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63 決闘開始

 


「ほれ、そろそろ時間じゃ。行くぞ、クオン」


「ん? もうそんな時間か」


「……時の流れとはほんに早いものじゃの」


『……全くです』


 いやそんな深いこと考えて言った言葉ではないから。いきなりそんなしんみりしないで欲しい。


 見た目は全くもってそうは見えないが、二人ともかなりの歳だから、言葉の重みが違う。


『今、失礼なことを考えませんでしたか?』


(いや全く)


 レアの詰問にすっとぼけつつ、時の流れに想いを馳せ続ける長老と決闘の舞台へと向かっていく。


「……いよいよじゃな」


「ああ」


「御主はワシャが言うのもなんだが、頑張っておったよ。勿論、それが必ずしも報われるとは口が裂けても言えんがな」


「優しくしちゃダメだぜ、長老さん。まだ終わってもないのにさ」


 優しくされたい。けど俺は優しくされたらきっと甘えてしまうダメな人間だ。誰かが許してくれたら、それに倣って自分自身を許せてしまう。今彼女に優しくされたら、俺は多分負けてもいいと思ってしまう。表面上は取り繕っても内心じゃドロドロに精神が腐りきってしまう。


 だから優しくされてはいけない。弱い人間だからこそ、優しくされてはいけないのだ。


「そうか」


「そうだ。だから、俺が勝った時にはドロドロに溶けるぐらい甘やかしてくれよ」


「くふふふ! そうじゃな、そうしよう! 勝ったら何でも願いを叶えてやるとしようかの。故に頑張ると良いわ」


 何でもとか気軽に言っちゃダメでしょ。つーかこののじゃのじゃに頼みたいこととかそんなないし。


『……ロリコン』


(おい、失礼なことを言うな)


 馬鹿野郎、俺が何したってんだ。何も言ってねぇだろうが。ていうか、この人どう考えてもロリじゃないだろ。少なくとも俺の倍以上は生きてるんだぞ、ババアだぞババア。ロリババァ。


 内心で毒付くと隣を歩く長老が若干ホラーめいたギョロリと首を回して此方を向いた。


「失礼なことを考えておる気配がするのう」


「お婆ちゃん、肩揉みでもしようか?」


「おっ、ありがたいの。最近どうも肩が重くてな、って誰がお婆ちゃんじゃ! ワシャはまだどう見てもまだお姉さんじゃろ!」


「はいはい。見た目も中身もお姉さん要素ゼロだよ」


 プンスカプンスカしている長老がズンズンと歩みを進めていく。

 そして見えてくるは、決闘の舞台。石で作られた簡素な決闘場のお目見えだ。


 もう既に相手陣営も味方陣営も粗方揃っている。


 そして周囲の空気が先ほどまでと違う。


 柔らかい雰囲気だった先程が嘘のように、全身がピリつくような攻撃的なオーラを両陣営が放っている。

 陣営ごとに分かれ、舞台を挟み込むようにして互いに睨み合う。


『少し怖いですね……。それほど本気だということでしょうが』


 レアの言う通り、その本気度合いというべきか、気合いみたいなものがヒリヒリと肌を焼くほどに伝わってくる。決闘という名は伊達ではないということだろう。


「フィア達は?」


『少し前に村の方が呼びに行ってくれましたので、そろそろ……っとちょうど来たようですね』


 木々の間を抜けて、フィア達がやってくる。

 あまり目立たないように試合直前まで隠れてもらっていたのだ。


 試合中ならば驚きはあってもフィア達について聞かれることはない。

 この村の人は命の恩人である程度信頼しているが、今日会ったばかりの相手を信頼できるわけもなく、少しでもリスクを減らすためにそうしていたわけだ。


「ふぃ!」


「チュン」


 寄ってきたフィアとヒトヨが肩に乗ってくる。片側に乗られると変な凝り方をするけど、両肩に乗ってくれると吊り合いが取れて丁度いいや。


「ーー」


「アイヴィスも来たな。さて、そろそろ始まりそうだから静かにな」


 アイヴィスが少し後ろで立ち止まり、コクコクと頷いたのを見てから前を向いた。


 視線の先ではいつのまにか長老とトメルが舞台に上っている。


 元々静かだった空間が更に静寂に包まれ、聞こえるのは木々を揺らす風の音だけ。だから、マイクも特にない彼等の声も良く聞こえた。



「さて、始めるとしようかの」



「ルールは殺し以外基本的に何でもありで、ただし場外もありの、いつも通りの決闘だッ!!!」



 うおおおおおお!!!!!! と俺たちと舞台上の二人を除く全ての人が耳をつんざくばかりの怒号のような雄叫びを上げ、思わず耳を押さえた。




「出場者ッ! 前へッ!!」




「行く、ガウ」


 いつのまにか俺の横にいたミーラが舞台にあがっていく。

 伝心でアイヴィスに続くように伝え、ミーラの後を追い、舞台へ上がった。


 俺が舞台へ上がると喧騒がどよめいた。いや正しくは俺の肩に乗るフィアとヒトヨ、そしてアイヴィスを見て、だ。


 同じく舞台に立ったマリフィス達も軽く目を見開いている。


 しかし広がった困惑がそれ以上の騒ぎを生むことはなかった。村同士の争いに第三者が入り込むのだ。疑問を呈されることも俺への罵声の一つや二つは覚悟していたというのに。


 フィアとヒトヨに肩から降りてもらい、ミーラの横に並ばせ、俺は最後尾へ。なんとなくこれが戦う順番に沿って並んでいることは察しがついたのだ。



 俺達はミーラを先鋒にフィア、ヒトヨ、アイヴィス、そして最後のしんがりが俺だ。



 相手はマリフィスを先頭に、ヒュー、ウルカ、レヴィン。



「双方、向かい合え!」


 相手陣営の五人目は未だ来ていないようで、俺の目の前には誰もいない。


 試合までに間に合わなければ不戦勝。決闘としては不完全燃焼になるだろうが、勝てるならばそれでいい。

 ……ただ、そう簡単にはいかないだろうなと何処か心の中で察していた。


 俺以外の面子は向かい合った同士で睨み合ったり、実力を見定めようとしている。


「これより、祠を巡るくだらん決闘を始める。互いに悔いだけは残さぬようにの」


 礼をするわけでもなく、握手をするわけでもない。


 ただお互いに戦うべき相手と向かい合う。それだけ。



「先鋒以外は舞台を降りよ。これより第一回戦を始めるからの」



 そうして決闘は静かに幕を開けた。





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