聖人伝説(4)
大きな流れと選択ポイントはザンに聞いている。
客観的な考えを示してくれたのは助かった、この辺を押さえていなければちぐはぐになった可能性もある。
自分達の身元を明かすべきかは既に決めていた。
伯爵に告げたとおり。
仮面か何か、顔を隠せるものを屋敷で探してもらう。
防衛手段、これには氷壁や氷檻などは使える。
だが、攻撃魔法の種は使わない。
剣と弓だけ、せっかくの魔弓だが使うのは木の矢のみ。
仮面が見つかった。
演劇用のものらしいが、丸顔の茶さんは金色の太陽の仮面、他は普通。
悪いイメージのある、悪役の仮面は避けたそうだ。
矢はふんだんにあったので魔法袋に詰めまくるが、ロロなら必中なので多すぎるかも。
「最初から屋敷に跳べばよかったんじゃねえか?」
「いや、いきなりより、クッションを置いて様子を見たのは賢明と思います」
茶さんが冷静に答える。
正確な判断を次々下す、さすがだ。
馬を誰にするかだが・・・違った、転移イメージ提供者だった。
領内を一通り回っている伯爵を選んだ。
外縁部には魔物用兼用、他の地区にも火の見櫓があるそうだ。
少々ズレてもそこを目指せばいいし、そこから各地を見渡せる。
「敵意を示す光点は中心地のサラシリムに集まっています。
拠点だと思います。
他の地域には・・・遠くて分かりくいですがほぼいないような」
「あの、こういう時に不謹慎ですが・・・私自身治していただいてから食事をしておりません。
皆さんもよろしければ」
全員一致でやっと朝食を撮ることになった。
一応食事には、こっそり解毒を混ぜた除染をおこなう。
疑ってはいないが、念には念を。
患者たちは今も苦しんで、瀬戸際の人もいるだろう。
だが、焦りは禁物だ。
聖者来訪の広報が伝わっていなければ、治癒反対派を区別できない。
食事をしながら伯爵は病気の伝染方法についての調査結果を話す。
遠慮がちに『嘔吐物』という言葉を使う。
患者の世話で、さっきのそれや血液などに触れた者、夫婦などが多い。
近所でも罹っていない者もいる。
医学の知識がない者でもその意味は大体分かった。
まず地図を見て、各地域の大体の位置を把握する。
10の地域があるが、1地域につき1時間を予定。
反対派のいる地域から1時間以上かかる地域に飛び飛びに行く。
後半は、彼らも各地に、そして未訪問地域に集まることだろう。
拠点と思われるサラシリムが最後だ。
東西に跳びつつ、突発的に中央近辺へ。
方針は決まった。
最初の村、櫓は小さめで2人のユウが上へ。
茶さんは弓などで攻撃されたときの護衛だ。
村全体を覆うとなると、巨大な魔法陣が必要だ。
相当魔力を使い、踊るユウ。
満タンから次々重症者から治していく。
たまに近づいて来る者がいるが、ルーナの説明に反発する者はいない。
特に男性には効果てきめんだ。
というか、上で踊るユウに興味を引かれたようだ。
敵意は伝わってこない、近づいても来ない。
サラシリムに集結し、聖者訪問を伝える者がいないのかも?
反対派の動きから、隣町への移動に切り替える。
5時間ほどで5箇所、敵意のないうちに昼食無しで進める。
ユウの踊りを見に来る者ばかりで、敵意などひとりも無かった。
ほとんどの人がこの時を待っていたのか・・・。
いや最後まで気は抜けない、サラシリムでは特に。
午後4時位か、9箇所終わった。
サラシリムの伯爵別邸の塔に5人とも着いた。
ユウはきりぎりまで魔力を使い、町を覆って余る大きさの魔法陣を作った。
一組の年配男女が塔を見上げながらわめいている。
周囲に見物人が集まり、すぐに興味はユウに移ったようだ。
魔力消費が激しいと、5分ほど時間がかかる。
いつもより多めに踊っている。
やがて、男女は憲兵に連れて行かれた。
集まっていた敵意も同じ場所から動かない。
何かの準備をしているとしたら危険だが・・・。
踊り終わると、次々に治療する。
人口が多いので、患者も多い。
更に踊って治療する。
5回ほど踊って、患者はいなくなった。
「反対派の動きが気になるのですが・・・」
ユウが町の東の辺りを地図で指差す。
伯爵は落ち着いた様子で答えた。
「とりあえず、その辺に行ってみましょうか」
巨大魔法陣は放置、除染は続けられる。
見通せる場所ではないので、伯爵のイメージを使う。
数十メートル離れた路地へ着いた。
あまりに近いのと、人を避けてユウが調整したのだ。
全員仮面を脱ぎ、光点へ向かう。
憲兵が入り口にいるが。
近づくと、憲兵は伯爵に現代式に似た敬礼をおこなった。
「どうなったかね?」
「はっ、全員取り押さえております」
伯爵がユウの方を向き、ウインクした。
「ご苦労であった。予定通り面通しを頼む」
敵意の光点と人数は一致し、隠れている者もいなかった。
「では、屋敷で腹を満たしましょうか、皆さん」
治癒魔法反対派のアジトというか集合場所は特定されていて、あっけなく捕まったようだ。
伯爵自身は、地域全体に広まった悪習や潜伏した者たちを警戒していた。
結果として分かったのは、民の多くが普通の考えを持っていたが全体の雰囲気、というか反対派に逆らえなかったという事だ。
伯爵や周囲の賛辞に照れながらの夕食後、最後の仕事へ向かう。
「なるほど、よろしくおねがいします。
お返しできないほどの恩を受けましたが・・・。
とりあえず、ありがとうございました」
食堂にいた全員が、「ありがとうございました」と唱和した。
森に近い櫓へと一時転移、すかさず森へ。
実はまだ残っていた“感染者?または感染源”の完全除染。
反応のある森を魔法陣で覆う。
ワイルドボアを除染するのは、今までと同じ手順で終わった。
盛り上がらなくてすみません、流れからこういう事になってしまいました。
後日談は次回です。