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24 髪の色

 


「変装した方がいい?」


 魔力増強のため、魔晶石で魔力をギリギリまで消費し、気絶するような気分の悪い眠りから覚めた俺を待っていたのはレアからのそんな助言だった。


『昨日、さほど気にしなくていいのでは? と言った直後でなんですが、やはり少しでもバレる可能性は減らした方がいいと、一晩中考えて結論を出しました』


「……一晩中考える必要はないだろ。冷静に考えれば、俺達を狙ってる相手は化け物みたいな連中で見つかった時点でゲームオーバーがほぼ確定してんだから、姿なんて隠してなんぼだろ」


 俺達を狙っているのはミカだけではない。ただミカのように化け物じみた連中だ。

 仲間はこの辺りとはまた別の国を探しているとミカは言っていたが、その言葉は鵜呑みに出来るほど信憑性が高いものではない。


「でもなぁ、フードとかで髪とか顔を隠したら逆に注目浴びないか?」


 隠すとは即ち、やましいことがあると自白しているのと同義だ。ミカと同レベルの連中が聞き込みなんかで情報を探るとは考えづらいが、レアの話に出てきたミカ達の部下らしき者達、白き者は別だ。可能性がないわけではない。そして黒髪の人間とフードを被った怪しい人間どちらが印象に残りやすいかと言えば、正直トントンぐらいだろう。つまり、変装する必要がない。


『私もそれを考えました。ですから、一つ提案があります。一晩中というのは主にどうすれば姿がバレずに済むかを考えていた結果ですね』


「で、その方法ってのは?」


『その前に伝達を使っても?』


「あ? いやフィアの活躍で昨日よりは全然余裕があるからいいけど」


 では失礼して、と言いレアが伝達を使用した。そしてフィアの元に飛んでいき、寝ぼけ眼を擦るフィアに何か話しかけている。


 フィアがオッケーとうんうん頷くと、二人揃って俺の方へ飛んでくる。

 ちなみにヒトヨは俺たちの喋り声に一度目を覚ましたが、自分に関係ないと悟ると二度寝に興じた。しっかりしてるんだけどフィアよりも朝が弱いんだよな。そんな所も愛おしい。


 [お待たせしました]


「いやそれはいいけどよ」


 [フィア、お願いします]


「ふぃ!」


 困惑する俺を置いてレアは話を進め、フィアに何事かお願いをした。

 するとフィアが俺の顔の周りを飛び回り始めた。


 おいおい、一体何が始まるってんだ。


 [ありがとうございました、フィア]


「ふぃ!」


 フィアが問題ないよ、と手を挙げる。そしてフィアがベッドに戻っていく。わざわざ広いベッドの中からヒトヨの隣に寝転んだ。本当に仲がいいなぁ。……まさかお前が満足に眠れると思うなよみたいなのじゃないよね? 気持ちいい睡眠の邪魔をしてるわけじゃないよね?


 相も変わらず、困惑中の俺。始まったと思ったら終わっていた。マジで一瞬の出来事、フィアが俺の顔を二周ほど回っただけ。何か変わった気はしない。


「えっ、マジで何したの?」


『とりあえず顔でも洗ったらどうですか? 話はそれからでも』


「えぇ……教えてくれよ。気になって夜も眠れねぇよ」


『たっぷり寝たから大丈夫ですよ。一日ぐらい寝なくたって』


 そういう問題じゃない。比喩表現だろうが。それに寝たというか俺の場合、気絶だからな。

 仕方なく、フィアに水魔法で桶に水を入れてもらい顔を洗おうとした時にある変化に気づいた。


「し、ろ……?」


 水に反射する俺の顔、ではなく俺の髪が黒色から白色に変わっていることに。


『気づきましたか?』


「白髪……フィアが何かした……」


 フィアに髪の色を変える力などない。ないはずだ。……いや本当にないか? 


 あるはずだ。いやあったはずだ。俺はそれを知っている。


 そう、


「妖精魔法……」


『その通りです』


 妖精魔法。それはフィアが進化したことで習得した魔法。この魔法は複製が要、だが幻のみを生み出すことも可能だとレアは確かに言っていた。しかし魔力消費が大きいのではなかったろうか。


「つまりこの髪は幻な訳か」


「通常、幻惑魔法は他者にかけられ、その人物の視覚又は脳をジャックし幻を見せます。ですが、妖精魔法の幻は他者に幻をかけているわけではなく、大袈裟にいってしまえば世界にかけています。なのでそれを利用しました』


 水面に映った自分の髪を弄ってみるが、違和感はない。触れれば消えると思ったが、そういうわけでもないらしい。


「スゲェな、コレ。本物と区別つかないぞ。これから移動する旅に髪色変えるか!」


『残念ながらそうはいきません』


 なんでだ? と質問する前に髪を弄っていてあることに気づいた。


「……ん? これよく見ると中の方は黒のまんまじゃね?」


 水面に映ったものだったからか非常に分かりづらかったが、白に混じって中の黒が顔を覗かせていてメッシュというか何というか、表現しづらい髪色? 髪型? になっていた。


『はい。それは魔力消費と維持を考えて、妖精魔法の複製によって若白髪を複製したものですから。元あった髪が消えるわけではないので、上塗りするような形ですね』


「うげっ、白髪なんか生えてたのかよ。てか、そうか。どうりでなんかいつもよりもさっとしてると思ったわ」


『元々短かったのが幸いでしたね。しかし、そろそろ切った方が良いのでは? 少なくとも一ヶ月は切っていないのですから』


 うーむ。確かに若干前髪がうざくなってきていたところだしな。今度適当にハサミでも買ってセルフカットしてみるか。複製でもっさり感が気にならないように後ろと上部も梳いておかねば。


「にしても俺に白色は似合わないな」


 水面に映る白髪は俺の顔と全くマッチしていない。黒眼なのと少し浅黒い肌なのもあって違和感バリバリだ。


『そうでもありませんよ。人間です』


「当たり前だろうが。人間に見えないほど似合わないとは言ってねぇよ」


 コイツマジでぶっ飛ばすぞ。


『ああいえ、種族の話です。他の種族には見えませんよと』


「ああそういう。……いやそれもそれでなんかおかしいけどね?」


 似合う似合わないの話じゃないの? 人族か、他種族かの話なの?

 俺が少し悩んでいるとクスクスとレアの笑い声が聞こえた。……はぁ、苦笑いしかできないわ。



「フィア、ヒトヨ。どうだ? 似合うか?」


 二度寝から目を覚ましたフィアとヒトヨに感想を聞いてみる。フィアに変えてもらったわけだからフィアに聞くのもあれだが、眠い状態だっただろうから一応ね。


「ふぃふぃふぃ!」


「チュンチュン!」


 ヒトヨはいつも通りに、俺の肩に乗って大将、その髪もお似合いですよと翼で頬を叩いてくれる。

 フィアは上機嫌に俺の顔の周りを飛び回ると、それから俺の頭の上に座った。その顔は非常に満足げだ。それにしても未だ俺から触れることを許されていないのだが、それはいつ解禁されるのでしょうか。


『同じ髪色になれて嬉しいんでしょうね』


 レアがフィアの上機嫌な理由を教えてくれる。その声はとても微笑ましそうで、母性的だった。


「フィアぁ! お前は可愛いなぁ!」


 理由を聞いた俺のテンションが爆上がり、頭を撫でようとしたのだが、やはり躱されてしまった。

 全く、次に頭を撫でれるのはいつになるのやら、とほほ。

 そんなことを考えながら、空中を彷徨った手を引き戻し、ヒトヨの首元をくすぐった。



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