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28 成長

 



 声が聞こえた。



 ――――――――――――――――。



 確かにそれは声だった。



 ――――――――。



 それでも誰の声なのか判別がつきはしなかった。



 ――――。



 全てが曖昧で不確かではっきりとしなくて。


 ――。



 ただ俺にはその言葉を理解することが出来た。





「  」





 それはきっと生者である俺に向けられた声の持ち主の願いだったーー。





 *





「……ぃ!」


「……」


「ふぃ!」


「ぶへっ!」


 俺の顔に物凄い衝撃が走り、俺は飛び起きた。


 一瞬で覚醒した意識と瞳で前方を見れば、そこには仁王立ち姿のフィアが。


「おお、珍しいな。フィアが俺より先に起きてるなんて」


「ふぃ!」


『もうお昼間近ですよ』


 フィアが指差す方向を見ると同時、レアから声がかかった。確かに視線の先では、太陽がかなり高い位置に昇っている。


『珍しいですね。クオンがこんなにも遅くまで目覚めないとは……疲れが溜まっていましたか?』


「チュン」


「……いや大丈夫だよ」


 心配してくれるヒトヨを撫でつつ、レアにそう返事をした。


「休んでる暇なんかないしな」


 そして誰にでもなく、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。


 レアを……否、俺達を処分しようとする追手は今の俺なんかじゃ太刀打ちならない強さだというのは身を持って経験した。


 ここにいることだっていつバレるか、分かったものではない。

 だから強くなるために、生き延びるために休むことなど出来やしない。今はまだ、な。


 強くなったら死ぬほど楽して暮らしてやる。


「レアもフィアもヒトヨも、今日からいつも以上に全力で行くから気合入れてくぞ」


「ふぃ!」


「チュン!」


『はい』


 生き残れればそれでいい。

 一時の疲れや怪我など、気にするものか。







『クオン、足下ですっ』


「ふっ!」


 レアの声に反応して、後ろに下がり地面から飛び出てきたムカデのような魔物を水色に淡く光る刀身で一刀両断した。


 そしてそのまま、フィアの足止めから逃れ、俺に迫って来ていた先ほどと同種である魔物の噛みつきを受け止める。ムカデだから魔物よりも魔蟲の方が正しい気もしなくはない。


「ヒトヨッ!」


 俺の声に反応し、上空で数度旋回して勢いをつけた鷲モードのヒトヨがムカデをその強靭な脚で引き裂いた。


「こぁぁぁっっ……!!」


 絶命し地面に倒れるムカデを踏み台に飛び跳ね、フィアが足止めしている三匹のムカデの内、一体に斬りかかる。


 その瞬間、フィアが足止めに使用していた樹木魔法と妖精魔法の使用をやめた。


「こしゃぁぁぁぁぁ!!」


 身体に幾度も絡みついてくるツタが無くなったことで、魔物が一体俺に向かってくる。


「そんなボロボロの身体で無理すんなよっ!」


 フィアの妖精魔法で傷つけられた外殻。明らかに動きが鈍い。

 数度攻撃を躱し、隙を見て幾つもあるその一つの関節に剣を差し込み横に薙ぐことで身体を斬り裂いた。


「こ……ぁあぁぁぁ……」


「ふぅ……」


 念の為、頭に剣を突き刺すことでトドメを刺してから、もう二匹の方へ視線を向けた。


「チュン」


「ふぃ」


 が、そこにいた二体は既に息絶えている。

 フィアとヒトヨが俺より先に殺していた訳だ。


「お疲れ。ありがとな」


 フィアが既に回収してくれていた魔石を受け取った。



 [お疲れ様です。クオン、フィア、ヒトヨ]


 空から俺たちの様子を伺い、時々指示してくれていたレアが降りてきた。フィアがレアの方へ飛んでいき、私頑張ったでしょとアピールしている。


 [はい、流石でしたよ。フィアもヒトヨも]


 アピールしていたフィアは勿論、ヒトヨも褒められて満足げだ。俺もレアのいう通りだと思う。




『Cランクの魔物であっても苦戦することはなくなりましたね』


 魔力の消費を少しでも抑えるためか、伝達をやめたレアが俺の頭の中に喋りかけてくる。


 そう、あのムカデの魔物、名をサンザピードと言い、Cランクの下位に値する魔物である。

 俺達はCランク下位の魔物を五匹同時に相手取っても苦戦することはなくなっていた。先ほどの戦いでの被害といえば、俺の服が毒液で穴が空いたことぐらいなものだ。


「まぁフィアが進化して無茶苦茶強くなったからな」


『それもありますがクオンも成長してますよ。Cランク下位の魔物ならば一人でもなんとか倒せるのですから』


「なんとかって……まぁその通りだけどさ」


 それでも大きな成長には違いはない。

 だが飛躍的に向上したわけではないことも言っておくべきだろう。


 身体強化で強化できる強化量が増えたのが主な理由だ。


 身体強化は前も言ったが、魔法ではない。身体に魔力を循環させることで、身体能力を向上させる「技術」だ。


 だがしかし、魔力を行使するのは事実。ヒトヨを召喚してからかなり時間も経ち、俺の魔力量もかなり増えてきた。

 それに応じて、自然回復量も増えた。


 だから俺は、その有り余る魔力を利用することにしたのだ。


 身体強化は魔力を体内で循環させることにより、身体能力を強化させる。最初は体内を循環させる魔力はごく僅か、微量であるが、技術が向上することによって流せる魔力量も増えていく。正確には多量に流れる魔力に耐えるだけの器が出来上がっていく。


 しかし、俺が行っている身体強化は身体が耐えれる魔力以上の量の魔力を循環させている。言ってしまえば、限界を超えた身体強化を行なっているのだ。


 通常、そんなことを行う者、ひいては行える者はまずいない。


 何故なら、身の丈に合わない強化は身体が悲鳴を上げるのだ。何故か……でもないが、内出血が起こったり、筋繊維の断裂、他にも眩暈等の症状が現れたりもする。

 さらに使えば翌日は身体はガチガチで筋肉痛も酷く、動けたものではない。


 だが、俺はレアの契約者として癒しの効果が備わっている。そんな理由から、なんとかまかり通っているわけだ。


 今回の戦闘で、Cランクの魔物、しかも虫型で硬い外骨格を持つ魔物の身体を一刀両断できたのもそのおかげと言える。身体能力だけならば、Cランク冒険者と同じぐらいはあるかもしれない。


 それに加えて筋肉も多少ついてきたためか、剣に振り回されるのではなく、剣を振り回すことが可能になった。それらを踏まえれば、技術も多少は向上していると言ってもいいかもしれない。腰に下がった俺の身の丈には合わない性能を保持した剣もようやく浮かばれるってもんだ。



 そう思えば、ヒトヨを召喚してからかなりの時間が経っている。先ほども言ったが、毎日のクッソキツい魔力増強のお陰で、魔力量が着々と増えてきている。このことから考えて、新しい召喚獣を召喚出来る日も案外近いかもしれない。


 ただ召喚を行うと俺に割ける魔力が少なくなるからな。そうなれば魔法も今説明した身体強化も満足に使えない。そこは気をつけなければいけない。


「じゃあ今回の魔石も全部吸収しちゃってくれ」


『はい、失礼します』


「どうよ、魔力は」


『この街に来てから僅かですが、高ランクの魔石を回収できていますので、かなり溜まっていますよ。ある程度の距離の転移ぐらいなら可能なレベルです』


「マジでっ!? 倒す魔物のランクが上がるだけでこうも魔力の溜まり方が変わるもんか」


 転移してきてから一ヶ月頑張って溜めた魔力と同じかそれ以上の魔力をこうもあっさりと溜められるとは……嬉しいんだか虚しいんだか、よく分からないな。

 まぁ追手から逃げる手段が出来たわけだから素直に喜ぶことにしよう。


『そろそろ陽も落ちて来ましたが、まだ続けますか?』


「そうだな、今日は調子がいいし後一、二体倒してから帰るとするか」


 その後、またバードニックの店に行くとしよう。ポーションと魔力薬を買わねば。





2章はちょっと退屈な展開かも

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