汝、覚醒屋也
屋上の風、涼しくて冷たい風が、俺の肌を撫でる。
「あー」
あれから三時間。教室を探すのも面倒になった俺は、未だに屋上で寝ころんだままだった。
右手を空にかざして眺めてみる。やはりいつもとなんら変わらない右手だ。しかし紛れもない。この右腕から俺は、雷を出したのだ。
てか何すれば俺は現実に戻れるんだ? もう夢ではないことはわかった。となると現実での俺はなにしてるんだ? この世界に俺がいるってことは、この世界の俺が俺のいた世界にいるってことだよな。え、変なことしてたらどうしよ……。それは向こうも同じ気持ちか。
「考えたって仕方ねーかぁ」
「見つけたぞ神城!」
背後から男の声がする。
「誰だよぉ……」
振り返るとそこには、サッカー部エースの波寺がたっていた。
「波寺?」
まて、安易に話しかけるな。こいつは俺の知っているツイッターで悪口言っちゃうよ~の波寺とは別物。しかしややこしいな、そうだ、区別するために呼び方変えてみるか。
「お、水蓮」
水蓮は、気味の悪そうな顔でおれをみつめる。
「な、なんで下の名前で呼ぶ……」
「おう、水蓮」
やっぱりこっちの俺も苗字呼びだったかぁぁぁぁ。いや、しかしここで表情は崩さない……。
水蓮は咳払いをして勢い良く人差し指を指した。
「今日こそどちらが二年最強か、そして天元十二席にふさわしいかはっきりさせるぞ!」
「え……」
「昨日までの戦績、俺のゼロ勝五百四十敗! 今日お前から初勝利をいただく!」
水蓮は、右手の掌に水の玉を作って俺に向かって走り出す。
「ちょ……え……」
水蓮の右手は俺の顔面に直撃。背中から倒れ込んで顔面をおさえる。
「え?」
「いってぇ、なんで水の玉当たっただけでこんなに痛いのこれ……おいお前、なんだいきなり、ずりぃぞ」
目を丸くし、口を開けて立ち尽くす水蓮。
「え、ちょっとまって、ごめん、え?」
「え? じゃねえよ」
ハッとした表情で、水蓮は一歩下がる。
「髪の色が違う……お前……お前……誰だ?」
「人の顔面に異能力ぶつけといて誰だじゃねえよ、神城瑠夏だ」
「う、嘘つくな! 神城はこんなの当たらないしそもそも髪は黒い!」
「当たらないとわかってる技くりだすなよ」
「だ、誰だお前……」
はぁ。説明するのめんどくせ……。つーかいつもこいつに喧嘩吹っ掛けられてたのか、俺。
かくかくしかじか。
「異世界人……? だと? ふ、ふざけるな!」
「ふざけてねぇよ。俺は異能力がない世界から来たの」
目を瞑って頭を抱える水蓮。
「じゃあなんだ、今俺の目の前にいる神城は、無能力者ってことか?」
「うーん、一応使えるよ、雷みたいなの」
「か、雷? 能力が変わってしまったということか?」
「変わったって、俺雷の能力者じゃないの?」
「い、いや……そんなはずは……」
水蓮はまた少し考えて、手を叩いた。
「そうだ! おい神城! 俺の使ったさっきの水弾、俺と同じように作ってみろ!」
「はぁ?」
半信半疑で、俺は手を開いて水の塊を作ることをイメージする。
目を瞑って考える。そんなのできるわけ……。
「できたぁぁぁぁぁぁぁぁ」
腰を抜かす水蓮。俺も、目を開いて自分の手を見つめる。
「まさか能力は変わってない……覚醒屋の能力はそのままってことか!」
「覚醒屋?」
「あぁ! 見た能力を覚醒状態、つまりは最大の力で再現可能の能力。お前の能力だ神城!」
「え、俺そんなチート能力だったの……」
じゃああの雷は、開花した状態のあのいじめられっ子の能力だったのか。あいつ成長したらやばそうだな。
ゆっくりと立ち上がる水蓮。そしてゆっくりと歩を俺の方に進める。
「神城。良かったな! これで俺も心置きなくお前に立ち向かえる! 一時はどうなることかと思ったぜ。その能力で分かんないことがあったらいつでも聞け! お前の能力に関しては研究に研究を重ねてるからな。お前よりも詳しいくらいだ!」
なんだこいつ。
「お、おう。助かるわ」
水蓮は、一歩後ろに下がって、拳を構える。
「よし、そうと分かれば続きだ神城! 来い!」
「行かねーよ」