永遠のトートロジー
徐々に近づく正体不明の魔物。
ここで大きな疑問を確かめる。
「魔物にぶつけるか真下からの魔法陣を固定化できないの?」
「今まで試したことがなかったけど。
固定化出来るのはひとつの魔法だけみたい。
この魔方陣が大きく強いからじゃなくて、仕様だと思う・・・」
「一旦こちらを解除すれば・・・」
茶さんが遮る。
「それは危険だ。
敵全体を包む魔法陣ができても、移動しながら怒った魔物が触手から呪法陣を撃つ可能性がある、そうなれば射程は110メートルになる。
そこまですぐには視えず警告が遅れた、すまない!」
再度状況を確認。
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味方はユウの固定化された魔法陣の後ろ半分にいる。
5メートル程度の距離で戦うことになるが、恐らく全力近い強度の魔法陣の限界なのだろう、多分呪法陣から全員は守れるはずだが。
問題は触手だが、後方中央にユウ、そのすぐ後ろに魔法師3人とロロとアリア。
それを囲うように、正面にイジワ、右に茶さん、左にジェギ、後方右にモスコ、左にリリア。
瞬間最大剣速はイジワだろう、両リーダーが左右で補佐すれば盤石。
回り込んできた触手には剣速とフットワークのふたりで対応。
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確認は【多】で一瞬だ。
あと150メートル程度、まずザン自身の“斬り”を試す。
「ユウ、ある程度強いのを2発頼む。
1発目で“斬り”が通用するか試す、2発目は魔法だ。
充分近づいてるから、魔法を吸われてダメ元で」
「イキます!」
ユウは杖を持っていない、こんな時にどうでもいい事だが。
撃たれた青い魔法陣の直後を追うように飛ぶザン。
左右上下から来る触手を全て切断していく、呪法陣は消えても青い魔法陣は消えず進む、さすがだ。
触手を斬りながら、ユウの魔法陣にも当てて一部斬ってしまうが・・・。
消えない、それどころか面白い事が起こったような。
着弾と同時に斬る。
反撃が始まるまで無限に斬りつけたいが、触手も来るので数撃しか無理だ。
呪法陣を避けつつ斬りながら離脱。
“斬り”は物理防御を突破したはずだが・・・。
斬れていなかったのか、再生速度の方が早いのか、無傷だった。
「次はタイミングを合わせて、魔法陣到達直後に魔法が当たるように。
触手が来れば斬るから」
魔法陣の速度は見ているので分かるだろう。
「イキます!」
触手は出さないようだ、妨害できそうに思えるが。
ほんの少し遅れてルーナ、ルナノと全力近い魔法を打ち出す。
ルナノの波○拳みたいなのを吸われたら怖い。
普通の魔法には触手が来る。
ザンが飛び出し、切断するが範囲が広すぎて間に合わないのもある。
幾分遅れてエリルのが来た、速い。
ルーナの風の刃は触手を切りつつも弱まったが、他は着弾。
魔物に大穴が空き、おおーと全員から歓声が・・・
魔物の肉というか果肉というか、一気に盛り上がり修復していく。
ユウが一発解呪を撃つが、呪法陣で相殺されてしまった。
全員黙り込み・・・ジェギが言葉を発した。
「再生の魔物は無限に再生するわけでなく、限りがあると聞く。
ザン君の斬撃が有効かもしれない、やる価値はある」
ユウが踊りながら話しかけてくる。
もう触手射程に入りそうだ、喋っていられるのは今のうちかも。
「『へんなおどり』でMPを吸えたら一番いいんだけどねー」
ププッと、場にそぐわぬ笑いをふたりで浮かべる。
「仲がいいのね」
ルナノが妬いている。
「地元の定番のギャグ・・・笑い話なんだ、ごめん」
もう、すぐに触手責めが来る、【多】で選択肢を狭める。
「魔法は温存する。
オレが斬りまくるから、ユウはさっきの強力なやつを繰り返し頼む。
触手と赤いのが来るぞ、本番だ!」
ユウの充電満タンを待つ。
既に触手が届いているが・・・弱い。
呪法陣は消える、ユウ、GJだ。
「触手は相当弱体化されてる、速度はほぼ同じだから気をつけて!
ユウ、GJ!」
親指を立てるオレに、ユウが踊りながらVサイン。
ルナノは少し頬が膨らんでいるが、耐えている。
地元から離れてたから嬉しいんだゴメン、と心の中で謝る。
ユウが魔法陣を撃ち、ザンが斬りつける。
斬ったあとは【視】で確認できるのに意識が行っていなかった。
【多】にも変なクセがつくこともあるのか・・・。
一瞬斬れているようだが、魔法と違い斬撃では修復が早いのか。
「魔法陣を速くしたほうがいいよね?
魔法のタイミングに合わせようとしたから」
「頼む」
そんな事ができるのか、タイミングが難しいが掴めれば恐らく楽になる。
触手の邪魔が減る。
再び魔法陣に続き斬る、問題ない。
そして何より、5メートルという近距離での戦闘が不安だったが、触手の弱体化と邪魔が減って攻撃できて、かえって楽だ。
嬉しい誤算だが・・・。
斬っても斬ってもすぐに戻る。
ヘラクレスとヒュドラの話を思い出すが、あれは首を切って切断面を焼いたという話だったか。
「魔法もう1回行こうか、近いしダメージも大きいはず」
「さっきの速さに戻すね、この速度」
ユウが小さな魔法陣を飛ばして速度を示す。
「おーけー、イクよ!」
再び魔法が撃たれ、近いので触手の邪魔もほぼ無い。
大きく削ったように見えた魔物の肉は、瞬く間に再生した。
「無理な人がいれば帰ります、遠慮無く言ってください。
またやればいいんですから!」
誰も何も言わない。
「魔法陣のおかげで楽すぎるんだよ」
モスコが珍しく反応した。
近すぎて、結構背後から触手が来ている。
口では言っているが、午前から7~8時間はぶっ続けなのだ。
「俺にも働かせろ・・・」
ロロがぼやく。
「ロロさんはマスコットキャラでユウと踊るといいなのです」
このバア・・・オバ・・・おねえさんもよく分からない。
遊んでいる場合ではない、疲労は溜まっているはず。
「イクよ!」
魔法陣が撃たれ、反撃回避にも慣れ更に数箇所斬る。
また同じだ。
これは無理な気がする。
「マスコットキャラ」がこの世界でどういう物なのかは不明。