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60 俺強化週間佳境

 


 ついに明後日が決闘本番となった今日、俺は空を飛んでいた。

 というか落ちていた。


「グエッ! ぉおおおおおお!!!! 背中がいてぇ!!!」


[だ、大丈夫ですか!? クオン!? ミーラ! 手加減してあげてください!]


「してる、ガウ」


[それはそうなんでしょうけど! もっとしてあげないと決闘に出る前にクオンが死にます!]


 やめろ、その言い方。事実ゆえに俺がちょっと傷つくから。


 長老にされたアドバイス通り、昨日の戦いを参考にミーラと組み手、というか模擬戦をやってみたのだが、かれこれ七回だ。


 何がって、俺が空を飛ばされた回数だよ。


「大丈夫? 俺の背中と頭かち割れてない?」


[安心してください、そして感謝しましょう。丈夫に産んでくれたご両親に]


「感謝はするけどさ、大事な身体が傷だらけになってるし、頭打ちすぎて馬鹿になっちゃうよ」


[元からなので今更では?]


 このやろう、言ってくれるじゃねぇか。後で絶対叩いたるからな。


 立ち上がり、背中に付いた砂を払う。


 昨日の映像のおかげで対人戦のやり方を多少は掴んだ気になっていたのだが、そう上手くいくわけもない。


 ミーラは単純そうに見えて、フェイントだって使ってくる。俺は最も容易くそれに引っかかる。殴られそうになれば身体が反射的に防御行動をとろうと身体が硬直してしまう。


 それに何より、



「クオン、腕気にしすぎ、ガウ」



 動かない左腕が俺の意識を引っ張っていく。



 左腕さえ動けば防げる攻撃を防げない。それがもどかしいと同時に集中を妨げる。

 動かないと分かっているつもりでも、今までの価値観というか「動く」という固定観念が脳にこびりついている。


「分かってはいるんだけど、どうしても気になっちゃうんだよなぁ……どうしたらいいと思うよ」


「腕、ちぎればいい、ガウ」


「やめよ? すぐ狂気的な解決法出すのやめよ?」


 しかも解決はしないだろ、それ。間近な悩みの種が消えるだけで、新しい悩みの種が増えるわ。


[すみません、私には腕がないもので……]


「うん、まぁ、知ってた」


[…………なんか釈然としませんね]


 若干拗ね目のレアは置いといて、ミーラと再度向かい合う。


「次、ガウ?」


「たりめぇよ!」


 俺とほぼ変わらない体躯。筋肉質ではあるものの、細身で女性らしさを残している彼女。



 正直言って、負ける気がしない。


「行くぜ!」


 地面が削れるほどの勢いで駆け出し、容赦無く拳を振るう。人相手だとか、女性だとか、そんなものお構い無しの俺に出せる本気の一撃。

 アイヴィスに教わり始めたからだろう、自分でも驚くほどにその拳は鋭く速い。



 元の世界だったら批判の的、間違いなしの行為。


 しかし、そんな常識が通用するほどこの世界甘くはない。

 魔法も存在し、多種族が暮らすこの世界において、見た目など強さを測る物差しになどなりやしない。


 性別で強さは決まらない。

 屈強な男を女児のような子供があっさりと跪かせるのがこの世界だ。




 ミーラが最小限の動きで拳を躱す。


 すぐさま追撃を仕掛けるが、足下がお留守になっていたようで簡単に掬われる。


「--ッ!?」


 声にならない声を漏らしながらも、右手で地面に触れ、跳ねるように距離を取って体勢を整える。


 模擬戦中、ミーラから攻めてくることはない。強者の余裕かと最初は思っていたが、何度か模擬戦をしているうちにただチャンスをくれていただけに過ぎないことを理解出来た。


「シャッオラッ!!!」


 今出来る身体強化を全力にして、ミーラ目掛け拳を再度振るう。


「安直、ガウ……ッ」


 と見せかけて、ミーラには当てず、振るった拳の勢いで身体を回して、回し蹴りを放つ。

 俺にしては頭を使った攻撃にミーラも一瞬面を食らったようだったが、すぐさま対応され弾かれた。


 体勢を崩したところにお返しとばかりに頭に蹴りが飛んでくる。俺にとっては驚異、されどミーラにとっては十分に手加減した一撃。


 それをギリギリで避けて距離を詰めることで、超近距離での戦闘に移る。




 ここまでが、魔導士が相手である可能性を考慮したシミュレーションだ。




 魔導士、魔法使い、もしくは魔術師、色々な呼称があるが、魔法を主に使って戦闘をこなすものを総じてそう呼ぶ。


 そんな魔導士が相手の場合、近接戦闘に持ち込むのが有利とされているが、それよりもさらに距離を詰めるいわば超近接戦闘に持ち込めるのが最善だ。

 魔法を使うには多少の時間と神経を消費する。だから主な魔導士は的から距離を取って魔法を行使し、戦闘を行う。

 故に近接戦闘を苦手としている。

 もちろんそれすら克服している例外もいるが今は置いておこう。


 また、超近距離であれば例え魔法を行使したとしても魔法の衝撃、爆発なんかで、自傷することになってしまう。多くの魔導士はそれを恐れて魔法を使える状態だとしても近づいてこられるとおいそれと魔法を使えない。


 だから魔導士を相手にするときには兎にも角にも近づくことが大事ってわけだ。


 本来であれば魔法を避けるところから始めるべきなのだが、決闘会場が昨日見た石の舞台だとするならば、そこまで広くない。せいぜいが一辺十メートル程度。そのぐらいの距離ならば、先程言った例外にでも当たらない限り、身体能力だけは一丁前の俺にかかれば魔法発動前に詰められる。だから警戒すべきは抵抗されて距離と時間を稼がれること。


 だから魔導士想定の模擬戦を行っているわけだ。もちろん、後で魔法を発動された場合も想定しての模擬戦も、するんだけど。……えっ? ミーラは魔法を使えるのかって? ……石でも投げて貰えばそれで特訓になるでしょ。



 まぁ、そんなわけでここまでが魔導士想定。そして超近接戦闘に移ってからは拳闘士、ひいては近接職想定な訳だ。



「シッ!!」


 俺が拳を放てばミーラに止められ、ミーラが手加減して拳を放てばどうにかこうにか俺が脚か右手で止める、もしくは躱す。


 右手で攻撃しておきながら、ミーラの攻撃の場所によっては右手で防がないといけないから、右手側は大忙しだ。


 最初はどう攻めるか、どう攻めたら相手が困るかを思考しながら攻撃を仕掛けることが出来るが、時間が経つにつれ、どうすれば攻められても防げるか、どう攻撃すればすぐさま反撃に対処出来るかに思考が変わっていく。


「くっ……!!」


 そうして攻めきれないことでミーラに手数を与えてしまい、


「ガハッ……!!」


 押し負け、空を飛び地面を無様に転がる。


[クオン! 大丈夫ですか!?]


「つぅ……なんとかな。受け身は上達してるみたいだ」


 いっつも投げ飛ばされたり、叩き落とされたりしてるおかげでな。


「さっきより、良くなった、気がする? ガウ!」


「曖昧だなぁ……」


「弱くて分かんない、ガウ」


「正直だなぁ……」


 弱体化しているミーラがかなり手加減してなお、負けてしまう俺。ミーラを褒めるべきか、俺を笑うべきか。恐らく両方だろう。


[左腕への意識はだいぶ薄れた気がしますが、純粋に左腕がないことで攻撃に手が回っていませんね]


「間違いねぇな。逆に防御捨てて攻めの一手で行ってみるか?」


[それはそれで問題が多そうですが……]


「……だよなぁ」


 立ち上がったというのにもう一度寝転がり、木々の隙間から覗く空を見た。



 フィアにヒトヨ、アイヴィスはどんな鍛錬をしているのだろうか。

 俺は俺と一緒にいる時のあいつらしか知らない。俺といない時の召喚獣達はどんな感じで過ごしているのだろうか。一応ではあるが主人である俺がいないことで少しは肩の力を抜けたりしているのだろうか。



「もうやめる、ガウ?」


 若干の残念さを含ませ眉を少し落としながら、ミーラが俺に問う。


 ここでいう残念さとは、失望とか俺に対しての落胆とかそういったものでなく、純粋に俺という良い玩具で遊べないのかというガッカリ感のことだ。


「ミーラには悪ぃけど日暮れまでは付き合ってもらいたい」


 俺がそう告げればミーラの口角がニマァと三日月のように弧を描いた。熊の獣人だというのに、猫が遊び相手を見つけた時のような表情だ。


 ミーラとの模擬戦を始めたのが大体午前八時、そして今が丁度お昼前ぐらい。ざっと数えて後五時間程度。きっと日暮れの頃には俺の足腰は崩壊していることだろう。


[私に出来ることがあればなんでも言ってください]


 頼りになるサポーターも付いていることだし、なんとかなるだろ。



「今日中になんとかミーラに一発入れてやるッ!」




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