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31 カナミの洞穴

 


 洞穴の中は薄暗く肌寒い気温であった。


 外に比べ、体感で数度下がっている。それが妙に寒く不気味に感じて、身体が微かに震えた。


 魔物やらなんやらは、全く見当たらない。もう少し奥まで進まねば出ないようなので、フィアを先頭にドンドンと奥に進んでいく。



 にしても、洞穴という割に案外明るいもんだ。


 太陽の光が明らかに届かない場所までやってきたというのに、未だ俺の瞳は暗闇以外も写している。


 洞穴の岩壁、そこに生えた苔が光を発しているようで、視界を確保することができている。バードニックさんから光を発する魔道具も貰ってきていたのだが、今のところ必要なさそうだ。


「ふぃ」


 なんて呑気に構えていると、フィアが横に手を出して、俺達に動きを止めるよう警告した。


 そして次の瞬間、炎魔法を前方に向かって発射した。薄暗い洞穴内でよく目立つその魔法は、少し先で何かに着弾し、何かーー大きな灰色のネズミの魔物が悲鳴を上げた。


「うおっ、全く気づかんかったっ!」


「ふぃ」


「悪かったよ、油断しないって。灯りもつけたほうが良さそうだな」


 薄暗い状態の人間の目じゃ、接敵に気がつくのがどうしても遅れてしまう。

 灯りを灯せばそれだけ、魔物が寄ってくるだろうが、不意を突かれるよりはいくらかマシだと判断して、バードニックさんから貰った魔道具、手乗りランタンをレアから取り出した。


 なんとこのランタンは、ピンポン球と同程度の大きさと重さで通常ランタンの倍近くの光量を発する一品だ。むしろ眩しいまである。


 ランタンを付けると先ほどまでの視界の悪さが嘘のように、先が見える。これならば接敵への反応が遅れることもないだろう。


「チュン」


「おっ、持ってくれるのか? 助かるぜ」


 レアに浮遊してもらって、その上に置こうと考えていたのだが、ランタン持ちの役目をヒトヨが自らかって出てくれた。


 [私も手伝いますよ]


「チュン!」


 そう言って収納でしまっていたランタンを取り出すために俺の手に収まっていたレアが地面と水平に俺の少し後ろに浮かび上がった。

 そしてその上にランタンを咥えたヒトヨが乗っかって……えっ、片方いらなくない? とは言わない。俺は空気の読める男だからな。


 フィアも生暖かい目で二人を見ているが、多分俺もおんなじような目をしていることだろう。


「お、おしっ、光源も確保したし行きますかねっ!」


「ふぃ」



 そうしてカナミの洞穴の奥へと進んでいく。




 洞穴に入ってから一時間ほど経っただろうか。未だ光日木らしき木を見つけることはできていない。

 魔物はランタンを利用し始めてから、低ランク魔物なのも相余っていとも容易く処理出来るようになったのだが、道が複雑で時間を取られてしまっている。情報が少ないので、正規ルートが分からない。

 故に進みやすい道に進んでいるのだが、その道が行き止まりだったりと手間取ってしまっている。


「魔物はいいが、整備されてない岩肌っつぅの? このゴツゴツした地面がシンドイな」


『そんなものですか?』


「ああ……お前らには関係ない話だよな……」


 生憎とこの辛さが分かるのは俺だけ。他のメンツは地面に足などついていないor足がまずないから。


「ふぃ」


『また魔物が来ましたよ』


「くそっ、強くないし苦戦もしないがこうも連続で来られちゃ流石にキツいな」


 俺以上に頑張っているフィアがいる以上、泣き言は言えないが多少の苦言は許してほしい。


 灯りを点けてから恐らく十数回目になる敵との邂逅。四、五分に一回のペースで魔物と遭遇してれば嫌気も差すというもの。


 これは早く光日木を見つけて帰らなきゃ、体力がいくらあっても足りないな。


 っと。


「っしっ!」


 フィアの魔法を味方の背後に隠れることでやり過ごし、特徴的な歯でフィアに噛みつこうとしたネズミの脳天をフィアの背後から突きを放ち貫く。

 この洞穴内で、大きく剣を振りかざすような攻撃方法はあまり取ることができない。だから必然的に俺の取れる攻撃方法は限られ、突きという選択が浮かぶ訳だ。


 確認するまでもないが、息絶えたかどうかを確認してから剣を引き抜いた。


「おっし、じゃあフィア頼むぞ」


 魔石を回収して、再度フィアを先頭に歩みを進める……っとようやくか。


 視界の先、そこには今までと打って変わった灯りを放っている場所があった。

 俺達の持っているランタンとも壁に生えている苔が放つ光とも違う独特な光。


「あれだよな」


『はい、恐らく光日木かと』


「じゃあサクッと採取してバードニックさんに届けますか」


『警戒は怠らずに』


 レアのこの発言は、光日木を見つけたからと言って油断するなという意味と、バードニックさんの目的が分からないから警戒しておけという意味と両方の意味が込められている。


「分かってる」


 だから俺は、今一度気を引き締めた。ここまで来る道のりが順調であったからと言ってこれから先も順調にいくとは限らないのだ。


 こうして道のりは大変であったが、採取時はあっさりと目標の物、独特な緑がかって見える光を放つ光日木を手に入れたのだった。






 光日木を手に、街へ帰る頃にはすっかり日が昇っていた。

 この後、出来れば依頼を二つこなすつもりだったのだが、間に合いそうにない。一つにしておこう。


「すみませーん! 御依頼の品取ってきましたー!」


「ひぇっ!」


 バードニックの店に入り、開口一番大きな声で奥へと呼びかけた。いつも通り奥で何かしていると思っての行動だったのだが、カウンターでうたた寝をしていたバードニックさんを驚かす形になってしまった。


「す、すみません、奥に居ると思って……」


「お、おぅ、全然問題ねぇですよっ?」


 ……喋り方大丈夫かな。とんでもない口調になってるけど。この人本当は素の喋り方隠すつもりないんじゃないか?


「で、な、何の用ですっ?」


「依頼の品を」


「あ、ああっ、ありがとうございますっ。ここに出しちゃってくださいっ」


「……これです」


 訝しく思いながらも、採取してきた光日木をカウンターに乗せた。レアが肩掛けの中から、この人やっぱり怪しくないですか、と言ってくるが正しく俺もその通りだと思う。


「おおっ、間違いなく光日木ですっ。ありがとうございますっ。ではこれ依頼のお礼ですっ」


「どうも。で、これも本当に貰っちゃっていいんですか?」


 御礼を受け取り、俺が取り出したのは照明魔道具の小型ランタン。依頼を受ける際に渡されたものだが、使ってみてその有用性を理解した。

 果たしてこれを無料で頂いてもいいのだろうか。


「是非是非っ、どうせ取って……じゃなくて貰ったものですし、私は使いませんからっ」


 今、取ってきたって言おうとしなかった? 本当の正体は世紀の大泥棒とかじゃないよね?


 気づかなかったことにしよーっと。


「じゃあありがたく」


 肩掛けにしまうと見せかけて、レアの中にしまう。


『この肩掛けの中で収納するのはコツがいるのですよ』


 と得意げに語るレアをおざなりに讃えていると、バードニックさんが恐る恐ると言った感じで話しかけてくる。


「あのっ……ですねっ」


「どうしたんすか?」


「じ、実はまた依頼をしたくてっ!」


「へっ?」


『へっ?』


 へっ?




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