実体化
“神速”で剣をふるうイジワ。
ザンは二刀を円形に振るう、ゆっくりに見えるが・・・。
基本は片手の動きをもう片手が追うような、単純な動きだ。
ザン自身はスキが出来ないように動いているだけらしいが。
もう“神速”がもたない。
「まいった」
大きく飛び退くイジワ。
木剣での対練は、二刀流の剣同士がぶつからないどころか、剣筋を交わらせないことで可能になることが増えた。
木剣で練習できることが目的だったのに、それを超えてしまった。
頭の奥の、ゲージというか白い四角の枠が黒く太くなった。
木剣と重なるように、真っ白な剣が実体化した。
木剣は地面に落ちる。
刃は真っ白、柄も全て真っ白。
頭の中のゲージの色と同じということか、確かめようがない。
「ユウか茶さんに見てもらおう、ユウを呼び出す」
ユウが現れ、一瞬後3人は消えた。
「無属性、純粋な斬り、これだけです」
茶さんの答えはシンプルだった。
はっきりした。無属性で『何も足さない、何も引かない』。
ゲージの属性説は証明されたといっていい。
纏いを解除すると剣が消え、纏うと実体化する。
ゲージ枠を意識すると出さないこともできる、慣れ次第だろう。
「あ、木剣忘れてきた」
ユウが両手に持っていた。
「あれ、さっき持ってた? 跳んでないし」
「跳んで持ってきたよ」
見えなかった。
恐るべしユウの転移。
「もう石無くても転移できんじゃねえか?」
ロロだ。
「試すなら、いちおうみにつけておくなのです!」
ポケットに石をしまい、細かく転移するユウ。
「できますね、魔力は数倍で精度も悪いですが修正で大丈夫です」
芋づる式に出来ることが増える。
というか、ロロのような柔軟でユニークな発想のおかげもある。
「宿で石無しですこしずつためしましょうなのです」
「ユウ、木剣ありがとう。
で、早速だけどまたあっちに送ってほしいけど、ごめん」
「あやまんなくていいから、いこ」
石を持たずに跳んでいた。
修正で普通と全く変わりなく見えるが、手間と必要魔力は僅かに増えた。
マスターしておけば、たとえ奪われたとしても敵の裏を掻けるだろう。
一瞬でユウは消えるが、僅かなタイムラグにザンもイジワも気づいた。
「やる気満々だね」
「ああ」
「オレ達もがんばらないと」
頑張ると言ったそばから、剣士2人は岩に腰掛けて休憩。
冷えたままのジュースを、まさしく『魔法瓶』から注ぎ飲んだ。
「先にイジワに聞くけど、『属性』を変える方法って思いつかない?」
「敵属性に合わせて変化すると仮定すれば、実戦が一番だが。
違う必要性があれば当然変化すると思う。
それが何なのかということだ」
「さすが。
あっ、忘れないうちに言うけど、対練では防御無視の突きを入れるといいよ。
フェイントでいい」
「ありがとう。
属性で思いつくのはイメージくらいだが、もうやってるんだろうな」
「今言われてもう一度振り返ってみたら、良さげな事思いついた!
宿に帰ってになる。
よし対練続けよう、2歩まで動いてオーケーで」
「わかった」
早めに宿へ戻ったザン達は、部屋の前でシンヨルを待ち構える。
茶さんに洗濯を待ってもらい、プランを伝えた。
一番の目的は、属性持ちとの戦闘の記憶を受信することである。
茶さんなら、はっきり見分けがついているはずだ。
ここで問題点に気づく、茶さんの“天賦の才”の秘密も覗いてしまうことにはならないか。
「自分の曖昧な記憶だから参考になるかも不安だし、そのくらい見られても何とも無いよ。
“天賦の才”の見え方が分かっても、真似できないからどうでもいいし」
ファイアドラゴンの記憶を再現してもらう。
分かりやすいように剣を実体化させているが、薄い赤になった。
これはドラゴン自身の属性。
次に水色になる、これは対ファイアドラゴンの氷属性だ。
「ふう、ありがとうございました。
この感覚をを強化して使えるようにしてみます」
“天賦の才”の見え方は、感覚的で真似は無理だ。
「今のおぼろげな記憶であれだけ出来るなら、相対した敵にはほぼ適応出来るんじゃないかと思うよ。
あと、オークは弱い『木』属性だよ」
なんと身近なオークに属性があったとは。
茶さんが今まで戦った魔物から、思い出せる限りメモを書いてくれるそうだ。
全員でえっちらおっちら討伐に出掛けないで済みそうだ。
今の属性の感覚をちゃんと強化できるのならだが。
夕食までの僅かな間にユウが『石無し転移』の実験をしまくっていた。
アリアが石を持っていても大丈夫。
結局、増幅や共鳴の役割を持つ石がなければ魔力は2~3倍必要で航続距離が落ちるが、練度が上がれば他は問題ないようだ。
食事でも、念話を受ける方のコツなどそれぞれ勝手に話している。
人が来たら遠慮するし、『念話』という言葉も使わないから聞かれても意味不明だろう。
念話で話し合わないのかって?
ユウとザンを通さないといけないので面倒過ぎるし。
同じ席でやったら、メールで会話する不気味な集団と同じだ・・・。
お風呂タイムが近づき、最近(変な意味でなく)欲求不満のルーナがユウを狩人の目で狙っていた。
波乱か。