叶った望み
「既にドーラ周辺ではザン君の事が知れ渡っているが、財力は充分だと殆どの者が思っているに違いない。
逆に、そのままでいる事こそ不自然と感じても不思議ではない」
ギルド長にジェギは同意する。
「ああ、その怪我と“悪魔教”を結びつける者は限られている。
暴走討伐主役のザン君に想像を超える報酬が入ったと考えるのが普通だ」
別に、オレが金持ちだという話ではない。
応接には、一緒に戦った12名とゴザのギルド長の全員がいる。
『解呪不可能な呪法陣が解け、欠損の治療まで出来てしまう事に多くの者が不審に思うのではないか』という問いに対する答えだ。
ついでに言うと今回の討伐も隠せそうも無いので、呪法陣を知らない者にとっては治療しないほうが不審だろう、という事になりそうだ。
本来、待ちに待ったはずの両腕の治療だが、今の様々な状況を考えると不安ばかりであった。
ザン本人も背中を押してもらえることを待っていたのかもしれない。
最後にはアリアがアンテを代表して、ふさわしくない話で締めた。
「秘密保持と情報操作はまかせるなのです。
夜の生活も充実まちがいなしなのです!」
全員が見事に黙り込み、話し合いは終結した。
ロロの体が痙攣している。
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例の魔物の体は内蔵が撃ち抜かれ、残った枯れた木と枝の各部のみ持ち帰った。
念の為解呪しようとしたが、既に全く問題なかった。
有用な素材であれば改めて回収するだろう。
周囲を切り開いての戦闘は、監視している者たちには気づかれただろう。
だが、特別な能力で見られでもしなければ、素早く動き回っているようにしか見えなかったはず。
たとえ詳細に見えたとしても、広まるのは何れにしても時間の問題。
どうということもない。
ルナノとユウの心配が先で、恩恵によるめまいなどなんでも無かったのだが、レベルは15も上がり“70”にまで達していた。
最上段、レベルの横にはそれぞれ、【斬】と【癒】。
異世界に送り出されたふたりが集結すべきだと示す物かもしれないが、黒いモヤを恐れるザンに、ユウと会う決意が出来たかは微妙だ。
ウインドがきっかけを作らなければまだ躊躇していた気がする。
右下にはふたりに同じ文字【調】。
説明が無いが、シンクロするような物か。
著しい変化は、ザンの脳内画面左中段の白い四角。
ゲージに見えなくもないが、今のところ“纏う”と白くなりオフだと枠だけになる。
ユウの画面は変化がないが、先取りで使えてしまっていたのではと言う。
進化するはずだとも教えてくれた。
ギルドに帰り報告を済ませて祝杯。
宿には戻らずギルドにご馳走を運び込む。
泊まるのもここ。
ザンの治療計画を考えての事だ。
ここへ戻った初日に装具をつけた腕を見せてしまったが、なんとでもなるというギルド長の話だ。
どうやって、と聞くとアンテ任せらしい・・・。
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全員が揃っていた、勿論アンテと強い繋がりを持つギルド長も。
ユウがいつものように踊るが、あっと声を漏らす。
何か変化があったようだ。
ルナノの時とは違った。
最初から白と金色の混ざった、今までとは違うくっきりとした魔法陣。
腕が実体化し、あっという間にくっついた。
おかしなもので、余計なものがくっついたような気がした。
普通に自由に腕が使えるのだ、多くの似た境遇の人の事を思えば、なんて罰当たりな事を考えてるんだろう。
ごめんなさい、と誰に向けてでもなく謝ってしまう。
両手の平を見て閉じたり開いたりした、もうこれで充分だ。
涙を流すルナノへ近づくと、抱きしめた。
「これで夜のウェ ムゴムゴムゴ・・・」
リリアがアリアの口を塞いでヘッドロックをかけていた。
いつものように笑っているかとロロを見ると、神妙な表情だ。
彼なりに、何か思い出すことがあるのだろう。
ジェギにも、以前聞いたとおり、友人への思いが蘇ったのではないか。
同様の治療が必要な人々に出会う機会もあるはず。
極秘集団治療の話は聞いたが、これからどうするのかという問いは当然だった。
緊急でない限り、アンテの意向に任せるという。
可能ならアリアが判断するが、いちいち出るシモネタが心配だ。
最初に歳を聞かなければ15歳として純情に振る舞ってくれたかも、というザンの言葉をユウは諦め顔で否定した。
ユウの場合、一旦その地を離れても、跳んで戻って治療すればいい。
面倒は増えるが、やはりアンテ任せなのだろうか。
そのうちこの世界全てに、ザンとユウの事が明らかにされる可能性はある。
ただ、まだ猶予は欲しい。
戻った腕への慣れは当然として、新しい能力とその複合、レベルアップによる変化。
そして何より、レベル横に現れた本当のふたりの能力について知らなければならない。
“魔断の風”のジェギ達は“壁の都市ドーラ”に帰るという。
「自分たちの無力を実感したからな」
と言うジェギにふたりも頷いていた。
だが実際のところ、彼らにはドーラでの変異対策やアンテ協力者としての仕事などやるべきことは多いはずだ。
強力なメンバーが揃うのは心強かったが、正式な持ち場での活動は不可欠だろう。
ユウが一瞬で彼らをドーラのギルドへ送り届け、各種アリバイは問題ないようだ。
治療がバレるわけにはいかないので、とりあえずそのままギルドに。
連日の祝い、ご馳走ばかりだ。
自分の手で取り味わう料理は格別だった。
アリアの煽る、夜のアレは妄想で我慢。
ザンとルナノは手を繋いだまま眠りに落ちた。
翌日朝、【調】をオンにしたままにしていると、人の声が聞こえてきた。
全く知らない声だ。
ラジオのように『周波数』を変えることで聞こえる声が変わる。
まだギルドの応接室だ。
近くにいたルナノに「体調どう?」と声をかける。
「うん、すごくいいよ。ユウさんのおかげ」
集中すると、ルナノは声と同じことを心でも言っていた。
よくSFである、『心の声が聞こえて来る』というのとは違う。
ザンの(愛おしい)顔
ずっと見ているザン→不思議
イメージが色々伝わってくるが、これは遮断できるようだ。
「心の中で『やっほー』って言ってみて」
(? やっほー)
「言ったけど」
“斬り”やゲージ(点滅表示だけ?)もそうだが、これはまずユウと実験を続ける必要がありそうだ。
課題が山積み。
新しい魔物が出ないことを祈るしかない。