ザンの確認作業
後の報告では、ダンジョンの異常の原因は悪質な『閉じ込め独占』だった。
やり方は伏せられたが、欲張りすぎて溢れさせたらしい。
こういった事は数年に一回は起き、しばらく見回りは行うが忘れた頃に繰り返すとの事。
僕らは事態収拾後、魔石回収もせずにギルドへ直行、報告した。
ダンジョンの不思議システムでしばらく後に魔石だけが残り回収された。
その数216個。
ランク的に討伐とは認められず、報告の報酬として半分を受け取ることが出来た。
最速で報告、調査できたのが良かったようだ。
ドロップ品の安物の毛皮等合わせて1万ジョネンちょっと。
公式には討伐ではないものの、実績が認められ三人はEランク昇格。
噂ではFランクパティーが無名の凄腕剣士を仲間にしてうまくやったとか、どこかの有名道場を破門になった剣士とか見当違いばかり。
まあ、ヘタレ剣でさえ一度も2人以外に見せていないし、ダンジョンでのアレも誰も見てないから当然か。
騒ぎの調査結果をギルドで聞いた帰りに、会う冒険者にことごとく話を聞かれ、全員に「よく知らない」と誤魔化して訝しげにされた。
なので、少し仕事は休みにして宿に籠もる。
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イジワとルナノがやけによそよそしい、というか必ず近づくと体を捻ったりしながら避ける。
聞くと「切れたらイヤ」だからだそうな。
まあ確かに・・・。
ということで検証作業。イジワとの練習に使っていた宿の裏庭にて。
昼間なので、居るのはちょっと儲けが溜まって食堂や居酒屋で飲んでいる連中くらいだろう。
まず、用意いたしますのは自分の手、ナイフ、そして練習用木剣でございます。
そういえば、初回オークの時には骨折覚悟のかばった腕で切れたような。
自分の身長ほどの木の、枝部分に空手チョップをお見舞いする。
はい、何も起こりませんね。
では、次は普通のナイフを振り下ろしてみましょう。
ボキッてなかんじです、普通です。
ちょっと焦りますね。
必死でラピッドウルフを思い出しながら「切れろ!」と念じてやってみます。
なんということでしょう!
感覚が全く変わってスパッと、いや音なんて全く無く抵抗もなく切れました。
次は木剣でございます。振り下ろしても、切れろと念じても無駄でございます。
根元付近で試そうと・・・あっ、木剣ですから刃の先の方を持ち、短剣と同じくらいの長さにします。
念じると・・・なんということでしょう!
やはりスパッと以下略です。
応用編に進んでみましょう。
チョップはダメですが、気合を入れてみましょう。
「あたぁっ!」
まずは雰囲気作りです。ダメですが練習します。
辺りをきょろきょろ見回して、誰も居ないのを確認後もう一度。
光で切れるイメージしつつ、「あたっ!」
お!なんという・・・もうやめよう。
ともかく成功。
疲れるので説明を普通に戻そう。
叫ぶ、というのは単に気合が入るかと思っての事だから関係ない。
単に切れるイメージ、光で切れるイメージ、とやってみたがとりあえずは光のイメージがいい感じだ。
手で斬るのはさすがにまずいので、手頃な木片で練習用ナイフ作成。
ゆっくりと、リンゴの皮を剥くように、ナイフの刃に光を付けるように。
・・・そうだ、最初に自分で考えた“光を纏わせる”要領でやろう。
スパスパと簡単に加工できた。
木製ナイフの出来上がり。
木のナイフを試す。
対象ではなく刃に光を纏うイメージで、特に力むこと無くサクサク切れていく。
あっという間に小さな木が幹以外丸禿になりそうなので、条件を考え、少しずつ変えながら実験。
分かったのは、やはり刃に光を纏うのが簡単。
光のイメージがないと切れない。
対象物に光をイメージしたり、色々試してみる。
もしかしたら、光でなくとも剣や刃に“纏う”イメージや感覚が分かればいいのかも。
オンとオフは間違いなくできる。
万が一にも間違えることはないはず。
イメージしないとどうやっても木のナイフや手では切れない。
万が一、ついついイメージしても、実際当てるか切る動作をしなければ大丈夫、切れない。
魔法じゃないし。
あと、最後に練習用の普通の木剣を持ち帰ろうとして気づいた。
繰り返し練習しまくったせいか、持った部分から光のイメージが見えた。
試すと光る部分なら切れる、それ以外は切れない。
実際に何が見えているのか、作用範囲を感じているだけなのか自分でも分からないが、範囲が目に見えるのは大収穫。
部屋に帰ると2人がニヤニヤしながら僕の話をしていた。
問い詰めようと思ったが、僕もニヤニヤを浮かべ、二人の背後にゆっくり移動したあと、いきなり両方の肩に抱きつく。
「うぉぉっ」「ひぃっ」
文句を言われる前に矢継ぎ早に説明を始める。
「きちんと実験して検証しました。
あなた方はキレテナーイ。切れなーい」
『はっきりイメージした上で切る動作をしないと』等詳しく伝える。
「まあまだ心配かもですから、まったく普通にしてとは言わないですけど。
安心して様子見てて。そのうち慣れてくださいね。
ぬくもりが欲しいんです」
最後の一言で台無しのようで、特にルナノに斜めからのジト目でこうげきされた。
なぜ顔を赤くするのかよく分からん。
今後の僕の“見せかけ”スタイルは、ダミーと言うか普通に練習した剣を使い、ここぞというときには両手短剣モード。
アサシン(暗殺者)ならぬ、短剣斬りの前衛。
既に2人には、【丈夫な体】を“特異体質”だと、ぼかしながらも伝えてある。
だから、イジワとの朝練では少々木剣が当たろうとも構わず、全力でやるように頼んだ。
最初はこわごわだった彼も次の日には徐々に、翌々日にはもう慣れてしまい、僕も平気で反撃するので効率的になった。
ちょっと考えていたんだけど、【丈夫な体】と一緒に剣技とか素早さとかに関わるものを取るのもありだったかな、と思ったり。
でも、実際ダンジョンで突っ込めたのも、オークでしょっぱな無事だったのも“女神様(の部下)推奨”のサブ能力あればこそである。
100%だからこそである。
恐らくだが、丈夫さはレベルでまだ伸びる。
この世界のトップ・・・まで行けるかは分からないが、技術は彼らと同じに努力で伸ばせるはず。
貰った能力をまず最大限に活かす、それからだ。
“世界の理から外れた力”だったっけ、それほどの力を全く活かせてないんだ。
数日後には知らん顔でギルド経由で森へ向かう。
遠くで噂しているらしいのはよく見かけたが、たまにダンジョンの事を聞かれれば「現場は見てない、知らない」で通し、誰も聞かなくなった。
狩場には悩んだ。
少しずつ森の奥へ踏み込んで行くことに。
中型のワイルドボアがどこからともなく突進してくる。
いきなりでなくて良かった、10数メートル余裕があった。
ルナノが火球で誘導するも、僕が正面衝突で吹っ飛ばされるという案の定の展開。
イジワと、即復帰した僕が再びボアへ。
ボアはもう事切れていた。
頭部分だけ切れていたので、毛皮は高く売れるだろう。
オークは出なかったが、ボア3匹で3往復と好調。
目指せ、更なるランクアップ!