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58 俺強化週間開始

 


 それから、俺と俺達の修行が始まった。


 残り六日のうち、一日目はミーラとの手合わせもあったせいか、作戦会議と方針決め、基礎鍛錬で幕を閉じた。



 そして本格的に修行が始まった二日目。


 俺はレアとフィアと一緒にいた。


 俺の実力不足を嘆いたみんなが考えた《俺強化週間》。一日おきに召喚獣がそれぞれ俺を鍛えてくれる。臨時サポーターにミーラと長老を揃えたスペシャルプランだ。

 当日の俺担当以外の人は各々で鍛えてもらっている。

 つまりは俺たちに珍しく、どころか初めてかも知れない別行動だ。


 まぁそんなこんなのスペシャルプラン、一日目がフィアというわけだ。


 ちなみにではあるがアイヴィスとの朝練は、スペシャルプランだなんだは関係なく毎日続く。今日もめっちゃ素振りした。

 だが、アイヴィスは何か悩んでいるようで何度か考える素振りを取っていたのを覚えている。なんとなくだが嫌な予感がしている。


「さて、フィア先生。今日は一体何を?」


「ふぃふぃふぃ、ふぃーふぃふぃ」


「うん、さっぱりわからん」


「ふぃ!??」


 フィアが悲壮と驚愕を合わせたかのような顔で俺を見る。


「冗談だよ、アレだろ。魔法だろ、こう、風魔法的な」


「ふぃ?」


 違ったわ。ふむ、そうなると何だろうか。


「ふぃふぃふぃ、ふぃふぃふぃ!」


「左腕を、うんうん、魔法……あぁ、魔力か。魔力を全身に……」


 ふむ、なるほど。


『クオンは左腕に魔力を流せば、比喩でも何でもなく爆発しますからね。身体強化できません。しかし、決闘の際身体強化は必須』


「ボンッッ!!!」


「ふぃっ!?」


『ひえっ!?』


 とならないように、魔力を左腕に流さない技術を教えてくれるわけか。


[……フィア、この人には左腕に魔力を流す方法を教えましょう]


「ふぃ!」


「ねぇ、洒落が洒落になってないよ? 脅かそうとしたのは悪かったから、冗談にならない冗談はやめよ?」




 一日目はそうして魔力操作を教わり、何とか左腕に魔力を流さないように身体強化を出来るようになった。






 二日目。


 二日目の担当はヒトヨ……のはずだったのだが、俺を待っていたのはアイヴィスだった。


「あれ? アイヴィス? ヒトヨはどしたよ」


「ーー」


『諸事情で変わってもらったとのことですね』


 ヒトヨの事情でアイヴィスに変わってもらったのか。それともアイヴィスから変更を申し出たのかは分からないが、何はともあれ予定変更らしい。

 ヒトヨが俺に何を教えてくれるのか、若干気になっていたところではあるが、まぁ何か事情があるのだろう。決闘までの間、ある程度の自由を許可したのは俺だし、この俺強化週間も善意で行われているもの。文句はない。


「さっきぶりだけど、また素振りか」


「ーー」


 そうして腰に差してある剣を抜こうとした俺の手をアイヴィスが止める。

 そして、その場でシュッシュっと身体を動かしシャドーを始める。


「アイヴィス、決闘が近いから遊ぶのは後」


「ーーッ!?」


「遊ぶのは後」


「ーー、ーー!?」


 違いますから! 遊んでませんから! と必死になって全身を使って表してくる。


[クオン、アイヴィスを揶揄うのはやめてあげてください]


「ーー!??」


 アイヴィスが、えっ、私遊ばれてたんですか!? みたいな感じで自分を指差して俺とレアを交互に見る。


 言葉に出すとそれを認めることになるから出さないけど、そうだよ。反応が大きいから見てて面白いんだ、仕方ないね。


「で、剣じゃなくて素手を鍛えるのには何か意味があるのか?」


「……ーー」



 若干不満そうなアイヴィスが言うには(まぁ言ってはいないけど)、両手で握るのに比べて片手で握る剣は当然っちゃ当然だが、弾かれやすいそうだ。


 特に俺は剣に関して素人中の素人。それに加えて元の世界でスポーツとか運動は頻繁にしていたがこの世界じゃ筋力もない方に分類される。身体強化もまだまだ技術不足。

 そんな俺が片手で握る剣など存外容易く弾かれてしまうと言う。


 これから毎日アイヴィスの鍛錬を行えば、技術も筋力も身に付き、徐々に無くなっていくというがそれは一週間やそこらでは身につくものではない。


 決闘の際、俺はほぼ確実に剣を途中で手放すことになるだろう。魔法は発動までに時間も掛かり、威力も低いため決闘では使い所が限られるだろう。


 なれば、少しでも勝利の確率を上げるためにはどうするか。付け焼き刃だろうと、剣がなくとも闘える土台を作ること。




 それがアイヴィスの出した答えだった。


 最近、素振りの時間に悩んでいたのはこれについてだったのだろう。




「……正直なところ、俺に勝ち目はあると思うか?」


 アイヴィスとレアに問う。


[相手次第なのは間違いないですが……今のままではCランク冒険者程度の実力者が出てきた時点で恐らくは……]


「ーー」


 アイヴィスもレアの言葉に全面的に同意のようで上半身をペコペコしている。


「そうか」


 元々の、左腕を失わず、かつ身体に不調を抱えていなかった俺ですら、Cランク下位と同等か、劣る程度だったのだ。今の俺ではCランク以上の実力者が出てきた時点で負けは濃厚--どころか確定に決まっている。



「……」



 ただでさえ、弱かったのに……また弱くなった。積み上げるのは時間をかけて、なのに瓦解は一瞬。



 幾度も幾度も、考えさせられる。この世界に来てから何度も何度も、自分の弱さと不甲斐なさに向き合わされる。



「……とりあえず、やってみるか」


「ーー」


 腰にぶら下げていた剣を木に立てかけて、アイヴィスの助言に従い、構えを取る。隣ではアイヴィスも同じ構えを取っている。


[突き出す拳とは逆の足を引いて、腰を軽く落とし、拳を真っ直ぐ突き出すと同時に下げた足を前に出す。大まかに正拳突きと呼ばれる技ですね]


「ふっ!」


 息を吐き出し、拳を突き出す。シュッと風を切るような音を出しながら、進んだ拳は腕が伸びきったところでぴたりと静止した。


 と、隣からパンッと風船を勢いよく割ったような破裂音が聞こえた。


 見れば、俺と同じ体勢のアイヴィスが……。


「えっ? 今の音、アイヴィスのパンチ?」


「ーー」


 俺が問いかけると、アイヴィスが再度拳を突き出す。そしてまたパンッと音が鳴った。


[す、凄いですね。私は武技や戦闘技術には精通していないですが、それでもクオンの拳とは明らかに違うのが分かりましたよ]


 一切の乱れのない綺麗すぎるほどのフォームと動作。そこから放たれる拳は俺の拳とは比較していいものでは無い。


 そして何より、動きに慣れが見えた。何千、何万回も繰り返してきたのではないかと思えるほどの慣れが見えたのだ。

 剣の素振りの時もそうだった。一切の澱みなく、まるで歩くのと同じくらい自然に行われる素振り。


 それは何も知らない俺やレアすら驚かせるほどで。


 俺もアイヴィスの素振りを参考にして、もう一度素振りしてみる。

 しかしどうも、うまくいかない。


「ーー」


「こ、こうか?」


 アイヴィスが俺の腰や肩、足なんかに触れてフォームを調整する。


 そうして拳を突き出しては、アイヴィスの指導が入り、フォームや動作を少しずつ変えていく。


 それを何度も繰り返して、アイヴィスから妥協点をいただき、一度休憩することになった。





 休憩時間に一人元気にシャドーをキメるアイヴィスに話しかけた。


「……今日だけじゃ、付け焼き刃にしてもガタガタ過ぎんだろ。朝の素振りに拳も追加で頼むよ」


「ーー!?」


「俺なら行ける。絶対! ……たぶん。きっと……いつか……そんな気がする」


[自信無さすぎませんか?]


「いやまぁ、行ける! つーかやる! やんなきゃいけないだろ!」


「ーーッ!?」


 アイヴィスは剣の素振りでひいこら言ってるのに大丈夫かと心配してくれているようだが、根性だ、根性。やるとやらないの二択じゃなくてやるしかないの崖っぷち。もう、そうなったら気合と根性しか拠り所が存在しない。


[クオン]


「ん? どしたよ?」


[私は貴方のそういうところを気に入っていますよ]


 ぷかぷかと浮かびながら、臭い言葉を吐いているというのに照れを微塵も感じさせない。……いや、きっと照れくさいのを必死に隠しているのだろう。なんとなくだけど、それがわかる。

 アイヴィスはレア様は何を言っているのだろうと、頭にポカンとはてなマークを浮かべている。



「……まぁ、俺もだよ」



 こうやってずっとなんてことない戯言を、彼女達と話せていれたら幸福だが、時間は待ってくれやしない。


 決闘まで残り四日。


 ただひたすらに全力で。




 *




 翌日。


「ーーーーッッッッ!!!」


「はぁ……はぁ……うおぇっ……!」


[クオン、吐かないでくださいね]


 これやっぱ素振りの後無茶だわ。




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