人。ミカは勇者と関わりがあるようだったから、他の天使の名を冠する者と関わりがあってもおかしくない。


『天使の名を冠する者と敵対はしていないかもしれませんが、条件を限定すれば、多少の力にはなってくれるかもしれません』


「……可能性はゼロではない、か」


 考えるまでもなく、リスクは高い。だが、指名手配されているレアの存在を明らかにせず、俺だけで揺さぶりをかければいけないことはない。


 最悪なのは勇者が俺の存在も知っていて、且つ完全に天使の名を冠する者サイドだった時だ。

 それを考慮すると、レアにはバッグの中に隠れてもらって、いざという時は転移で脱出がベストか。それならリスクを限りなく減らした状態で、リターンを望める。


 となると、会いにいく前にもう少し情報を集めておかないといけないかぁ。


「……で、その勇者の名前は?」


『今代の勇者、名を--』




 *




「……是非、一度見ておこうかと」


 昨日のことを振り返りながら、俺は告げる。


「なるほどだぜ。俺はそうだぜ、次の街に着いたら東にでも逸れようと思ってるぜ」


[東……聖国ですか?]


「いや、公国の方だぜ」


 公国は七大国の中でもかなり治安の良い方だと聞いている。フエゴさんなら治安云々は関係ないと思うが、万が一があるからな。折角知り合えた人が、通り魔に刺されてバイバイとか笑えないから。


 ちなみに七体国内でぶっちぎりで治安が悪いのが魔国。次いで帝国かな。魔国と帝国の間にも大きな壁があるくらいだけど。


「じゃあ後もう少しでお別れっすね」


「だぜ。また会ったらそん時は宜しくだぜ」


[といってもこのゆったりペースでは、次の街まで後一週間ほど掛かりますがね]


「それも旅の醍醐味だぜ」


 別に良いさ。俺達もあてがあるわけではない。狙われていることは知っているが、そんな気配は全くない。


 ようやく訪れたひと時の安らぎ。今はそれを満喫しよう。




ネタバレ






新たな召喚獣は女の子の姿形をしている。




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