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23 妖精魔法

 


 その日のフィアの活躍ぶりは目を丸くするほどだった。


 進化して基礎能力が上がったのも確かにあるだろう。攻撃魔法もヒトヨの攻撃ほどとはいかないが、以前の倍近い攻撃力を持っていたし、樹木魔法なんかも蔓とか枝が凄いことになっていた。が、それ以上にパーティーに欠かせないと言っても過言ではない魔法を覚えたからに他ならない。



 ーー付与魔法。



 一定時間、味方に能力を向上させるバフをかける魔法。割合にしてみれば一割未満およそ5%程度であろうが、これがなかなかに大きな差であった。



 フィアの付与魔法のおかげで、今日は調子が良く、一日ぶりとは思えないほど魔石が集まった。


 今日だけでもかなりレアの魔力を回復出来ただろう。


『進化はかなり能力を上昇させるようですね』


「ああ、無茶苦茶強くなってる。今なら正直言って、フィア一人で同族喰らいを倒せるんじゃないか?」


 俺の戦った感覚では同族喰らいはBランクに届かないCランクといった感じだった。Cランク上位と言ったところか。


『可能でしょうね。フィアの今の種族名をクレスセンテフェアリーと言いますが、ランクはAです』


「A……ってそこまで強くは」


 俺の言葉の途中でレアが言葉を被せてくる。


『ディロフェアリーと同じでそれは希少性を含めてのランクです。クレスセンテフェアリーの希少性はディロフェアリーとは比べものになりません。

 ですが、実力だけで言ってもクレスセンテフェアリーはCランク上位の実力を持ちます。フィアは色々な種類の魔法が使える特殊個体なので実力だけで判断しても、Bランクであってもおかしくありませんね』


 実力で判断してもBランク……。Cランク下位の魔物ですら俺がタイマンで勝つことは容易ではないだろう。だからか、Bランク……その言葉が俺に重く纏わり付く。

 しかし一つ疑問があった。


「Bランク……にしては少し弱くないか? 付与魔法や妨害や万能な樹木魔法なんかを含めればそれぐらいはありそうではあるが。なんかこうさっぱりしないというか」


『……確かに、攻撃力に関して言えば明らかにBランク相当ではありませんね。先程も言いましたが、フィアは特殊個体のはずです。Bランクの力はあってもおかしくないのですが』


 特殊個体……なんか前も似たようなことを聞いた気がするな。

 そういえば結構前に、フィアはかなりの種類の属性の攻撃魔法が使用可能だからディロフェアリーの中でも優秀だって言ってたか。


『もしかしたら、まだ何か隠し持っているかもしれませんね。フィアが驚かせようと隠しているか……』


「フィアが未だ自覚していない、もしくは目覚めていないか」


『ですね』


 正直、隠し持っているっていうか、俺的にはただ使うのを忘れているだけなんじゃないかとも考えるんだが。


 つーか、聞けばいいじゃん。


「フィアー」


「ふぃ?」


 机の上でヒトヨに騎乗して遊んでいたフィアを呼ぶ。するとフィアがどうしたの? みたいな感じで俺に近寄ってくる。


 進化前より少し距離が遠い。


 反抗期みたいな感じではあるが、無視したりとかはないみたいで安心した。戦闘中もしっかりと俺の指示にも従ってくれている。


「進化してから付与魔法以外になんか出来る様になったってことあるか?」


『そう簡単に教えてくれないのでは? 戦闘中も使用しなかったわけですし。秘密にしたいということなのではないでしょうか』


 そういうレアの目の前でフィアが見たことない魔法を使用して見せた。ピンク色の桜のようなものが辺りに舞い散って見える。宿の中で魔法を使われたから少しビックリしたが、どうやら周囲に影響があるわけではないようだ。


 あっさり教えるんですか!? と驚愕するレアは置いといて、この魔法は何だろうか。


「桜魔法とか?」


「ふぃふぃ」


 手でバツを作ったフィアが、そのあと自分を指差した。


「フィア、フィア魔法。クレスセンテ魔法、可愛い、可愛い魔法。顔、顔魔法。口魔法。鼻魔法。自分魔法」


 俺が答える度にフィアがそんなわけないと首を振る。


 うーむ、じゃあ一体……あっ。


「ようせ」


 [妖精魔法ですね]


「ふぃ!」


 フィアが頭の上で大きく丸を作った。どうやら正解のようだ。


「俺が先に言おうとしてたのに……」


『そんな凹むことですか』


 フィアの意図を汲み取れなかったのが、なんか寂しいのです。


「で、妖精魔法ってのはどんな魔法なんだ? ピンク色の桜みたいなのが舞ってたが」


『まず妖精魔法と言いますが、妖精の多くはこの魔法を使うことが出来ません』


「へえ、妖精魔法なのにか」


『はい。妖精という種族の中でも限られた妖精。所謂、原初の妖精の血を受け継ぐ妖精女王の一族のものしか使用できないと言われています』


 つまり血統が優秀でないと使用出来ない魔法ということか。妖精女王の一族しか使えない魔法、それをフィアが使えると。


「フィアはもしかしたら女王様なのかもな」


 進化してもまだ幼さが残っているから、どっちかっていうとお姫様っぽいけど。


「ふぃ? ふぃふぃ」


「違うって? まぁそうだろうけどよ、可能性としてはなくもないだろ」


「ふぃふぃふぃー」


「女王じゃなくて私は召喚獣だ、って……フィアー!」


『あの、続き話してもいいですか?』


「あっ、すみません」


 フィアのあまりの可愛さに話を投げ出してしまったら、レアに叱られた。ヒトヨはそんな俺に、まったく仕方ない人だなぁ、とでも言いたげな瞳を向けている。おかしいな、俺の精神年齢がヒトヨ達に負けている気がして仕方ない。


『次に妖精魔法の効果ですが、妖精魔法は基本的に幻惑です』


「基本的に?」


『はい。幻惑も可能なのですが、通常の幻惑魔法と同じで魔力をかなり使います。しかし妖精魔法はある条件下では魔力の消費をかなり抑えることができます。例えば、先ほどクオンは先ほど桜を見たと言いましたね。それは一枚の桜でしたか?』


「いや、何十枚だったはずだ」


『では二十枚と仮定しましょう。そのうち十九枚は幻惑、つまり実体を伴わず、一枚のみが本物です。そう言った場合のみ、魔力消費を著しく減少させることができます』


「……実体のあるものの複製、か?」


『その通りです。複製にかかる魔力は少なく、発動までの時間も短いらしく、妖精魔法の使い手は近接職や戦闘を生業にする者からは天敵と呼ばれています。ただお察しの通り、複製は見た目だけで実体を伴いません』


 それにしたって破格の能力だ。例えば炎魔法を複製すれば、どれが本物か見分けられないのだから、時間稼ぎなんかにうってつけだ。


『しかも複製の場合、幻惑魔法以上に見分けがつきません。つまり簡単に言ってしまえば幻惑魔法の上位互換です』


 幻惑魔法は幻惑だから見破って仕舞えば、問題ない。しかし妖精魔法は、中に本物が紛れ込んでいるかもしれないから幻惑とは一概に言えない。


「強いな……単純っちゃ単純だが効果はとんでもない」


「ふぃ」


 進化前よりも控えめに胸を張るフィア。顔は進化前よりも何処か誇らしげだ。ドヤ顔という言葉がここまで似合う顔もない気がする。


「でも何で戦闘中に使わなかったんだ?」


「ふぃ、ふぃふぃふぃ」


「今の戦闘では使う必要のある場面がなかった、と。ううむ、確かに絶対に妖精魔法が必要だという場面はなかったかもしれない」


 それに妖精魔法に依存しきるのも良くないだろう。


 もしかしたらフィアは俺なんかよりも戦闘についてしっかりと考えているのかもしれない。

 俺はまだ一月程度しか戦っていないからな。

 最初から戦いを生業とすると言っても過言でない召喚獣の方が俺よりも戦いというものに精通しているのも当然かもしれない。


「そっか、疑うような言い方してごめんな。フィアもちゃんと考えてんだよな」


「ふぃ」


 気にしないでいいよ、と小さな手で俺の肩を叩くフィア。自分から触るのはアリなのね。


「でも、ちゃんと報告してくれな。俺もお前らの全部を知っておきたいからよ」


 そのどれかが、俺達の生存を照らす光になるかもしれない。あんまり自覚はないが、一応主人みたいなものである俺は少なくとも知っておかなければいけないだろう。


 っとフィアを見れば、頬を林檎みたく真っ赤にしている。


「おいおい、どうした。フィア、熱か? それとも頭でも撫でて欲しくなったか? それとも照れちゃったか?」


「ふぃふぃ!」


「お、おい頭を叩くな。なんだかレアに似てきてないか? い、痛っ、だから頭は俺怪我してた場所だからやめなさいっつぅに」


 必死に捕まえようとしたが、鮮やかに空を飛びその全てを躱されてしまう。そして数分後、ある程度満足したのか、フィアは俺の服へと戻っていった。


「ったくよぉ、俺には女心が分からんぜ。娘を持った父親ってのはこんな気分なのかね」


『フィアやヒトヨの方が親のように私は見えますがね』


「いうじゃねぇかこのやろう。俺もレアに対して同じ気持ちを抱いてたよ」


『私が子供みたいというつもりですか? 何処からどう見ても大人じゃないですか』


 何処からどう見ても子供でも大人でもなく、本なんだけど。


「ちょっと分かんない」


『な、何ですとっ……! 何処からどう見ても大人ではないですか!』


「うーん……」


『わ、私からすればクオンの方がよっぽど子供です! 私のことをお母さんと思ってもいいんですよ?』


「それはちょっと……嫌かな」


『なんでですかっ!?』


「チュン」


 一人、俺達よりも大人びたヒトヨが鳴いた。その声は全くこの人たちは……と呆れているようにも聞こえた。




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