王太子の身分返上作戦に巻き込まれたらいつのまにか愛されてました
侯爵令嬢は王太子が好きなわけではない
はじめまして。メルティアナです。孤児で平民なので姓はありません。これでも今日、奨学金制度と特待生制度の両用で、この国一番の名門校、ウラトナ学園を卒業しました。貴族も通う、将来安泰と言われる名門校です。ここを卒業して、いいところの貴族様の侍女になって孤児院に恩返しをするのが私の夢でした。ええ、夢でした。それももう、叶わない夢です。ええ、アグナ王太子殿下のせいで。
「ミクリア・オルコット!君との婚約は破棄する!そしてこの、私の愛おしいメルティアナと婚約する!」
「そんな!殿下!どうかお考え直し下さい!そんな平民のどこが良いのです!」
「平民だからよいのだ!ミクリア!君には、君の家からもらった持参金を返す!さらに、慰謝料としてその倍額を渡そう!」
「そんなもの要りません!どうか私を選んでくださいまし!」
「足りぬか。では王家直轄のブランドの支配人権の一部もくれてやる!」
「…!」
がめついと噂の侯爵令嬢、ミクリア様の目が光ります。
「もう一声!」
「私のポケットマネーの半額をくれてやる!」
「乗った!」
「さあ、スマダートソン公爵令息。君は神官見習いだろう。私達の婚約破棄を受理してくれ」
「は、はい!」
こうしてアグナ王太子殿下とミクリア侯爵令嬢の婚約は破棄されました。そして…。
「メルティアナと私の婚約…いや、婚姻届けも受理してくれ」
「はい!」
私は口を挟まない…挟めない。そういう契約だから。
「さあ、これで私は王命である侯爵令嬢との婚約を破棄し、平民と婚姻したただの男だ。ただの男にここにいる価値…ましてや、王族である価値などない。そうですよね、陛下!」
今までのやり取りを呆然とみていた国王陛下が、やっと口を開く。
「このバカ息子め…そんなに王位を継承するのが嫌か!」
「はい!陛下!」
「ならばいい!優秀な第二王子を王太子とする!お前は王太子位ならび王籍を剥奪する!好きにしなさい!」
「ありがとうございます…父上」
父上、と呼ばれた陛下はピクリと反応したものの、もうアグナ元王太子の方は見ない。
「さあ、行こう。メルティアナ」
「はい、アグナ様」
こうして私達は、無事卒業、婚約破棄、婚姻、王太子位ならび王籍の剥奪というイベント全てをこなしました。
「アグナ様」
「私達の仲だろう。アグナと呼んでくれ」
「アグナ、これで私達の契約も終了ですよね」
「ああ、約束通り君の育った孤児院の借金は全て、私のポケットマネーから返済しよう」
「よかった」
そう、この条件があったから私は私の将来を棒に振ってまでこの茶番に付き合ったのです。
「ついでに」
「はい?」
「借金の倍額を、君の育った孤児院に寄付すると言ったら?」
…願っても無い!
「是非!」
「では、新たな契約を結んでくれ」
「なんでもおっしゃって下さい!」
今なら火中の栗を拾うことだってできますよ!
「私の、本当の妻になって欲しい」
「…え」
「書面上だけでなく、本当の妻として私の隣で生きてくれ」
「…えぇえええええええ!?」
なんでそうなるかなぁ!?
「そこまで驚くことがあるか?私は今まで、素直に自分の気持ちを伝えてきたつもりだが」
「ただの茶番じゃなかったんですか!?」
「ああ、そうか。契約のせいで誤解をされていたのか。すまない。私は君が好きだ」
「あ、アグナ様!本気ですか!?」
「ああ。君の孤児院…家族を思う美しい心に惚れたんだ。頼む」
そう言って跪き、私に求婚するアグナ様。ああ、もう!
「私を、私の大切なモノごと愛して幸せにしてくれますか?」
「もちろん」
「…じゃあ、よろしくお願いします。」
私がそういうと、嬉しそうにハグしてくるアグナ様。厄介な人に好かれてしまいましたが、幸せになろうと思います。
平民は元王太子に恋をしているわけでもない