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48 追手

 


 サモリタ王国、ハンスレイの街。


 クオンが過去滞在していた街で、ある男が冒険者と話をしていた。


 その男はいかにも紳士然とした燕尾服のような服に身を包み、風変わりと言えるつま先の丸まった靴を履いていた。

 頭には魔族の特徴とも言える角が青い髪に三本生えていることから魔族なのだと判断できる。


「その青年が持っていたのですねぇ?」


「ああ、多分間違いねぇぜ。まぁ俺はそこまで関係がなかったから絶対とまでは言わねぇけどよ」


「親しき仲だった人をご存知でぇ?」


「ヴァイガス達が……いやでも、もうこの街にはいねぇか。悪いな、そこまでは知らねぇわ」


「いえいえ、大変参考になりましたよ。これ。御受け取りくださいねぇ」


 そのふざけているような喋り方は相手の神経を逆撫でする。だが、革袋を受け取った冒険者はそんなことは気にならない。


「へへっ、悪いな」


 うきうきとその場を去っていく冒険者を見つめる男の目は酷く冷めたものだった。







「魔導書兵器がここにいたのは間違いなさそうですねぇ」


 街を時計台から見下ろし、男は呟いた。


 男が探している探し人……否、探し本がこの街にいたことはほぼ確定した。それもおまけ付きで。


「聞いていた話と違いますねぇ。契約者を見つけましたか。はてさて、いったいどうしたものでしょうねぇ」


 探し本だけであるならば、容易かったのだが契約者が出来ているとは想定外。


 男は職業柄、不確定要素を嫌う。契約者というのはあまりにも不確定要素になり過ぎる。


「あの方々に共有しておくべきですかねぇ? どちらにせよ、まだ情報が必要ですかねぇ、いやはや」


「……」


「おっとどうでしたかぁ、そちらは」


 立ち上がった男の背後にいつのまにかフードを被った人物が立っていた。男は気付いた様子がなかったにも関わらず、驚きも焦りも見せずに問いを投げかけた。


「なるほどぉ、冒険者ランクはD。ただ一ヶ月足らずで昇格しているとぉ。それはかなりのハイペースといえなくもなくはないですねぇ」


「……」


「こちらもテキトーに漁ってみましたが、悪くない反応でしたよ。明確な敵対者はおらず、ただ、総じて関係が浅いようですねぇ。多くも少なくもない額で売られてしまう程度。大した情報もなかったですがねぇ」


 男は本当に標的者の有益な情報を得ることはできなかった。戦闘法も、魔法適性も、性格すらも、曖昧な情報で象られていた。

 情報を与えないように、関係を浅く保っていた可能性も充分に考えられるほどに。


「……」


「同族喰らいの討伐、ですか。ふむ、普通に考えればDランク冒険者に倒せる相手ではありませんねぇ。魔導書の能力を使用したとみて間違いないでしょうかねぇ。攻撃魔法の増幅、それとも身体能力の向上でしょうか?」


「……」


「妖精……ですか。従魔ですかねぇ。では従属系の可能性も視野に入れねばいけませんね。問題はどの程度の従魔をどの程度の数、従えているのかに寄りますが……」


 仮に魔導書の能力が従属系統だと推測するとどの程度の強さを誇るか想像出来ない。最も厄介だ。


 Aランクが何体もとなると男達でも勝ち目が薄い。


 しかし例えAランクがいたとしても一体ならば問題ない。


「それに黒髪ですか。君はどう思いますかぁ? 勇者の末裔か、それともかの辺境国出身か、もしくはそれこそ本物の勇者様か」


「……」


「勇者は有り得ないですか、まぁ違いありませんねぇ」


 勇者は読んで字の通り勇気ある者の呼称などではない。勇者と呼ばれるには、さまざまな条件が存在し、その一つも欠けることない存在を『勇者』と呼ぶのだ。

 黒髪もその構成要素の一つではあるが、それだけで勇者と呼ばれるなど有り得ない。勇者の末裔が『勇者』と呼ばれないのにもそれが影響しているわけだ。


「ふむ、それで他に情報はありますか?」


「……」


「ほう、何者かと戦闘を繰り広げてこの街を去ったと? そして皆の記憶が曖昧だと。実に興味深いですねぇ。恐らく同業者か、あの方々か、どちらにせよ、わたし達より早く辿り着いている者がいるとは、驚きですねぇ」


「……」


「あの方々が邪魔者もいない状態で逃がすとは思えませんし、同業者でしょうか? もしくはあの方々の隷属者?」


 男が口元に手を当て、考え込む。


 この街には男達にとっても手強いと呼べる冒険者や傭兵、私兵は存在しない。なれば、あの方々にとってはなおさらのこと。そんな街で標的を逃すほど、彼等は甘くない。つまりあの方々ではない。

 彼等の隷属者又は弱き同業者であれば、苦戦はしないものの、この街に住まう者でも充分に邪魔だて可能。逃したというならば、このどちらかと考えられる。

 しかし、男の中で街の住民の記憶が曖昧というのが引っかかる。魔道具か魔法か、あるいは併用か。一人ならまだしも数人の記憶に干渉するとなると、相当高価な魔道具、それか高度な魔法技術と相当量の魔力が必要になる。そんなものを使える者が、Dランク程度、あってもBランク程度の存在を逃すだろうか。


「何にせよ、先を譲る理由には値しないですねぇ」


「……」


「ええ。それに消えたとなると、ただの逃亡ではなく転移系統……逃げられない場所か、環境でないとイタチごっこですねぇ」


 男が考え込む間、フードの人物は、時計台から街を見下ろしていた。太陽が沈みかけ、橙色の光が包む街。未だ街は賑わいを見せている。もう少し時間が経てば、この賑わいが落ち着いたものへと変わり、酒呑みや娼女によって夜の賑わいに移り変わっていく。


「……」


「ええ、行動は早ければ早いほどいいですからねぇ。夜の帳が落ちるまでに、始めましょうか」


「……」


「私達にとって、良い獲物となりそうですねぇ」


 ニコリと笑顔を浮かべる男の顔はその喋り方と同様に胡散臭い。それを見てフードの人物がどう思ったのか、喋らず表情の見えないその人物からは窺えない。


 だが確かに、その人物は小さく頷いた。


「行きましょうか、夕焼けが冷めてしまう前にねぇ」


「……」


 時計台を飛び降り、民家の屋根の上を移動する男、そして彼の後を静かに追うフードの人物。



「はてさて、待っていてくださいねぇ魔導書兵器。そしてその契約者、クオン」



 男の名はブラフ。


 その道では知らぬ者無しと言われる賞金狩り、バウンティーハンターである。





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