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14 同族喰らい


 同族喰らい(どうぞくぐ    )


 この世界には時折そんな存在が現れる。

 本来群れるはずの同種の魔物。そんな中で同族の魔物を殺す魔物が現れる。そしてその魔物は力を奪うかのように死んだ仲間の身体を喰らうのだ。

 実際、同族喰らいは同種を喰らうごとに強くなっていく。本来、魔物にそんな特性はない。つまり同族喰らいはその種における変異種だ。そしてその強さは際限を知らない。


 遥か昔、数多の冒険者を退けた元はCランクの魔物であった同族喰らいがSランクの魔物まで上り詰めたことがあったそうだ。最後は同族喰らいの被害が激しかった主要三国が合同討伐軍を組織し、討伐されたそうだが、その時の被害は災害と称しても何ら違和感のないほどのものだったらしい。


 そんな話が残っているからか、同族喰らいは見つけたら即日討伐が推奨されている。

 討伐までに時間がかかればかかるほど、同族喰らいは強くなる。同族喰らいの討伐が遅れて、被害が甚大になったなんてよくある話だ。




 そして今、目の前にいるダーティウルフも件の同族喰らいで間違いない。

 普通のダーティウルフではないと一眼でわかるほど身体が大きいのに、上位種の特徴はなく、ダーティウルフをそのまま大きくしたような体躯。

 周りに広がる同族のダーティウルフの死骸。殺すだけでなく、引きずってここまで持って来たのは夕食にでもするつもりだったのだろう。



 可能性としては普通のBランクの魔物よりも強い可能性もある。

 だから撤退したいところではあるが、同族喰らいを放置するわけにはいかない。Cランク冒険者は今、街に殆どいない。街のCランク筆頭でもあるヴァイガス達は留守にしているし、他のCランク冒険者も多くが依頼に行っている。Bランク冒険者はまず街に一人もいない。

 よって俺が倒せるのが最善であるのだが……。


 どうも手が負えそうになかったら、大人しく応援を呼ぼう。逃してくれるかは分からないが。



「フィア、あの大岩周辺におびき寄せるからサポート頼む。後、隙を見てダーティウルフの死体を燃やしておいてくれ」


 身体強化をしていても俺一人でコイツの相手をしていては、一分と持たずに殺されて喰われてしまうのが関の山だろう。


(レアは離れててくれ、絶対にアイツの攻撃の届かない距離で、アイツの行動を適宜教えてくれ)


『はい、了承しました』


 レアが俺の元から離れ、空へ浮かんでいく。


 後は、


「ヒトヨ、頼むぞ」


「チュン」


 ヒトヨが俺の肩から離れていく。これで準備は完了だ。





「おっし! かかってこいや!」


 俺が声を上げるとそれを開戦の合図と言わんばかりに、同族喰らいが通常のダーティウルフではあり得ないほどのスピードで迫り、俺に右爪を振るう。


 このまま受ければ俺は必死。そして避けることも困難だ。

 だが俺には頼もしい仲間がいる訳だ。


「ふぃー!」


 フィアが樹木魔法を使い、ツタで足を絡めとる。同族喰らいは俺にしか注意を払っていなかったために、それを避ける事はできなかった。

 大きくぶれたその攻撃を薄皮一枚、ギリギリで躱し、剣を振るう。


「くっ、カテェ!」


 しかし、僅かにしか傷を付けることが叶わない。鉄とは言わないが、並のダーティーウルフとは毛皮の頑強さも違うようだ。俺の持っている剣が、普通の適正価格の剣であったなら、呆気なく折れていた可能性も否定できない。武器屋のおっちゃんに感謝だ。


「ガウァ!」


 脚を絡めとられたこと、己の肌を傷つけられたことに怒り、ツタを軽く引きちぎり、俺に迫ると先ほどよりも素早く爪を振るう。


 それをフィアがことごとく妨害していく。当然、フィアを狙おうとするが、俺がそのたびに剣を振るい、あるいは突き刺し、ヘイトを溜める。


 目的はただ一つ、巨岩の近く、辺りに邪魔になるものが一切ない開けた場所へと行くこと。

 ただガムシャラに走れば背後から爪で抉られ殺されるのが、そして狙いを悟られるのがオチだ。だから少しずつ、攻撃を受けながら確実に近づいていく。


 同族喰らいの攻撃はひたすらに重い。速さがあるから下手に回避することもできない。

 攻撃を一撃受ける度に、無様に弾かれ、体勢をくずされる。

 コイツと戦う前、俺は一分で殺されると言ったが訂正しよう。フィアがいなければ俺なんて二撃か三撃で軽く殺される。そして何より俺が戦えているのは同族喰らいの攻撃パターンの少なさ故だ。

 大きな牙によるカミツキと爪を振るう攻撃、基本的にその二パターンしか無い。当然、方向や威力等は異なるが、それだけ。

 魔法を使われたりしたら、厄介だがダーティウルフは元々魔法を使えない。同族喰らいといえどその鉄則からは逃れられなかったようだ。


 この調子で行けば、巨木周辺まで行くのもそう難しいことじゃ、



『クオンッ!』



 その声で俺は攻撃を加えようとしていた脚に無理を言って反射的に跳び引いた。


 そして俺の前を通り過ぎていく風切音。何かが俺の頰をかすめたのか、頰から鋭い痛みが響く。

 突如とした痛みに一瞬混乱するが、すぐに精神安定の効果で落ち着きを取り戻す。


 頬を擦れば、赤い血液が溢れ出ていた。


『クオン! 今のは尻尾です!』


 尻尾。それは相手の隠していた奥の手のようなものなのだろうか。

 不可視……は大袈裟だろうが、視界外からの不意打ちのような攻撃。初見殺しで初心者殺しにも程がある。


 目の前の同族喰らいは躱されたことに苛立ちを隠そうともせず、尻尾を叩きつけ、ただ俺を睨みつけた。


 ったくよぉ。傷つけられて苛立ってんのはこっちなんだよ。

 俺もこの忌々しい同族喰らいを睨みつける。

 レアがいなかったら下手したら死んでたぞ、くそ野郎が。


『申し訳ありません。今回は遅れましたが、予兆は分かりました。次は必ず、必ず間に合わせます』


 謝罪しながらも、その声は自信と決意を感じさせるものであった。ならば俺がするべきことは一つ。


「ーーレア、頼むぜ」


『はい、お任せを』


 彼女の名を呼び、信頼することだけだ。





 そうして少しずつ、巨岩の近くへと寄っていく。

 そしてその目的の場所へと到達した瞬間ーー。


『クオン! 尻尾が来ます』


「だぁぁ!!! 尻尾に負けるかよぉおお!」


 俺の視界外から襲ってくる尾による一撃をレアの合図で受けとめる。


「ぐぅおおおっ!!!」


 今まで戦って来た魔物とは比べ物にならないパワーだ。あのパワーだけはとんでもないウィークベアーすらも上回っている。尻尾でこれなのだから、フィアの妨害なしの爪や牙なんかの攻撃は考えたくもない。


「ふぃー!」


 フィアが風魔法でダーティウルフを攻撃する。しかし、それは俺の剣撃よりも僅かに深い傷を付ける程度でいくら撃っても致命傷には至らない。


 フィアの種族は元々、妨害や逃亡、補助を得意とする種族だ。フィアは攻撃魔法も使えるが、得意というわけではない。


 俺の剣撃が、フィアの魔法が効かない。それだけ聞けば絶望的な状況だ。

 だが、それがどうした。


「お前が攻めてたんじゃなくて、俺たちが誘ってたんだよ!」


 だったら、それ以上の攻撃力を誇る俺たちの最高火力をぶつける、それが俺たちに出来る選択だ。


 俺の剣は同族喰らいの尻尾と僅かの時間拮抗し、尻尾に弾かれる。

 その瞬間、ニヤリと同族喰らいが口角を上げた。その顔はどう見ても、隙を見せたなと言っていた。


 そして同族喰らいが大きく見せびらかすように口を開きーー。


「ーー風穴開いちまえ」


「チュチュン!」


 雀モードから鷲モードに変化したヒトヨが遥か空から急降下し、迫る。

 俺たちに気を取られていた同族喰らいの目が上から迫るヒトヨを捉えた瞬間、苛立ちと嘲りのみを浮かべていた瞳に焦燥を浮かべる。そしてそれは俺が笑みを浮かべるのと同時だった。


 今更避ける事は叶わない、そう一瞬で判断した同族喰らいが尻尾を大きく振り上げーー。


 瞬間、ヒトヨのその攻撃が炸裂し、辺りを轟音と砂煙が支配した。



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