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80 フリーデン商会

 


 この世界に数多くの商会あれど、名実共に大商会と名乗れる商会はそう多くない。

 例え、地方で名を挙げようとも、それが中央や他の国々に牙を剥けるかと言えばそうではないのだ。


 商人の世界は、見ようによっては冒険者の世界よりも残酷で残忍だ。

 地方から中央へと進出しようとすれば、邪魔も入るし、警告もされる。それを無視すれば、最悪人死にが出る。だからよっぽどのことがない限り、若い芽は育たない。




 そんな群雄割拠の戦場の中、数多の商会を退けて世界最大の大商会と呼ばれる商会があった。



 その名を『フリーデン商会』。



 僅か四代で数多の国に影響を及ぼせるほど発展し、世界最高とまで呼ばれる商会を築き上げたフリーデン一族。


 中でも今代の商会長、クロエ・フリーデンは鬼才とまで呼ばれる異端児であった。



「んぅーんー! あー、疲れたー!」


「お疲れ様です、クロエ様」


 やけに柔らかそうな椅子に座ったまま、背を伸ばす女性とそんな女性を労い、ティーカップを差し出す壮年の男性。


「ありがと、ガリウス。相変わらず完璧なタイミングだね」


「クロエ様に仕える者、そして名誉ある序列二位に立つ者として当然です」


 フリーデン商会にあり他にない大きな特徴として、序列制度が挙げられるだろう。


 その力量を明確にするために、フリーデン商会に所属するもの全ての中で、功績や活躍など十四の項目から序列を付けているのだ。


 序列は二つ存在し、生産や開発といった部門毎の『部門序列』と全ての部門からなる『総合序列』が存在している。しかし存在してはいるが、多くの場面で使われるのは総合序列の方だ。


 つまり、だ。

 優雅に椅子に座るクロエ・フリーデンに仕える壮年の男性。

 この男がクロエ・フリーデンに仕える従者の中でNo.2ということになる。


 名をガリウス。先代フリーデン商会長からフリーデン商会に仕える完璧執事である。


「ところでオニキスからは何か連絡が?」


「んー? いつも通りだよ。良い人材を見つけたって。でも、近々帰るって」


「…………今度説教ですな」


 いつまで経っても放浪癖の抜けない男の顔を思い浮かべ、こめかみをピクピクと痙攣させながら、ガリウスが告げる。


「こういうのも何だけど、別に構わないよ。レイとオニキスは好きにやってくれる方が良い方に転ぶからね。

 なんていうか、たまにいるよね。天命が幸福に満ち溢れている人。レイは少し……いやかなり違うけど、オニキスは多分それだよ」


 確かにあの男はそういった類の人物だろう。あの男の稀有な能力もそのためにあると言われれば納得出来る。

 が、栄光あるフリーデン商会に仕える者として理解はしかねる。


「……それでも、名誉ある序列三位が責任を放棄するなど断じて許せませんな。フリーデン商会の侍従として何を思っているのか」


「確かに、本来ならオニキスに割り振る仕事が回されるガリウスとニンジャには悪いけどね。後、セリアとハクナにもね」


「いえ、クロエ様が謝る必要は一切ございません。私も、ニンジャも、フリーデン商会のために尽くすことを至極としております故。二十一位と三十七位に至っては弟子でありますから、師の責任を取るのは当然のことかと」


 ガリウスはそう言うが、クロエは序列七位のことを思い浮かべて苦笑を浮かべた。

 あの子は確かにフリーデン商会によく尽くしてくれているが、無償で尽くすことを悦びとするとか、そういったタイプの子ではない。もし隣でガリウスの発言を聞いていたなら、苦々しい顔を浮かべていたことだろう。


「まぁ世間話は程々に、今年の会議に参加してくれそうな商会はどうなったかな?」


 会議……それは二年に一度、フリーデン商会が中心となって行う商会会議のことだ。

 そこに参加するのはいずれも各国に影響力のある大商会。

 そこでは、需要の無くならないポーションなどの適正価格が決められ価格崩壊が起きぬように制御等を行なっている。


 この商会会議に参加出来るということは謂わば商会として一流と認められた証拠でもあり、そこに参加するだけで多大な情報を手に入れられる他、商会としての立場を一つグレードアップさせるという利益がある。


 そのため多くの商会がこの商会会議に出席することを誉れとしている。


「ある種当然ではありますが、招待状を送ったほぼ全ての商会が参加を表明しております。ですので、不参加を表明した商会と未だ返信の無い商会を挙げさせていただきます。西に広く展開しているパプリオット商会は不参加を表明、神国に本店を構えるエンドリエ商会とバンナース商会、その他ユーズリ商会とゲルテ商会からの返信がありません」


「ふーん、そのぐらいか。じゃあ別に問題ないかな。一応形式として招待状は送ったし、筋は通したってことで。他に何か伝えておきたいことはある?」


 つまらなそうに、握っていた羽根ペンをくるくると手の上で回すクロエ。ガリウスはそれを察して、主人の機嫌を少しでも取り戻せるような話題へと話を逸らす。


「余談ではありますが、クロエ様推薦のベンデルーン商会も当然参加決定済みになります」


「うん、当然だね」


 ガリウスの企みは成功し、先程までとは違い、少しだけ笑みを浮かべてそう告げるクロエ。

 そんなクロエを見て、ガリウスの脳裏を一つの疑問が駆け巡る。


「私はベンデルーン商会という名について最近になってから情報を得た程度でありますが、クロエ様が直々に招待を送るなど、余程将来がある存在なのですな」


「ふふっ、何故ベンデルーン商会を招待したのか疑問に思ってそうだね」


「いえそんな……」


 遠回しに情報を引き出そうとしたのだが、クロエには生憎と通用せず、ド直球で話が進んでいく。

 だが、別にそれは笑っていることからも察することができるが、機嫌を損ねてはいないのだ。


「別にいいよ。私も思うから、場違いだって」


 ベンデルーン商会は帝国内の知名度で言えば、かなり高い。若き天才姉妹が築き上げてきた努力の象徴は決して誰にも咎されるものではない。

 だが、世界から見てみれば、ベンデルーン商会はあまりにも小さな存在だ。


 今回の商会会議に参加するのは多くが大商会と呼んで差し支えない商会であるし、少数もベンデルーン商会よりも大規模に展開している商会だ。


 つまりベンデルーン商会が参加するのはあまりにも場違い、そういう他なかった。


「簡単に言っちゃえば私欲……というか私事かな。ベンデルーン商会の会長が私と似ているところがあるからだよ」


「……失礼ながら、あの者とクロエ様では何もかもが異なるかと」


 オブラートに包んではいるが、ガリウスの言いたいことはこうだ。


 主人であるクロエ・フリーデンとルミナ・ベンデルーンでは、全てにおいて格が違う。

 当然クロエが上、という意味で、だ。


 ガリウスは端的に言えば、クロエの信奉者に近しい。故にこれは偏った意見だろう。だが、仮にアンケートを取ったのなら、こうまでは言わずとも大なり小なり、ガリウスに近しい意見を持つ者が殆どであろう。


 それほどまでに、クロエとルミナの間には隔絶たる差があることは明白だった。


「そうだね、似てない場所を挙げればキリがないよ。外見はもちろんのこと、彼女のある種、自己犠牲的な考えは理解出来ないし、商売の仕方も全然違う。才能は自らで判断出来ないからなんとも言えないけど、少なくとも現時点なら私の方が圧倒的に立場は上かな」


 ベンデルーン商会の会長、ルミナ・ベンデルーンの立場は街の長にも匹敵する。だが、世界最大、最高とまで呼ばれるフリーデン商会の会長ともなれば、規模が違う。フリーデン商会長の立場は、一国の王……それも時に七大国の王にも匹敵するのだ。


「けどね、あの見栄っ張りなところはそっくりだよ。化粧っ気も特にないのに、何処か見栄っ張りなんだ。私と彼女はね。商人にしては珍しいんじゃないかな、着飾るわけでも、他者の目に敏感なわけでもないのに、誰かに……いや自分に見栄を張ってるんだ。


 後は……喋り方とか? 結構似てると思うよ」


 ガリウスに向けて微笑みかけるクロエは非常に美しく可愛らしい。

 だが、内容のそれはガリウスにとっては到底理解出来るものではなかった。きっとそれはガリウスだけでなく、当の本人達にしか理解出来ないのだ。


 それが表情に--というよりは雰囲気で察したのだろう。クロエはクスリと微笑んで、言葉を紡ぐ。


「それに案外侮れないと思うよ。彼女ももしかしたら、オニキス側の人間かもしれないしね」


「それはどういう……?」


「あの子、最後の魔導書兵器と契約した青年……『一忌』と接触したらしいよ」


「むっ……それは、誠ですか?」


 言ってからガリウスは自身の発言を悔やんだ。主人の発言を疑ってしまったのだ。

 だが、当のクロエはそれを気にした様子はない。


「誠、だよ。レイにも確認を取ったから間違いない。まぁ接触したのは、『一忌』とされる前だったみたいだけどね」


「……それでレイは何と?」


「いずれ邂逅するだろうけど、今じゃないってさ。下手に干渉すると死ぬからって。言った後に邂逅する前に死ぬ可能性もあるけどねははっ、って笑ってたよ」


 特徴的な黒髪を弄りながらそう宣う姿が最も容易く想像出来てしまい、思わずガリウスは額を抑える。



「私もいずれ逢うのかな」



 この世界には、明確に国に属しているわけでも無しに、かといってフリーデン商会のような莫大な財もナシに、この世界に多大な影響を及ぼせる天使の名を語る七人の存在がいる。


 一般の者の多くは知らないが、その影響力は七大国にも引けを取らない。それどころか、七大国以上だろう。当然フリーデン商会を持ってしても影響力だけに限っていえば、太刀打ち出来ない。


 詳しい素性などはいくら調べても出て来ず、分かっている情報は名前と容姿、加えて少なくとも六百年前にはこの世界に影響を及ぼしていたこと程度。


 目的も、出生も、分かっていない。分かっているのは彼等が恐ろしいまでに強く美しく、それこそ天使のように欠点がないということ。


 人は--と言っても知る人は少ないが、彼等を知る人物は彼等をこう呼ぶ。



『七聖』と。



 そして、公に公表されてはいないが、そんな者達に密かに危険視される三名の人物がいる。

『七聖』ですら警戒しなければならない者。禁断とすら呼べるほどの力を持つ者、と認識され、『忌み』という言葉を用いて呼ばれている。



 三忌『レイ・ヴィ・クルセイド』



 二忌『アルカ・ハイドール』




 そして、最近になって現れた……否、最後の一人はつい先日更新された。




 一忌『クオン・ミショウ』




 これは非公表だ。決して、指名手配のようなものではない。加えて、この情報を知る者はこの世界でも極一部だ。


『七聖』が彼女等に直接手を下すことは殆どないと言っていい。


 故に、それは密やかな警戒と訓告程度の意味合いしかない。


 だが、ただ一人、『一忌』とその契約魔導書兵器に限り、様々な国で、警戒体制と手配が『七聖』の名によってなされている。当然、それを受諾していない国も半分近くあるが。

 何故『一忌』のみなのか、理由はフリーデン商会の情報収集をもってしても不明。


 危険度で言ってしまえば、『一忌』は『二忌』アルカ・ハイドール及び『三忌』レイ・ヴィ・クルセイドには到底及ばない。だというのに、危険視されているのは『一忌』なのだ。

 もしかすると、『一忌』はそういった宿命なのかもしれない。かつて『一忌』であった女性もその身を追われていた。



「会わせたくありませんが、必ず会うことになるでしょうな。……邪魔になるようであれば排除するのみです」


 フリーデン商会総合序列二位、ガリウスは強い。間違いなく強い。


 クロエの口からも出たレイやオニキスのような特殊な力は皆無だが、基礎能力を最大限にまで鍛え上げ、技術を磨き続けた。


 礼節、頭脳、武力、どの視点から見てもガリウスはフリーデン商会総合序列二位として恥じない実力を保持している。

 故に、商会長クロエからの信頼も厚い。


「ははっ、なら安心だ。その時はお願いするかもね」


「ハッ! お任せを」


「さぁて、小休憩もそこそこにお仕事お仕事っと。ニンジャから上がってきた昨日の資料3と6はガリウスも目を通しておいて」


「御意に」



九◯財閥みたいな感じ。



というわけで3章終了です。

ようやく序章も終わり、ここから少しずつ面白く、また主人公達も強くなっていきますので楽しみにいただけましたら有り難いです。


少々長くなってしまいましたがこれまでお付き合い頂き有難うございました。毎日更新は終わりですが、不定期に更新していきますので、これからも応援して頂けると幸いです。


やる気・モチベーションに繋がりますので、続きが気になる方・面白いと思って頂けた方がいらっしゃいましたら、評価・感想等宜しくお願いします。



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