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30 光日木

 


「光日木の採取ねぇ」


『光日木は魔道具作製において有用性の高い素材ですから、魔道具を自作する彼女が欲するのも納得ではあります』


 俺が冒険者と知ってバードニックさんは俺に依頼を申し出た。そのバードニックさんの依頼、それは光日木という材木を手に入れて来て欲しいというものだった。

 レアが言っている通り、彼女から聞いた話では次に作る魔道具にどうしても必要なものだそうだ。


 彼女自身には光日木を取りに行く実力も時間もないとのこと。が、時間はともかく実力に関しては怪しいところだ。

 一瞬のぞかせた彼女の身に纏うオーラとも呼べる雰囲気とあんなセキュリティのセの字もない場所で店をやっていることから考えるに彼女は少なくとも俺単体以上の実力を秘めている気がしてならない。つぅかこの世界の奴ら基本的に俺より強いし。



 なんて疑うようなことを言ってはいるが、今現在の俺は件の洞窟に向け歩みを進めている。つまり依頼を受けたわけだ。


 洞窟深くにあると言っても、今目指している洞窟には目立った強い魔物はいない。わざわざ早起きして朝からギルドに確認しにいったから間違いない、と思う。

 その割に報酬も弾んでくれると有れば、受けない選択をする必要もない。


 と俺は思うのだが、レアは何処か不服そうだ。その証拠に肩掛けをブンブンと揺らしている。


「何処か不満そうだな」


『……個別依頼である必要が思い浮かびません』


「……ま、確かにな」


 ギルドを通す通常の依頼とギルドを通さない個別依頼の大きな違いの一つに法外性というものがある。


 ギルドはギルド自体が定める法、というよりも規則から大きく外れた依頼は受諾しない。当然と言えば当然ではあるが、例を挙げるとすれば殺人、拷問、恐喝、窃盗などだ。ちなみにギルドには盗賊討伐の依頼もあるが、これはあくまでも殺人ではなく討伐という扱いで受諾されているそうな。


 なので個別依頼を申し込む場合の多くは法から外れた依頼ということになる。


 だが今回の依頼はそれに則さない。ギルドに依頼するよりも個別依頼の依頼料は割高、明らかな損失にしかならないにもかかわらず、バードニックさんは俺への個別依頼を申し込んだ。


 レアの言うとおり、確かに納得のいかない話だ。


『昨日も言いましたが、確実に裏があるはずです』


「それは聞いたが、その裏が思い浮かばないだろ」


『それはっ、確かにそうですが……分からない、だからこそ恐ろしいのではないですか! 母もいつも言っていました。未知と無知は何よりも恐ろしいと』


「安心しろって、俺の予想ではあるんだが別に大した……っとどうしたヒトヨ」


 肩に乗ったヒトヨが俺の頬を啄く。


 今回、ヒトヨに乗って洞窟を目指さなかったわけだが、それには理由がある。

 大それた理由ではなく、なるべく俺がいたという痕跡を残しておきたくないのだ。

 魔物に乗って移動していたら確実に印象に残ってしまう。


 なるべく街の人と関わらないようにしているのもそれが理由の一つだ。

 後はどうせ場所を点々とすることになるだろうから、関わる必要性が見当たらない。一人二人と関係を深めるのならいいが、それ以上は無駄なだけ。巻き込むわけにもいかないし、巻き込まれるのもごめんだ。



「あれがカナミの洞穴か」


 ヒトヨに促されて、前方を注意深く眺めてみると、そこには洞穴があった。あれこそが今回の目的地、カナミの洞穴だ。


「ふぃ」


 今回の目的の地が見えてくると同時、フィアが腰袋から出て、俺の前を進み始める。


「頼むぜ」


「ふぃ!」


「チュン……」


 任せろと胸を叩くフィアは可愛らしい姿とは裏腹に頼もしさに満ち溢れている。それとは対照的に、ヒトヨは酷く落ち込んでいる。

 その理由はカナミの洞穴でヒトヨは出来ることがほぼ無い状態だから。


 今回の主力はフィア。サポートで俺という形になる。洞穴の中ではヒトヨは鷲モードになることすら困難、故に戦闘には参加できない。


「気にすんなよ。明日の討伐依頼では嫌ってほど頑張ってもらうから」


「チュン」


 大きな痛手ではあるが、これから先もこういった状況は訪れる。敵がそれほど強くないこのカナミの洞穴で慣れておいた方がいい。


「意外と入り口は広いんだな」


 カナミの洞穴に辿り着き、その入り口の広さに驚いた。俺の洞穴のイメージでは、屈んでようやっと入れる程度の大きさと予想していたのだが、入り口だけなら大の大人が三人並んでも入れる広さをしている。


『ある程度人の手が加わっていますから』


「ま、そりゃそうだよな。けどある程度ってのは……」


 洞穴内にいる魔物を全て掃討したほうが安全で迅速に素材を手に入れることができると思うのだが。


『人の手を加えすぎると消えゆく物もありますから。今回入手しなければいけない光日木はその最たる例ですよ』


「自然遺産みたいなもんか?」


『その言葉の意味はよく分かりませんが、少し異なると思います。

 実は光日木は人工栽培が不可能と言われているのですが、何故だと思いますか?』


「……光日木の育成環境を再現出来ないから?」


 先生の顔を伺う生徒のような気持ちで、言葉を紡いだ。


『その通りです。ではどうして再現出来ないと思いますか?』


「どうしてって……その技術がないからだろ」


『質問の仕方が悪かったです。何が再現出来ないと思いますか』


 何が。木に必要なものはなんだろうか。土、だろうか。それとも酸素だろうか。それとも、


「……光、か?」


 光日木、つまり「木」である。詳しくは知らないが、木の成長には光が必要なはずだ。だが、洞窟内には光が差し込まない。ならば、何か特殊な光によって成長しているのではないだろうか。


『いいえ』


 と思ったのだが、レアは少し嬉しそうに俺の答えを否定した。くそぅ、ここで答えられちゃ質問の意味がないもんな。結構真面目に考えたのに……。


『答えは魔物ですよ』


「魔物?」


『至極当然ではありますが、魔物はその場の生態系や自然環境に影響を与えているのですよ。例えば、排泄物であったり、腐敗した死骸であったり。こと細かに説明すれば少し長くなるので省略しますが、つまり光日木は魔物が存在しなければ、育成不可能な植物だということです』


 この世界にはそんな植物や鉱石なんかが、相当数あるらしい。だからある程度自然の状態を保持して遺しているのだそう。


「でもよ、魔物を従える方法もあるんだろ。妖精使いや鳥使いなんてのもこの世界にはいるみたいだしよ。そしたら再現できんじゃねぇの?」


『考え方としては真っ当ですが、不思議なことに魔物を従えると、その魔物の性質は野生のものとは大きく異なります。ですから不可能と言われているのですよ』


 言われてみれば、その通りかもしれない。

 魔物を従えるのとは少し違うのかもしれないが、フィアやヒトヨ、召喚で呼び出した召喚獣も同種の魔物の性質とは大きく異なっている。


 フィアの種族、クレスセンテフェアリーは本来臆病な性格で人前に姿を現すことがないそうだが、フィアは好奇心旺盛で臆病な性格といった特徴を持たない。

 ヒトヨの種族、チヨイーグルは自分よりも格上の存在にすら挑む獰猛な生き物だが、ヒトヨは大人しいし、チヨイーグルにはない雀モードという能力を保持している。


 魔物を従えると召喚獣ほどの変化とまでは言わないが、ある程度性質が変質するわけだ。


「……じゃあ召喚獣と従った魔物、従魔の違いってなんなんだ?」


 従魔と召喚獣の違い。

 今の話だと召喚獣と従魔は似た性質を持っていることは分かった。では逆に異なる点は何処なのだろうか。


 召喚型魔導書はレアしか存在していない。そしてそんなレアは兵器と呼ばれ、この世界で最上位と評していいやもしれない者達に狙われ追われている。

 そんな世界に危険視される彼女によって召喚される召喚獣が、ただの従魔と変わらないなんてそんなことがありえるのだろうか。


『私も同様のことを遥か百年ほど前疑問に思いました』


「で? どうだったよ」


『我が母は進化が可能なことと、その使役方法の違いと』


「それだけか?」


『母はそうとしか……』


 本当にそうだろうか。

 フィアもヒトヨも普通とは違う特徴を持っている。だからそれが、召喚獣の従魔との違いといえばそれで終わりなのだが……どうもそれだけで収まる話じゃない気がする。


 レアの召喚する魔物、召喚獣にはもっと特別な……何かしらの共通点があるような気がしてならない。


「ふぃ」


「おっと悪いな。早速行くとしようか」


「ふぃ!」


 洞穴の前で長話をしてしまったせいで、堪えきれなくなった意気揚々のフィアが早く行こうと俺を急かした。

 逆にヒトヨは意気消沈モードだ。後で存分に働いてもらおう。


 兎にも角にも今の目標は、光日木。狭い場所での戦いに俺達は慣れていないから充分に注意を払って挑むとしよう。


 そうして俺達はカナミの洞穴へ、足を踏み入れた。





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