表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/103

22 進化(フィア)

 


 街に出て気付く。


 時折、俺の方をチラチラと伺う者がいる。だが、その視線に敵意はない。


(なんだか、見られている気がするんだが)


『言われてみれば……何故でしょうか。今回は前回のようにボロボロの格好と言うわけでもないですが……まあセンスはないですが』


(おい。でもそういう好奇って感じでもなさそうだよな。フィアとヒトヨが反応してないってことは別に悪意的なもんでもないだろ?)


『おそらくは。魔物と性質がほぼ等しい召喚獣なので、敵意や悪意などには敏感ですからね』


 となると、他に何かおかしな点でもあるのだろうか。彼らの視線の先は……。


(なるほどな)


『原因に心当たりが? 私の予想では時折独り言が激しいからではないかと思うのですが』


(ちげぇよ。つーか、独り言じゃなくてお前らと喋ってんだからな? 分かってて言ってるだろ?)


『それは失礼しました』


 クスクスと楽しそうに笑うレア。


 ……コイツマジで一回締めないとダメなんじゃないですかね。いや、まぁレアが楽しそうってだけで嬉しく思ってる単純過ぎな俺もどうかとは思うがね。


(髪だよ、髪。黒髪ってのが珍しいんじゃないか?)


 前の街だと何も言われることがなかったから、気にしていなかったが、俺は未だこの世界で黒髪の人間を見たことがない。

 ミカの発言によると勇者も黒髪なのだそうだが……どうも勇者は俺の同郷みたいなんだよな。つまり、この世界出身で黒髪の存在を俺は知らないわけだ。

 だからこの世界では黒髪は希少な存在なんじゃないかと思うわけだが。


『そうですね。黒髪は勇者とその子孫を除けば稀にしか誕生しないと言われています』


(おい、それ大丈夫か? フィアとかヒトヨよりよっぽど注目浴びそうだし、身バレしそうだぞ。こっちは狙われる存在だっつぅのにまずいだろ)


『いえ。黒髪が存在しないのは基本的にでして、例外として極東にある島国には多く存在しています。なので、黒髪を見てもそちら出身だと思うのではないかと。初代勇者も最初はそちらの島出身を疑われたぐらいですから。どちらにせよ、関心はあれどそこまで話題になる者ではないと思われます』


 それならいいんだけどさ。まぁ、確かにフードをかぶったりした方が余計怪しく見えたりするもんだし、堂々と行くべきなのかもな。






「さて、依頼を行う前にまずフィアの進化を行いたいと思います!」


 さくっとギルドでDランクの魔物討伐依頼を受けて、街から少し離れた位置にある森に来た。


 俺の言葉にパチパチとレアとヒトヨが拍手する。レアもヒトヨもパタパタの方が合っている気がしなくもないけれど。


 また森かよって思われそうだが、なるべく召喚獣を見られたくないから、そうなると必然的に森になっちゃうんだよ。近くに洞窟とかありそうもないし、平原とか速攻バレるし。

 レアの事情を鑑みるに、一つの街に定住するのは難しそうだが、いずれ家を買うのもありかもしれない。そうすれば、こうして人目を気にしてわざわざ外に来る必要もないわけだからな。


「じゃあフィア、俺の前に立ちなさい。あ、いや浮かびなさい」


「ふぃ!」


「良し、じゃあ行くぞ! ………………?」


『………………やらないのですか?』


「……いや、その……進化ってどうやってさせるんだ?」


『はぁ……貴方って人は……」




 レアに教えてもらって仕切り直し。


 レアを開き、空中に浮遊するフィアに向かって手をかざす。




「エヴォル!」




 レアが淡く光ると共鳴するように、フィアの体が光を発し始める。

 そしてその光が眩しさを増し、フィアの身体が見えなくなるのにそう時間はかからなかった。


 レアの淡い光は既に収まっている。というのに一分ほど経ったフィアの身体は未だ光を放っている。


「進化ってのは時間がかかるもんなんだな。これが普通か?」


『私も実際に目にするのは初めてですので、なんとも』


「チュチュン……」


 レアもヒトヨも心配そうに光を見つめている。危険があるってことはないと思うが、その気持ちはわからないでもない。


 俺も、レアも、召喚獣も、全部が全部はじめての連続だ。知識にはあっても、経験にはないことばかり。

 心配になるのも当然と言える。しかもレアにとっては娘、ヒトヨにとっては姉みたいなものだからな。


「ほら、そろそろ終わりそうだぞ」


 フィアから発される光がだんだんと弱くなっている。進化が終わるまでそう時間はかからないだろう。


 フィアの進化。あの手乗り感がたまらないから大きくならないといいなぁ。いやもちろん大きくなってもフィアはフィアだから可愛いのは決定事項なのだが、出来るならちっちゃいままのフィアでいて欲しい。


 なんて考えてるうちに光がもう殆ど消えかかっている。

 さて、どんな変化をしているのやら。


 そして完全に光が収束し、そこから進化したフィアが姿をーー。


「ふぃふぃー!!」


「可愛い」


『可愛い』


「チュチュン」


 光が収まり現れたのは、少しだけ大人らしくなったフィア。

 髪は肩より少し下ぐらいだったのが、腰より少し上ぐらいまで伸び、気持ち身長も大きくなった気がする。前は二十センチぐらいだったわけだが、今回は二十二センチか二十三センチぐらい? 三センチほど成長したわけだ。

 羽も若干の成長が見られ、大きさもそうだが、半透明だった色が僅かに水色がかっている。

 何より顔が少し凛々しくなった。前は幼い可愛さであったが、今は可愛さの中に凛とした美しさが見て取れる。分かりやすくいうと進化前のフィアが小学生、今のフィアが中学生って感じだな。この例え方は危険な香りがするからやめた方がいい気がする。


 前も可愛かったけど、今のフィアもとんでも可愛い。元々足りてない語彙力の低下が激しい。


『フィア、大人になりましたね』


「チュン、チュン」


「ふぃ!」


 フィアの元にすぐさま飛んでいくレアとヒトヨ。

 あまりの可愛さに少しの時間呆然としていた俺も、少し遅れて、その輪に加わろうと近づいていく。


「フィアぁ、めちゃんこ可愛くなったなぁ。前のフィアも可愛かったけど、今のフィアも最高だぜ」


 顔の緩みが抑えられない。

 そしてそのままフィアを、人差し指で頭を撫でようとして、


「ふぃ」


 避けられた。


「!?」


 いや、いやいや、いやいやいやいや。いやなんかの間違いでしょ。絶対そうだって。


 再度、手を伸ばしてみる。


「ふぃ」


「!!??」


 避けられた……。


 いや、いやいや、いやいやいやいや、いやいやいやいやいやいやいやいや。間違いに決まってる! 決まってなきゃおかしいよ。


 再再度、手を、


「ふぃ」


 ……伸ばしている間に距離をとられた。


「あ、あはは……フィアも悪戯好きになったか! でももう悪戯はいいんだぞ、な?」


「ふぃ」


「あっ……」


『クオンが天に召されましたか……』


 いや、召されてはないけどさ。何だろう、超ショックなんだけど。思春期に入った娘に嫌われるお父さんの気持ちはこんな感じなのだろうか。

 フィアも中学生になって反抗期を迎えたわけか……。お父さんの洗濯物と一緒に洗濯したくない! とか、お父さんの後にお風呂入りたくない! とか言われる日が来るのだろうか……。俺はお父さんじゃないけど。


「俺は嫌われたのか……」


『ふむ、少しフィアと話します。伝達と伝心を使っても?』


「おお、いいぞいいぞ。好きにしてくれ」


 フィアの反抗期に半ば自暴自棄の俺は適当に返事をした。そんな俺をよそにレアがぷかぷかと浮かび、フィアに近づいていく。


 ヒトヨが翼で頬を優しく撫でてくれる。慰めてくれているのか、優しいやつだぜ全く。


「お前は、進化しても俺を嫌いにならないでくれ」


「チュン」


 当たり前じゃないですか、と言ってくれている気がする。

 俺がヒトヨを撫でて心を慰めていると、どうも話が終わったようで少し離れた位置にいた二人が戻ってくる。


『話は終わりました。別にいつも通りのフィアです、問題ありません』


「いつも通りではないだろッ!?」


 あんなに俺に懐いてくれていたのに、今はもう頭すら撫でさせてもらえないんだぞ。俺の荒んだ心を癒してくれる至高の時間だったのに。


『いつも通りです。ヒトヨにも聞いてみては?』


 いいや、フィアは反抗期だね。それでも可愛いことには変わりないんだけど、それでも反抗期だね。


 肩に乗るヒトヨに聞いてみる。


「なぁ、フィアは反抗期だよな?」


「チュチュン」


「なっ、いやどうみても反抗期でしょ!」


「チュ、チュチュン」


「ちょっと話した感じ優しいお姉ちゃんのままだったってか!?」


 俺の目が節穴だってのか? いや、これは薄々気付いていたが俺に対してだけの反抗期……? 

 何でそんな残酷なことが……。


「ふぃー」


 俺が悲惨な現実に打ち拉がれていると、フィアが飛んできて俺の服の中に入り込んだ。


「ふぃあぁ!」


「ふぃ」


 あっ、頭を撫でるのはダメと。それは悲しいが、完全には嫌われていないようで良かった。


『言ったではないですか。フィアは変わっていないと』


「チュン」


「何だろう、ちょっと生きた心地がしなかったわ。なんかもう疲れたし、今日はもう依頼やんなくていいんじゃねぇかな」


『言い訳ないでしょう』


 もう本当に魔力が尽きますよ、と呆れていうレア。

 全くもってその通りだ、ふざけるのも程々に一日ぶりの魔物討伐。フィアも進化したことだし、心機一転、気合入れて頑張りますかね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ