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36 実力

 


「よーし! じゃあアイヴィスの実力を見せてもらおうかな!」


「ーー!」


『やる気満々ですね』


 アイヴィスが腰に刺さった自身の色と同じ銀の大剣を柄を軽く押さえ音を鳴らす。

 それが合図かのように、少し離れた距離から声が聞こえた。


「ほら、来たぜ」


「ふぃー!」


「チュン!」


 その声の主はフィアにヒトヨ。そして背後には一匹の魔物。見た目は目測でおよそ四メートルに迫る体躯を誇る牛。そんな魔物を俺たちの方へと連れてきている。


『バドルホーンですか。Cランクの魔物ですよ』


「アイヴィス、Cランクだってよ。ーー行けるか?」


 言葉に返事をせず、アイヴィスはただその意思を俺とレアの一歩前に出ることで証明して見せた。


「ふぃ!」


「チュン!」


 バドルホーンとアイヴィスの距離が近づく。

 その距離、百メートル。子供であっても二十秒とかからぬ距離。ましてここは左右を木々に挟まれた森の間にある平坦な道。障害物などあるはずもない。バドルホーンの体躯と速さで有れば、十秒かかることなくアイヴィスの元へと辿り着く。


 そこでようやくアイヴィスは銀の大剣を腰から引き抜いた。自身の身長とそう変わらない巨大な剣。側から見るとそれがなお顕著に映る。思わず、手に力が籠るのを感じた。レアも同じことを考えたのか、ゴクリと唾を飲む音が聞こえた気がした。


 引き抜き、構えると同時、アイヴィスの横を魔物を引きつけていたフィアとヒトヨが通り抜け、俺とレアの方へ寄ってくる。よくやってくれたと二人の頭を撫でようとして、フィアに華麗に避けられた。やっぱり俺から触るのは無しなのね。

 大人しくヒトヨの頭を撫でながら、アイヴィスを見つめる。



 接触まで三秒。アイヴィスが地面を擦るように足を少し広げた。



 接触まで一秒。

 俺たちが目を見開いたその瞬間、


「ーー」


 静かに、静かにアイヴィスがバドルホーンの身体を通り抜けていた。


 否、バドルホーンがアイヴィスの立っていた場所を通過したのだ、自らの身体を唐竹にするという対価を払って。

 二つに割れた身体が血を吹き出しながら、支える力を失い地面に倒れる。

 それをアイヴィスは背後を振り向き確認することなく、剣を振り血を落とすと鞘にしまった。


 言葉を失うとはこういうことを言うのだろう。空いた口が塞がらないのに言葉が出てこない。見てはいないが、レアもフィアもヒトヨもみんな同じような顔をしていることだろう。


 唐竹割り。Cランク魔物バドルホーンの巨躯を一太刀で一刀両断して見せた。

 まるで達人のような剣使いを見せられた俺は口が塞がらないまま立ち尽くすことしかできない。


「ーー」


 アイヴィスがどうでしたか!? と言いたげに俺に近づいてきた。


「……どうって、そりゃ文句なしだろ……。なぁ?」


『ま、間違いありませんね……』


 文句なしどころか、予想を軽く超えてきた。想像以上という言葉がまさにふさわしい。


 リビングアーマーは本来Bランクの魔物だ。Bランクの魔物であるならば、Cランク魔物をあっさりと屠ることは容易いだろう。

 だが、Bランクの魔物であるリビングアーマーがCランクの魔物を一撃で唐竹割りにすることは可能だろうか。


 答えはNO。


 調べ聞いたところ、リビングアーマーにそこまでの技量はない。倒すことは容易くとも一撃で屠ることは容易くはない。


 しかし、彼女ーーアイヴィスは圧倒的な技にて一刀両断して見せた。


 ああ、これならーー。


「アイヴィス」


「ーー?」


「お前の実力を見込んで頼みがある」


 アイヴィスは心当たりが無いのか疑問符を浮かべた。フィアとヒトヨも同じように頭にはてなマークを浮かべている。


 だがレアだけは理解して、納得したようにああ、と声を漏らした。



「俺に剣を教えてくれないか?」



 そう、アイヴィスに向かって頭を下げた。





 *





 今回、俺が余剰な魔力を溜めることなくすぐさま召喚を行ったのは一刻もはやく剣を教わりたかったから。


 兼ねてより俺の技術がないことは把握していた。だから剣を教えてくれる人が必要だった。

 冒険者に願い、剣の教えを乞うのは簡単なことではあった。だが、俺たちは同じ場所に長く滞在することは出来ない。剣の教えが一日一夜で学べるものだとは未熟者である俺であっても思っていない。

 僅かの期間冒険者に教わり、また別の場所で違う冒険者に教わる。そんなことをしていたら、剣の技術が上昇するわけがない。勿論、才能が有れば別なんだろうが俺にそんなものあるわけもない。それに教えてくれる人にも不義理にも程がある。


 だから教わるわけにはいかなかった。


 だがどうだ。アイヴィスは技術も俺とは比べるまでもなく高く、召喚獣であるから一緒にいることができる。


 アイヴィスならば、師事するのに不満など一切存在しない。つーか不満言えるほどの立場でもない。


「詳しくは夜話させてもらうが、俺は強くならなきゃいけない。……いや強者から逃げる術が欲しい」


 戦わなくたっていい。逃げられるのならそれでいい。逃げて逃げて逃げて、それでもダメなら立ち向かう。俺達には……いや、俺には敵が多すぎる。しかも強大な、途方もなく強大な敵。


 今は見栄を張る必要がない。強くなんてならなくてもいいんだ。

 ただ生き延びる。そのために、俺はアイヴィスから剣を教わりたい。


「ーー」


 アイヴィスは少しの時間黙っていた。そして微かに声を漏らした。

 その意味を察することは俺にはできなかった。


 だが、アイヴィスが俺の手を握ってくれたことでようやく理解できた。


「ありがとう!」


「ーー!」


「私の修行は厳しいってか? おうよ、その方が生き残れそうだ、ドンと来い!」


『後で泣いても知りませんよ?』


 泣くかよ……いや泣いたら泣きながらやるよ。そん時はレアに思いっきり慰めてもらおう。


「朝か、夜……朝だな。明日から宜しく頼むぜ、アイヴィス」


「ーー」


 拳をがちりと合わせる。


「ふぃー……」


「チュン……」


「なんだ、お前らもこれやりたいのか?」


「ふぃ!」


「チュン!」


 俺はそうして、若干拗ねた様子のフィアとヒトヨとも拳を合わせた。

 フィアは、俺が拳を合わせるのではなく、構えた俺の拳に彼女が合わせる形であったけど……そこも拘るんだ、と微妙な表情をした俺は悪くないだろう。


 レアはそんな様子を微笑ましそうに、されど何処か羨ましそうに眺めていた。



 後で、拳と表紙を合わせてみるか。




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