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ザンとユウ

「ハイヒール!」


うつ伏せになったルナノをザンは仰向けにするが、治る様子もなくまだ出血している。


「ヒール!ヒール!

少しだけ治癒魔法が通ったけど、もう効かない!」

エリルの、聞いたことのない半狂乱の声だ。


腹部が横に斬られている。

シャツをめくると、くっきりと『あってはならないもの』が腹部の中央にあった。


赤い呪法陣。



ある可能性を試す。

短剣の長さに“纏い”傷と平行に浅く斬っていく。


「何を!」

理性を失いかけたエリルが叫ぶが、ジェギたちが止める。

エリルも見ているうちに理解する。


表面を斬っても何も変わらない。

「ヒールお願いします」

「ヒール・・・」


今の浅い傷は治った。

ザンの時に聞いたとおり、ターゲットの傷以外は治るようだ。


出血は続いているのがザンの時とは違う。


「失礼」

ジェギとモスコが覗き込む。


「傷はひどいが・・・内臓の大きな血管はほぼ傷ついてはいないようだ。

いずれにしろ、このままでは危険だ。」

ジェギの言葉だ、信用できる。


「治療出来ないなら、血を増やす施術・・・。

いや、傷をどうにかするしか・・・どうするか」

モスコも若干混乱しているようだ。



ザンがやっと言葉を吐き出した。


「この呪法陣は絶対解けないと聞きました。

でもそれが出来るかもしれない人を知っています。

イジワ、後を頼む。


ユウを探して辿り着く!」




多重思考が働く前に、いや、冷静に考えられたのは働いていたのかもしれないが、すぐに行くべき場所は思いついた。


ルナノを抱きかかえたまま、ショックを与えないようにゆっくりと上空に上がる。

他の者達に見られないように結構な高さだ。


ギルドの中庭に降下する。

途中まである程度の速度があれば気づくものはいない。


ここは大物を運んできて解体したりする、汎用広場だ。


浮いたまま上階の窓を覗くとギルド長ラダンが見えた。

近づき、透明度の低いガラスに似た窓を割れないように頭で叩く。


ラダンがこっちを見て、座ったままひっくり返りそうになった。



窓から入り、ギルド長に椅子を並べさせてルナノをゆっくりと下ろす。

テーブルよりましだ。

血がポタポタと落ちる。


「ユウさんの場所を教えて下さい」

ラダンは“アンテ”と少なくない繋がりを持つ。

それがどこまでか、賭けでもあるが・・・。


「本当にいいのですか?」

「無理なら早く言ってください! 時間がない!」


「本当に覚悟したのなら動きます、後悔しませんね」

「ここで会わなければ一生後悔します!」

「わかりました」



いきなりラダンにギアが入ったように動く。

机に行くと引き出しから石と鍵を取り出す。

鍵で金庫を開け放ち、別の石を取り出す。


通常の通信石に付いた、棒のようなものを5回叩いた。

5回点滅を数回繰り返すようだ。


机に置いた2つの石は薄く黄と緑っぽい色がついている。

「ザン君、この石を打ち合わせてください、肘でもどこでも構いません」


置いたまま両肘で挟み込み、カチンと打ち合わせる。

「もう数度お願いします」

カチンカチンと何度も音がした。



~~~~~~~~~~~~



ユウ達はいつもの訓練だった。

「そろそろごはん・・・ん?」

アリアが懐を覗き込む。


「ユウ、これを持って」

いきなり、ギルドで最初に見せた『例の石』を渡される。

「何か感じるかい・・・ますかー?」



夢で見た懐かしい顔。

就職面接で見た時の面影を残しながら、若い。

やはりこの世界にいる・・・分かっていたはずなのに。


「ザンさんです。

彼を探ります、気配が分からなくなるのでお願いします!」

奇妙な言い回しだったが、皆分かっていて周囲の警戒を始める。



どこかの遠い町。


やはり場所こそ曖昧だが、はっきりとした感情を感じた。

時間がない、という焦り。


その先は何だろう、今まで感じた事がない。

これは・・・・・・   『会いたい』だ。


「もう一度さっきのをいいですか?」


ザンの表情しか分からないが、焦りは分かった。

【無・勘】を使う、能力頼りでも構わない、何か分かれば。


「ザンさんが呼んでいます、とにかく会いたいようです!」

「分かったわーっ!」


ほとんどバレているが、懐に隠しながら目を瞑り何かを唱えている。


終わったようだ。

「ギルドにもどるよーっ!

ごはんは着いてからたべようねーっ」



しかし、『会う』としても一体何ヶ月後に・・・。

いや、それより機は熟したのか。

何かのサインがあったのか、ユウは受けていないが。


いや、ザンさんからは明確なサインが送られている。


周囲の気配を感じつつ、異常な感覚があった。



異様な速度で移動するザンさん、恐らくこの都市へ向かっているのか。

どうやって?



~~~~~~~~~~~~



ザンは西へ飛んでいた。



~~~~

ギルド長は『城塞都市ナーラ』を示した。

間違いない。

他のギルドには何のサインか分からない、誤送信だと後で訂正するのだ。



地図を初めて見た。

アンテだけの門外不出だそうだが、渡しても良いと言う。


しかし、手に持ち見ることが出来ない。

ルナノを抱きかかえるので精一杯だ。



多重思考でイメージが覚えられないか・・・。

初めてのトライ、全体は無理だが。

目的のナーラや周辺の地形ならいけそうだ。


目をつぶると、地図の一部がそこにあるように見える、気がした。

~~~~



全力で高空を飛ぶと若干苦しい。

ルナノをしっかりローブとマントでガード、呼吸はしている。

スピードは落とせない。


時速何キロか分からないが、まともに風の抵抗を受けるザンが苦しいのは当然だ。



地図に定規を置いてもらって確認したが、中間までは森の境界に沿って真っ直ぐ。

その後、森の上空をそのまま飛べば最短で着くはず。



加速すると、一瞬大きなショックを受けた。

その手前でキープ、自分は耐えられるがルナノが持たない。


音速か、秒速350メートルくらいだったと覚えているが、時速など計算する気にもならなかった。

とにかく早く。



ルナノを冷やさないよう、途中で思いついた。

自分が仰向けになり斜めに飛び、上にルナノを乗せる。

風もほぼ自分だけで受けられる。


どっちを向いていても【視】で周囲が見えるのだ。

同じ様に、ルナノの顔色や状態もズームで見える。


冷えているが水分も取れないせいか、ふたりとも催したりはしないようだ。

ルナノが漏らそうが、別にいいが。



日が暮れて、もう暗い。

街明かりが遠く、おぼろげに見える。

まっすぐ飛べば、いつか『城塞都市』のひときわ明るい光が見えるはず。



~~~~~~~~~~~~



速い。

もう空は星がくっきり見えるが、ザンさんは速度が落ちずに近づいている。


近づくにつれ、もうひとりを感じていた。

ザンさんの最愛の人。

血を失っていて、このままでは危ない。



あれからずっとギルドに居る。

たまに全員に近づいていることを説明する。

ギルド長もいる。


ユウの事を知っていれば、全員が、ザンという人の凄さも想像できる。

あの“魔物暴走”を止めたのだ。

何が出来ても驚かない覚悟を全員がしていた。



ふと思いついて、中庭に走る。

皆何事かと付いて行く。

いつもと同じく、踊るユウ。



ギルド長ガドラに尋ねる。

「ここに、魔法陣の柱を立てておきたいのです。

いいでしょうか」


「あ、ああ。まず部外者をギルド内から締め出しておこう。

魔道具の実験とでも言い訳しようか・・・。」



ユウが【無・想】で魔法陣を作る。

なるべく明るく、天まで届くイメージ。

離れていても、ここにピンポイントで着けるはず。



庭いっぱいの大きさの、天空まで伸びる白金色のタワーがそびえ立った。



~~~~~~~~~~~~



もう半日、10時間くらいか。

夜になってしばらく経つという事でしか時間の推測ができない。



あれは。


眼下(背中側)は真っ暗な森、その向こうに光が見えた。


天まで届くような光の線。



30分ほどで、魔法陣と分かった。

間違いない。





やっとたどり着いた。


やはり、速度を落とし過ぎぬ様に降りる。

ふわり、と地に足がつき、ルナノは既にお姫様抱っこしていた。



7人いたが、ユウはすぐに分かった。

中学生くらいだが、自分も同じ。


「ザンです。

妻のルナノが傷と呪いを受けています、ユウさん!」



「お久しぶりです、ザンさん」

魔法陣の柱は消す。


既に準備は整っていた。

呪いと傷、出血が多い。

ゲージ200%の半分、いける。

そしてザンさんの腕は・・・。


「待って、オレ・・・僕の傷はまだ絶対治さないで!」


ユウは混乱するが、茶さんがフォローする。

「治して剣の間合いが変われば、相当な感覚の違いが出来ます。

たとえ長くなるとしても、強敵と戦うには剣士として致命的です。

改めて治してあげましょう、ユウさん」




「ユウ、イッキまーす!」


どこかで聞いた事がある気もするが、今はいい。


最初水色から、緑、オレンジへと変化する魔法陣に包まれるルナノ。

「解呪と治療と、多分血液の擬似的な回復は出来たはずです。」


魔法陣は忘れぬようすぐ消す。



ルナノがキョロキョロしながら立ち上がり、それにザンが抱きつく。


「この人がユウさん。妻のルナノです」

「はじめまして、ザンさんとはただの知り合いの相方のユウです」


今回はロロ(ろろ)だけでなく、全員がププッと吹き出し笑っていた。



ザンは思い出した。

多重思考は告げているが無視していた。



既に、『巨大な目』は気づいているはず。


黒いモヤは迫っているのか?

恐怖の存在は?


ここでザンとユウの物語は結合します。

副題からどちらかを示す名前が消えます。

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