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35 アイヴィスの剣

 


(で、どれが良さそうだ?)


『ーー』


(ふーむ、もうちょい大きめのが良いのか)


 街に戻り、武具屋でアイヴィス好みの剣を探す。


 ちなみにアイヴィスは今レアの中に送還されている。


 フィアとヒトヨに比べてアイヴィスは身体が大きいから、姿を隠すことができない。アイヴィスに頭部があれば、全身甲冑の用心深い人でなんとか通すことも出来なくはないが、実際のアイヴィスには首から上が存在しない。そんな姿を見られれば一目で魔物であるとバレてしまうわけだ。


 前も言ったが、魔物使いは確かに存在するが非常に希少性が高い。加えて、使い魔に出来る魔物には制限があるらしい。

 らしいというのは、魔物を使い魔にする方法が大っぴらに公開されていないからであって、情報が出回っていないのだ。物知りなレアでも知らないのだから相当秘匿性の高い情報なのだろう。


 つまり、俺が魔物使いであるとするのは簡単ではあるが、リスクがあるわけだ。加えて、魔物使いなんて目立つことこの上ない。それは俺の目的から反することだ。


(もうちょい中を探してみるか)


 アイヴィスが求めている剣はどうやら普通の剣ではないようだ。

 俺は剣について一家言あるわけでも見識があるわけでもないのだが、俺の持っている剣を通常形と表すとして、アイヴィスの求める剣は通常形の大凡一・五倍にもなる剣。


 俺の持っている融通を聞かせてもらい買ったこの青みがかった剣の大きさは持ち手も含めて一メートル弱。つまり彼女が欲する剣は百五十センチ、中学生の身長ほどもある剣をお求めなわけだ。


「チュン」


 あそこら辺じゃないですか? とヒトヨが小さな声で鳴き、アイヴィス目当ての大きな剣の並ぶ場所を教えてくれる。


「デケェ……」


『大きいですね……』


 その剣達の並ぶ目の前に来て思わず俺とレアから声が漏れた。


 ひたすらに圧倒されるそのデカさ。立ち並ぶ中には俺以上に大きな剣もある。


(こんなデカいの操れるのか……?)


『ーー』


(そういうことなら信じるしか無いけど……で、どれが良いんだ)


 目の前にある剣のいずれも質量というか重量は相当なものだろう。最低でも三キロ、大きいものであれば五キロを越すであろう鈍器のような剣。しかも剣を持ったときに感じる重さはそれ以上だ。大の大人、それも鍛えた男性が両手で振り回すのがやっとの剣。

 そんなものを俺と体躯がそう変わりはしないアイヴィスが操るという。

 普通であれば信じるに値しない戯言だ。


 だが、アイヴィスの言葉は戯れなどでは決して無い。


 それは何故か。


 この世界が俺の元いた世界とは違うから。

 それもある。


 魔法もあり、身体強化も可能であるから。

 それも大いにある。


 だがこの場では違う。


 彼女の心に信じられないとは思うが、自信を感じたのだ。それは自負と言い換えて良いかもしれない。

 自分ならばこの剣を操れる、操れない筈がない。自惚れにも似た自負。


 そんな自信たっぷりに返事をされては俺だって信じないわけにはいかないだろう。


『ーー』


(これでいいのか?)


『ーー!』


 四半刻ほどの時間同じ場所で悩み抜き、店主が俺を訝し始めた頃、アイヴィスが剣を決めた。


 アイヴィスの選んだ剣、それはこの店で最も大きな剣ーーなどではなく、目の前に並ぶグレートソードと呼べる代物の中では比較的小さな剣であった。

 刀身の厚みもその大きさにしては薄く、細身。軽く持ってみた感じ、四キロ弱。剣として考えるなら相当な重みであるが、武器として考えるなら一般より少し重い程度。

 刀身は俺の青みがかった剣と異なり、アイヴィスの身体と同じく全てを跳ね返すかのような輝きの銀、装飾も華美ではなくシンプル。


 値段をチラリとみる。高い、が買えない値段ではない。

 同族喰らいを倒した報酬は底をつきつつあるが、通常の討伐依頼に加え、バードニックさんからの個別依頼によって俺は再度小金持ちとなりつつあるのだ。


(じゃあこれで決まりだ)


『ーー?』


(お金の心配はしなくていい。その分働いてもらうからな)


『ーー!』


(頼むぜ、お願いしたいこともあるしな)


『?』


「すみません、これ下さい」


 剣を持って御会計へ。いや、最初四キロなんてこんなものかとか思ってたけど、ごめん、やっぱ重いわ。手が疲れた。


「……おい、お前さんが使うわけじゃないだろうな」


「たりめぇっすよ。プレゼントです」


「ならいい。お前さんが使うって話ならこの剣でその舐めた腕を斬ってるところだ」


 客に対していう台詞じゃねぇよ。それにアンタ俺より身長かなり低いからアンタも扱えないでしょ。


「今、俺じゃこの剣を使えないって思ったろ」


「……ぶっちゃけ」


「はっ! 俺はドワーフだ、見た目と違って力は人間の比じゃねぇぞ」


 ドワーフ。エルフがいる時点でわかると思うが、この世界には多種多様な人間以外の種族が存在している。エルフを始め、ドワーフもその一つ。

 彼等は身長が小さいことと見た目に反した力強さ、そして酒好きなのが特徴だ。

 俺のいた世界で創作に良く出てくるドワーフは職人気質であったが、この世界でもそれに該当するようだ。


「……ドワーフにしては身長高くねぇすか?」


「ふっ、見ろや」


 自らの足元を指差すドワーフ店主。カウンターで隠れた足元を前傾になって覗き込む。

 そこには三十センチ程度の踏み台。


「これがなきゃカッコがつかねぇわけよ」


 そう言ってニヤリと笑うドワーフ店主。うん、そんなカッコつけていう台詞じゃないと思うよ。


「ほれ、持ってきな」


 お金を払うと手入れをしてから、鞘に入れ渡してくれる。

 良し、じゃあこれでついでに依頼を受けてアイヴィスの力を確かめるとしよう。


「……ところでお前さんは防具を着けないのか?」


「え?」


「いや、お前さんも一応冒険者かなんかだろ? 見た目からスピード重視ってのは分かるんだが、それにしても軽装すぎやしないか? どう見たってただの服じゃねぇか」


 ふむ。一度、自分の服装をサッと確認した。……確かに魔物と戦う者には見えないな。俺の知っている冒険者のヴァイガスなんかは分厚い鎧を着込んでいたし、ヴァイガスと同じパーティのエルフ、リーラルなんかも革で出来たような装備を身につけていた。



 防具、か。

 よく考えなくても、着けていない俺は冒険者としてはおかしいのだろう。


 逆に何故、俺は着けていなかったのだろうか。

 理由は簡単。金がなかったからだ。正確には同族喰らいを討伐するまでは金がなかったからだ。

 武器を買うのと食費、それにポーション、宿代、それだけで精一杯だった。


 だが今はどうだろうか。金には困っていない、これから必要になる予定もない。それどころか、金が手に入るアテがある。

 防具を装備すれば、怪我をする確率も、死ぬ確率も減る。


 今は、買わない理由がない。


(悪い、俺の防具を買ってもいいか? アイヴィスの実力を見せてもらうのがちょっと遅れることになっちゃうが)


『ーー!』


(ありがとな)


『良い子ですね、アイヴィス』


『ーー』


 褒められて若干照れているアイヴィスにもう一度礼を良い、ドワーフ店主に防具を選んでもらうことにした。




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