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59 俺強化週間中盤

 


「うぉぇっ……! マ、ジで吐く……。だ、誰だよ……気合と根性で頑張るって言ったやつは……」


『誰も言ってないと思いますが』


 強いて言うなら心の中の俺です。後で絶対ぶん殴ってやる。


 冷静に考えなくても、剣の素振りだけで泣き言たらたらなのに、拳の素振りを追加して大丈夫なわけがない。

 そんな考え無しがいるとは信じられないぜ。俺だよ、ぶん殴るぞ。


「ゼハー……ぇ、で? 今日俺を鍛えてくれるのは誰なんかね? 昨日はアイヴィスだったしヒトヨ?」


『いえ、今日はクロリアンテだそうですよ』


「クロリ……長老か」


 にしても、これはヒトヨの方から自分の番をズラして貰っているな。アイヴィスとの交代は判断に困るが、長老との交代は間違いないだろう。


 決闘会場は相も変わらず、森の中。空中戦を得意とするヒトヨにはどう足掻いたって厳しい戦いになる。

 鷲モードのヒトヨは巨体だから空を自由に飛べないとなると機動力は間違いなく落ちる。


 ヒトヨも勝つために試行錯誤しているのだろう。




 * 




「わざわざ悪いな、俺のために」


「良い良い。ワシャらのためでもあるからの。手伝うのは当然よの」


「で、何を教えてくれるんだ?」


「何、未熟な御主に戦い方というやつを参考にさせてやろうと思うての」


 長老は、感謝するんじゃぞ、と無い胸を軽く張る。


[ふむ、クロリアンテがですか。私はてっきりそういった類のことは苦手としているかと思っていましたが]


「まあ、ワシャがバチバチのイケイケというわけではないのは間違いない。今のワシャはひたすらに年の功を活かすことしか出来んからの」


「昔は違ったような言い草だな」


「そりゃあのう、ワシャじゃて若い頃はバチバチだったわ」


 長老が、過去に想いを馳せるように遠くを見つめる。


 俺の胸ほどまでしかない身長で凶悪な魔獣達と渡り合う彼女の姿は俺では想像し難いが、この世界ではそれほど珍しい光景ではないのかもしれない。長老よりも圧倒的にちっこいフィアがアレほどの強さを誇るわけだしな。


[先程の言い方ですと、昔はそうでも今はそうではないということですよね? どうするのですか?]


「ふふふは! まあ見ておれ、コントレア殿。クオン、御主はそこに座れ」


 長老に言われるがまま、地面に胡座をかいて座り込む。


 が、何が起こるわけでもなく、長老も何かをする気配を見せない。


「座ったけど、これでどうせいっちゅうんじゃ」


「……もう少し、あと少しじゃよ」


 それから数秒後、長老は手で印を数度組み、それを発動させた。


「幻真招来」


 発動したその魔術は、煙のようだった。モヤのような桃色がかった煙が揺蕩い、ゆっくりと俺の方へと向かってくる。


 長老を一瞥すれば、動くなと目で訴えかけてきていた。


 煙は俺の元へと辿り着くと、揶揄うかの如く、顔の周りをクルクルと回り、抱擁のように優しく包み込んだ。



「--ッ!?」



 瞬間、視界が切り替わった。映るはここではない何処か。そしてそこでは誰かが争い合っている。


 石で出来た舞台の上で、何処か見覚えのある熊の耳を生やした露出多めの少女と、猫耳を生やし細長い尻尾をウネウネと揺らす少女が激しい戦闘を繰り広げている。


 それもかなり高度なもので、元の世界にいた頃よりずっと身体能力が強化された俺でも目で追うのがやっとなレベル。

 もしも二人のうちどちらかと戦うことになれば、俺単体では負け確実だろう。



「見えておるかの、クオン」


 声が届く。視覚は俺のものでは無いけれど、聴覚はそのままらしい。


「それはワシャの記憶じゃよ、つい最近、三年前の記憶よ」


 三年前を最近のことと称するのは違和感があるが、それは置いておいて。


 凄い魔法だ。他人に過去の記憶を見せるなど、魔法について造詣が深いわけでは無いが、そう簡単に行使できる魔法で無いことは察することができる。


「何となくじゃが御主、人との戦いに慣れておらぬじゃろ? 故に学び。掴む。少しでも勝利の糸をの」


 長老が話しているこの瞬間も、俺の視界に映る映像は動き続けている。


「気づいておると思うが、それは前回の決闘……ミーラの試合じゃ。その頃のミーラは最盛には劣るがかなりの実力。参考にするにはちょうどいいと思うぞ」


 ああ、何処かで見覚えがあると思ったら若かりし頃のミーラか。ということはまだ少女と呼べる頃のミーラと戦っている猫耳の女の子が、相手側のナンバーワン実力者だった女の子なのだろう。


 決闘では殺しは無し……のはずなのだが、戦う二人を見ているとそうは思えない。

 お互いの顔には殺意がこびりついて見えるし、お互いがお互い、急所を狙いあっている。


 俺が人と戦った回数は本当に数えるだけしか無い。ミカと……あとは白き者だろうか。どちらも戦闘と言えるものではなかった。


 だから唖然とする。人と人との戦いはこんなにも苛烈なのかと。人はここまで自由自在に動けるものなのかと。

 二人の拳が交差する毎にその場に実際にはいなかった俺でさえ衝撃波を感じ、石で出来た舞台に傷が付く。

 きっとこれでも地味な方なのだろう。二人の間には魔法が飛び交っていないのだから。


「……」


 俺が戦えるビジョンが浮かばないが、それでも必死になって目に焼き付ける。少しでも自分の力となるように。






 モヤが晴れ、視界が元に戻ると、レアが寄ってきて俺に問う。


[どうでしたか? 参考になりましたか?]


「おうよ、参考になったんじゃねぇの?」


[なんで疑問系なんですか……]


 いや、参考にはなったけど実戦となったらどうなるか分からないし、正直体が動く気がしない。それに片手が使えないのがどう作用するか。


「さて前回の決闘を後二、三試合見せようかの。そして学んだことを明日、ミーラと組み手でもして試してみると良いわ」



「……おうよ! よろしく頼む!」



 決闘当日まで残り二日。




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