33 プライベート
破茶滅茶に短い
バードニックさんの五つ目の依頼を達成し、三日後に来て欲しいと言う願いを聞いてから、一夜が明けた。
「もう、そろそろ頃合いだと思うんだがな」
誰にいうでもなく、宙空に向かって一人呟いた。
『何がでしょう?』
独り言のようなものだったのだが、レアが耳聡く机の枕元にある小さなチェストから浮かび上がり、俺の方へと近づいてきた。
「悪いな、起こしちまったか?」
『前も言いましたが魔導書に睡眠という概念は存在しませんので。クオンが同じように扱ってくれるのは嬉しくもありますけどね』
っとそうだったな。長いことずっと一緒に居るせいで自分と同じ存在として扱ってしまう。
もう彼此、二ヶ月近くレアと一緒に過ごしている。
しかもほぼ離れることなく、一日離れるどころか、一時間距離を取ったこともないのでは無いだろうか。
……そう考えるとやばいな。
気にしていなかったがレアやフィア、ヒトヨにもプライベートが必要なはずだ。一緒にいるのはいいがそこら辺も尊重せねば。でもそうすると追手が来た時に困る……考えものだ。
「睡眠欲も食欲も存在しないのか。人間の三大欲求のうち二つも必要ないとか本当に人間かよ」
『魔導書ですので』
「性欲もないの?」
『……ありませんが、私はこれでも女性ですよ。際どい質問だという自覚はしてくださいね』
「ぉおう、すまん……」
怒られてしまった。確かに少しデリカシーに欠けた質問だった。
『まぁいいです。それで何が頃合いなのですか?』
「あー、新しい仲間だよ。召喚獣」
『ふむ、確かに魔力量は増えていますし、そろそろかも知れませんね』
「だろ? ヒトヨを召喚してから一ヶ月近く経ってるしな。あの死ぬほどやりたくない魔力増強法をほぼ毎日やってるおかげでかなり増えてるからな」
正直、俺には増えている実感があまりないのだが。
感覚的に増えたような増えてないようなと言う感じだ。
『……』
「どうしたよ」
『いえ……きっと私がモノを知らないだけです』
「?」
寧ろクソ博識だと思うけどな。それがレアの母からの受け売りだとしても、その知識に加えてレア自身の知識もあるわけだし。
『近々、召喚出来るようになるのではないですか? それこそ明日にでも』
だといいなぁ。
次に召喚出来る召喚獣は、前にも言ったかもしれないが武器の扱いに精通しているやもしれないわけだ。しかもその確率は百に近い。
ようやっと剣に振り回されるのではなく振り回すことができるようになった俺には技術というものがない。
自分なりに工夫しているが、それでも経った一ヶ月程度の試行錯誤だ。剣技と呼ぶには程遠い子供のチャンバラごっこと大差はない。何だったら未だゴブリンの方が武器の扱い方が上手いくらいだ。
振り回されはしていないが、剣を使っているのではなく使われている感は否めない。
だが次の召喚獣が召喚出来れば、実際に武器を技で持って扱う業人から教わることができる。
技術というのは力だ。
例えば、俺がゴブリンと戦ったときのことを思い出していただきたい。
純粋なパワーでは俺が勝っていたにも関わらず、ゴブリン一体に苦労したのはゴブリンの方が武器を使い慣れていたから。つまりゴブリンの方が技術があったからだ。
技術とは身体能力差を埋める事すら可能な力。
俺が召喚獣に鍛錬してもらい、相応の技術を身につければ、それによって生きられる可能性が大幅に上がるわけだ。
うん、見た目も種族も分かってるから、前回の教訓を生かして予め名前を考えておこうかな。お世話になりそうだし。
またその場で考えるとレアが変なこと言うから。
『むっ、今何か侮辱されたような……』
「気のせいだろ。今日は依頼を受ける時、ついでに次の召喚獣について調べるかな」
『それは素晴らしいですね。……ところでクオン』
「ん?」
『私、今回の子に良い名前が思い、あっ、無視してフィア達を起こしにいかないでくださいっ! 今回は絶対クオンも気に入りますから! ニーベルンーー、って聞いてください!』




