解けない謎解き
説明とザンの思考が長いと思う方もおられるかも。
大事な謎解きですので、よろしければお付き合いください。
「ルナノさん、動かないで!」
ユウの【聴】が、宝石の呪いと同期しつつあるルナノを捉えた。
瞬時に解呪を飛ばす。
水色の魔法陣、不完全だが呪いを押さえ、更に【想】で維持され続ける。
解呪にしては魔力はそう減ってはいない。
魔法陣が既にあるせいか、点滅が見えない。
踊って充分増やし、解呪し直そう。
踊っているユウに、ザンもルナノも不思議顔であった・・・。
「充電中です」
ザンはすぐに分かったが、ルナノに通訳する。
「魔力を補充しているらしい」
「その封筒、封呪になってるんだよーっ。
出してしまってるから、そのまま動かないほうがいいかもー。
後で説明するねーっ」
ウザい話し方をする少女が告げた。
ルナノの持つ宝石の色が青色に変わっていく。
「あっ、もしかして」
ユウが踊りをやめた。
「【想】を切らないだけで解呪できそうです・・・」
ユウが予想していなかった使い方、いや今まで気づかないほうがおかしかったのかも。
【勘】でとっくに気づいていたはずだが、当たり前過ぎて考えもしなかったというのが正しいか。
あっそうだ、『魔力調整での癒やし効果の減少』があったからだ。
ちょっとした使い方で、新たな発見がある・・・。
ユウは完全解呪を感知し、【想】を解除する。
「解呪できました、もう大丈夫です」
ザンもルナノに注意しようと思うが、どう言えばいいのか・・・。
次からは素早く止めよう、『ルナノはドジっ子』と記憶に刻む。
「全員のしょうかいしておくのよーっ!」
ギルド長は自ら彼らから離れていた。
情報は、アリア側の望む物しか提供しない約束になっている。
ザンとルナノは黙って聞く。
いつか一緒に動くことになるだろう仲間だ。
アリアとリリアという名前は混乱しそうだが、この世界で最初の大事な仲間だと分かった。
“新たなる夜明け”、略してシンヨル、覚えやすい。
“天賦の才”である、能力を視る力はすごい。
皆の名前も覚えやすい。
ユウという同名は混乱しそうだが、ユウとアリアがあれこれ言い合って、本人の意向無視で『茶さん』でいいそうだ・・・ペッだ。
ロロも、ルーナも一発で覚えた。
『例の名前』だ。
お姉ちゃん、らしいのがよく分からないが。
最後に改めて、アリアが“アンテ”の中心的人物で、コネというか名誉職のSランクだと明かされた。
リリアは、“悪魔教でありながら大教皇”であるアードスに返り討ちにされ、一度殺されたっぽい状態からユウが初っ端のクソ力で生き返らせたという。
ザン自身の最初のオーク事件と似ている、と思った。
「で、その封筒だけど、わざわざ封呪してあったのはふしぎよねーっ。
おそらく、切りつけて呪いまで掛けた相手がくれた、らしいよねー?
あっ、封呪は一度解けると作用が不安定になるのよー」
「ほかに何もはいってないんですか?」
「はい、メモが入ってます」
ザンとユウに見えるように開くが、その後ろからアリアとリリア、更にシンヨル・・・
「見えねーぞ」、ロロだ。
「横にどうぞ」
「ありがとよ」
無愛想だが、エルフなので愛らしい・・・・・・?
名前が並ぶ。
~~~~
大教皇アードス
ウインド、Sランク
アーシュ、Aランク
トマソ、Aランク
ラリア、エビノ商会
~~~~
大教皇アードスの名前で、何のリストか一目瞭然である。
その下に一文が。
~~~~
転送石は解呪して使え
~~~~
「信用していいんでしょうか?」
ユウの疑問はもっともだ。
話によると、ルナノを殺そうとした人物がこっそり渡した物。
ザンの混乱はもっと酷かった。
無数の情報が脳内に流れるが、矛盾している。
当然だろう、相手はパズルのようにバラバラのピースを送って来るのだ。
それも、全てが事実なのかも不明だ。
ふと気づいて、ウインドの手紙を受け取った時点に記憶を戻す。
~~~~~~
手紙のニホン語『シンジロ』はフェイクか?
そして、彼は消えた。
そうだ、彼はきっちり戻った痕跡を残した、もしくは知らせた。
あの、記憶が遡り“魔物暴走”での【視】の覚醒を思い出した時だ。
だとしたら、彼はザンの能力を知りながら近づいた。
また、10レベルごとに貰った能力をウインドも持っていて不思議はない。
瞬間移動、もしくは時間停止能力・・・または転移石。
転移石がいくつも存在するのか、確認しよう。
その後、学園祭や演劇風の黒煙が焚かれ・・・。
最初にウインドはルナノの魔法袋に石と手紙を入れ、
2度目の出現でルナノを斬り、呪法陣をかけた。
10時間も高所を飛び出血が続いたが、ユウの力もあって助かった。
『傷はひどいが大きな血管は傷ついていない、このままでは危険だが』
ジェギの経験にもとづく診断を思い出す。
医者が、大事な部分を避けてわざと腹を切る話はマンガで見たことがあるが、そんなに簡単にできるものなのか。
さっきだが、黒いモヤの後の『恐怖の映像』はルナノが傷付けられる事だと思い出したような気がしたが、それはあと付けのような気がしてならない。
ここだけは最もはっきりしない、変だ。
ユウと会うのと順序は違うが、それ以外わざと予言の通りに再現した?
大事なルナノを傷つけることで、ユウと会うように仕向けた?
それはザンを騙すためか、他に目的があるのか・・・。
~~~~~~
ザンは一瞬で考えていた。
遡って事実を確認、分からない部分がやっと分かった。
何が分からないかさえ分からなかった、さっきまで。
アンテのおねえさんに聞こう。
「アンテのアリアさんですよね、おいくつなんですか?」
重い、どうしようもなく重苦しい空気が流れた。
この世が終わるのかと思った時、アリアが明るく言った。
「100くらいかなーっ。
細かいのは数え忘れたけどーっ」
ザンとルナノを除く全員が、恐らく2~300以上なのだろうと思った。
「やっぱり、というかそんなに!
で、この『転移石』というのは世界にどの程度あるのかご存知ですか?」
「ほぼ、伝説と言っていいだろうねー。
聞いたことはあるけれどもねぇ」
言葉遣いが戻っているが、誰も指摘しない。
ユウは悔しかった。
ザンには後で、伝説の『ロリババア』だと教えるつもりだったのに、何気なく年齢を聞かれてしまった。
絶対100歳はサバを読んでいるはずだが。
ザンは一つだけ答えに近づいた。
これを持ち出し、ユウに渡す事もウインドの目的。
本物であれば、だが。
「転移石を本物だと確認する手立ては?」
「使ってみるしかないかねぇ、ユウ、見えるかい。
できればユウさんも見ておくれ」
茶髪の丸顔の剣士、茶さん・・・何も考えまい・・・が近づいて、壊れ物を扱うように触れる。
ルナノに触れないようにしただけだが。
「人ではないので・・・これは! それらしき力を感じます。
邪悪さももうありませんし」
死角から小さな手が伸びてきて、茶さんの手ごと転移石を掴んだ。
「【無・聴・勘】を使います」
ユウだ。
「集中と探索とカンの良くなる能力です。
今度ゆっくり説明しますね、見てるうちに少しは分かったと思いますけど」
「オーケーです」
何がおーけーなのか。
ユウが消えた!
探すと、ギルド長の股の間から顔を出していた。
また消えた、と思うと1メートルほど前に移動、それを何度も繰り返す。
「見えるところには行けますね」
屋根を指差す。
指差した場所にいつのまにかいた、また下に戻る。
「狩場に行ってみましょう、真夜中ですが」
ユウは茶さんのてをひっぱり、石を持った手でルーナに抱きつく。
「ロロさんも背中に触って」
おそるおそる、ロロが手を触れる。
消えた。
数秒後にまた現れた。
ロロがいない。
「ロロさんビックリしすぎなんだから」
また消え、一緒に戻ってきた。
確定だ。
ウインドはこれを渡す事をメインに、様々な仕掛けをするために裏切った・・・
ふりをしたのだ。
おそらくは女神様の計画通りに。