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10 武器とリベンジ

 


「ようやく金も溜まってきたな」


 この世界に来て一週間。

 ギルドの依頼を日に数度こなし、夜は情報収集をした後に筋トレをし、魔力増強で気絶して眠りにつく日々を送っていた。

 何だったら、元の世界より充実した生活な気がする。ただし魔力増強、テメェはダメだ。


 情報収集のお陰で、この世界の歴史や情勢等を大雑把にではあるが理解することも出来た。それはその都度もう一度確認するとしよう。

 筋力はまだ一週間だから別段成果らしき成果は出ていない。元々そこそこ筋肉付いてるってのもあるだろうけど。

 魔力に関しては俺は分からないが、レアがいうには着実に増えているそうだ。それに応じて魔力の自然回復量も増えているため、その内新たな召喚獣も呼べるのではないか、とのこと。


「これでようやく装備が買えるぜ」


 日々真面目に数度の依頼に取り組むことで手にしたお金。日本円にして約十万円。そこから諸々差し引いて、装備に使える金額は七万円ほど。

 命を預ける装備を買うには心許無い額ではあるが、最低でも武器は購入せねばならない。

 ギルドの剣を借りても良いのだが、レンタル料金が案外バカにならないのだ。


『自身の武器を何にするか決めたのですか?』


「とりあえずは剣かなぁ。槍とかも使いたいんだけど、それはもう少し召喚獣を召喚して、余裕ができてからで」


 次の召喚獣が武器を扱えるとは限らないし、次に召喚出来るのがいつかは分からないが。


 フィアしか召喚獣がいない現状、少しは慣れた武器で俺が前衛を務められるのがベストだろう。明らかにフィアは後衛だし。


「フィアにもなんか可愛い装備があったら買ってやるからな」


「ふぃー!!」


『私にはないのですか?』


「……冗談なのか、本気なのかわかんねぇよ」






 そんなこんなでやってきました武具屋さん。


「いらっしゃい」


 店主はいかにもな、禿頭のおっさん。寡黙そうで筋肉ムキムキ。冒険者といっても違和感ゼロ。


 てか、この人。


「あっ、あん時は先を譲ってくれてありがとうございました!」


「ん? ああ、あん時の坊主か」


 やっぱり検問時に俺に場所を譲ってくれた内の一人だ。


「もう装備を買えるぐらいには安定したのか?」


「ええ、なんとか。すみません、一週間も改めて礼すら言えず」


「別に気にしていない。悪いと思うなら武器の一本でも買ってけ。この店に来たってことは元々そのつもりだろうがな」


 そう言ってニヤリと笑うおっさん。

 俺もニヤリと笑い、予算額を伝え俺に合いそうな武器、主に剣を選んでもらう。


『何を男同士で笑い合っているのですか』


(良いんだよ、なんかこう雰囲気が大事なんだから)


 並べられた数個の武器。パッと良さそうだと思ったものを手にとってみる。

 うーむ、よく分からないが取り敢えず重い。


「やっぱり初心者だな。握り方からしてなっちゃいねぇ。こっちにしな」


「しゃあないでしょうよ。その通り初心者なんだから」


「悪いわけじゃねぇ、ただ初心者には初心者にあった装備ってもんがあんだよ」


 そういって無理矢理、次の剣を握らせられる。やめてくれ、おっさんの手に触れたくな、おっ、さっきよりも軽い。


「どうだ?」


「軽い」


「もっとなんかねぇのか! ガキじゃあるまいし!」


 剣の良し悪しなんか、つい一週間前に始めて剣を握った俺が分かるわけない。聖剣とか見ても装飾が豪華だなぁレベルだぞ、多分。


「これおいくら?」


 はぁ、と呆れたように溜息を吐くおっさんがいうには、四万程度。


「うーむ」


「他のを見てからでもいいんじゃないか?」


「一理あります」


 と、一通り見てみたがパッとするものがない。

 いや、このおっさんの腕が悪いんじゃなくて、俺の予算と筋力が悪い。


「二番目の剣が今のところだと一番かなぁ」


「おいおい、そんな妥協して命を預ける剣を決めるなよ。ったく仕方ねぇ。ちょっと待ってろ」


 おっさんがそう良い、別の剣を持ってくる。

 刀身が少し青みがかっている不思議な剣だ。


「おっさん家の家宝か?」


「誰がお前みたいな初心者に家宝を渡すか! これはだな」


 おっさんが言うには、少し前に作ったのだが、この剣の素材を使って剣を打つのは初めてだったようで、性能はいいが見た目が非常に不出来になってしまったそうだ。


「性能は保証する。だが、こう色も青みがかってるだろ? それがどうも年月の経った青銅を連想させるってんで不評でな。ミスリルなんかも青み……いや、流石にミスリルと比べるのは無理があるか」


「ちょっと貸してもらっても?」


「おうよ」


 おっさんからその剣を受け取る。

 ほう、これは。


「軽いし、手に馴染む」


「……やっと少しはましな感想が出たな。今までと比べればましなだけで全くまともではないが」


「これ、いくらです?」


「本来は坊主の予算の三倍はする代物なんだが……今後売れるかもわからねぇ」


 三倍……二十万以上するのかよ。とんでもねぇな。


『武器としては少し安いぐらいの金額ですがね』


(そうだろうが、今の俺にとってはな)


 俺がレアと心の中で喋っているとおっさんが、俺の方をキッと睨みつけた。


「坊主の未来に期待して、特別に予算額で譲ってやるっ! 絶対後悔させるなよ! クソ坊主!」


「マジすか! 買った!」


「毎度ありだ、こんちくしょう!」


 若干声が泣きそうなおっさんに金を払い、俺はついに自分の武器を手に入れた。





「すげぇ戦いやすいな」


 おっさんから買った武器を手に依頼を受け、三体のゴブリンと戦ったが今まで扱ってきた剣と比べて動きやすさが段違いだ。


「ふぃー!」


 スゴイスゴイ! と手をパチパチ叩いてくれるフィア。その足元には十匹近い魔石と討伐証明部位のない魔物の死体が転がっている、と思ったらその全てが魔法によって焼却された。

 ……お前の方が凄いよ。っていうか、俺より君の方が成長してない? 気のせい? 


「ふふふ」


 まぁいいさ、これでやっとリベンジマッチが出来そうだぜ。まだすぐにはやらないけどな。後、数回剣を試してから、自惚れを消して、今日の集大成として挑むとしよう。


『そろそろウィークベアーにリベンジでもしますか?』


 なんだと、こいつ俺の心を読んだのか!?


 そう、俺のいうリベンジマッチとは俺を異世界生活初日にボコボコにしたウィークベアーのことだ。


 あの時はフィアが倒したからな。ボコボコにされたリベンジを果たそうと考えていたわけだ。


「よく俺の考えてることがわかったな」


『そしてウィークベアーを倒せるようになったら、魔法を行使して戦う練習ですね』


「……正解」


 俺はそんなに顔に出ているのだろうか。そんなつもりは一切ないのだが。


『ーーってーーーーすーー』


「あ? なんか言ったかレア?」


『……はい、油断しないようにと』


 分かってるっての。初日とは言え、あれほど一方的にやられた相手に油断などできようものか。


 俺はレアの言葉でより一層気を引き締めた。






「さあ、リベンジマッチだ」


 フィアが探し出したウィークベアーを前に俺は剣を構える。


 今更だが、普段は俺が抱えているレアは戦闘中は空中に浮いている。ちなみにギルドなんかでは手に持っているか、背中に紐で括っている。背中にいる確率が最近はかなり高い。


 本が浮いているのを見られたら注目されるんじゃないかって意見もあると思うが、魔法使いには杖の代わりに本を使用するものもいるそうだから問題はない。それにどちらにせよ妖精たるフィアがいるのを見られたら注目を浴びるのだから今更だろう。

 なるべく人がいなそうな場所を選んで戦ってはいるが、流石にこれ以上は気にしていられない。


「グオァァァァ!!」


 俺が剣を構えるのと、熊が走り出すのはほぼ同時だった。熊が走り出すのを認識してから、すぐに構えを解いて回避行動を取った。


 コイツはパワーもスピードもあるが、戦い方は全て直線的。

 前の俺にとっちゃそれが逆に辛かったが、それなりに戦いを経験した今の俺なら、容易とまでは行かないが、避けるのはそう困難なものではない。


 避けられたことを悟る熊はその突進を止める。そこに俺が新調した剣で攻撃を加える。青みがかった刀身は、熊の体を悠々と斬り裂き、赤が空へ舞う。


 それを数度繰り返すと、身体への無数の傷を代償にようやく当たらないことに気づいた熊が、攻撃方法を変える。


 選んだのは、後脚二足で立ち上がり、前脚の強靭な爪による大振りな一撃。


 当たれば必殺の一撃。


 だが当たらなければなんて事はない。


 一度目はバックステップで避け、二度目に立ち上がり振りかぶった瞬間、脇を潜り抜け、背後から剣を大きく振りかぶり斬りかかる。


 その一撃で勝敗は決した。


 痛みで爪の振り下ろしをやめた熊は、ただ背中の痛みに悶絶し、咆哮を上げるばかりで隙だらけ。


 再度、剣を振りかぶり叩き下ろす。

 剣で斬ったとは思えないような、鈍さの残る音が辺りに響き、


「グオ、ァ、ァ……」


 その爪を二度振りかざす事なく、ウィークベアーは息絶えた。

 立っていたその巨体が、力を失い前方に向かって倒れ、ドシンと地面が揺れた。


「……ふぅ」


 精神安定のおかげか、落ち着いて戦うことができた。そのおかげで案外すんなりとリベンジを果たすことができた。


『リベンジにしては上出来です。中々の戦い振りでしたよ、クオン』


「ふぃふぃふぃふぃー!!」


 純粋に褒めてくれるレアと興奮した様子のフィア。その対照的な二人の対応を微笑ましく感じると同時、素直に嬉しく思う。



 これで俺はようやくスタートラインに立ったと言っていいだろう。

 未だ未熟極まりないが、それでも確信を持てた。


 この世界で俺は戦える。


 自惚れではない。自分が弱者だという事は理解している。俺より強い奴がこの世界にはたくさん、いや大半が俺よりも強者だという事も理解している。



 ただ、強くなれる確信を得た。

 今はそれでいい。ーーそれだけでも。




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