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ザン、敗走

今朝ギルドに着いたときには『魔物が種子を飛ばして増えるのでは』という、根拠は無いにしても有り得ないこともない噂が広がっていた。


しかし、オーガ出現地域のここまで進む者はほぼおらず、多数の冒険者は通常営業している。




『偵察隊』の地図は完璧と言ってよかった。


複数の岩や木の位置の組み合わせで位置が示してあったが、ここで間違いない。

ここまで辿り着くにも広大な森の奥地であり、的確なルートが分からなければ無理だった。



それは、岩山のようにも見える。

一見、大岩の上に何かの枝が規則的に突き出ている。


偵察隊は、討伐隊の遺体を見つけた時点でそれ以上近づかなかったそうだ。

周囲の木の幹に、地図に示すとおり布が巻きつけてある。

ここからボア肉などを弓に結わえて飛ばしたが、反応しなかったそうだ。



数時間に渡っての観察と、餌になりそうな物を飛ばし、最後には一人が残って弓矢で攻撃してみたそうだ。

結果は反応なしだった。


魔物の周囲は若干開けていて、その全貌がなんとか見える。

イソギンチャクのような大きな植物だ。

上だけでなく、地表近くにもうねうねと枝なのか触手なのか不明な動きが見える。



「報告の通り、全く動いていないようだ。

一撃入れてみていいか?」

ジェギはザンに一応確認する。


「待ってください、隠れられる場所がありそうです。

それと・・・人が近づいた反応を見ておきたいです」

「君なら大丈夫だと思うが・・・注意しろよ」


ザンは全員の顔を見て、最後にルナノに頷いてみせた。

大丈夫だ、というように。



ザンは右斜め上へと跳ね、飛んだ。

皆の見える場所から右45度の場所に浮かんだ。


歩くような速度で近づく、真横から見る仲間には距離が分かるだろう。

まっすぐ向かうのと感覚は違うが。



恐らく25メートル程か、干からびた死体の位置と同じくらいで突然始まった。

頂上から直線的に打ち込まれる呪法陣をザンは避けつつ斬る。


斬りで消滅を確認できた、次に来た赤い呪いは避ける。

『射程』と思われる距離を過ぎるとうっすらと消えてゆく。

もちろんザン本人にも見えている。


挙動が分かった、と思ったところで思わぬ事が起こった。

20メートル付近からは触手が襲ってきた、速い。

【多】で可能性を感じていたとは言え、あまりに速い。


一撃目を切り落としつつ、横からの別攻撃を避けつつ、呪法陣を避けて離れるザン。

と、見ている全員が息を飲んだ。

一気に敵に飛び込んたのだ。


魔法師の2人には追い付けない動きで、数瞬後にはザンは真反対の射程外まで移動していた。

呪法陣や触手が消え、斬られたのは分かったが。


ザンが大回りして戻ってきた。

「再生してるようですが、どう思いますか」


ジェギが答えた。

「確かにそうだ、成長してるだけなのか本体部も再生するのかは分からないが。

厄介なのは、触手は何とかなっても呪法陣はザン君に頼りきりだという事だ」



「左側に、全員身を隠せる大きさの岩があります。

ヤツの射程ギリギリ外ですが、そこから一気に攻めてみたいのですが」

反対する物はいなかった。


大きく左へ移動し、ザンが先頭となって呪法陣を警戒し、岩へたどり着いた。


まずザンが斜めから攻撃し呪いと触手を引きつけ、本体に魔法を2人で撃ちジェギの剣も使えればなお良い。

通用するなら続けて行う。



「行きます!」

ザンが一瞬で加速して飛び出し、触手や呪いを斬る。

「3、2、1,ファイアアロー!」


エリルの魔法は高速で、ルナノはフルパワー、でかい!

魔法が着弾、したと思った瞬間魔物の表面に赤い魔法陣が。

2人は既に岩に身を隠している。


信じられない事が起きた。

魔法は吸われた。

魔物は3メートル近く巨大化した、上にも横にも。


「まっすぐ逃げて!」

ザンは斬りつつ、思い切り叫んだ。


射程の伸びた呪法陣が岩に一発当たったが、大丈夫・・・触手の挙動が変わった!

ザンは岩の前へ移動、赤い光と触手を斬りまくる。

魔法に脅威を感じたのか、巨大になったせいか、ターゲットが増えたのは確かだ。


「触手はこっちでもやれるぞ!」


速さこそ変わったようには見えないが、その多さに逃してしまった。

しかし、3人の剣士には問題なかったようだ。

後ずさりながら対応する。




皆射程外へ逃げ、ザンも戻った。

5メートル程度は広がったようだ・・・。

それも、一時的かもしれないが触手も。


「根本から戦略を変える必要がありますね」

ザンがらしくない言葉を吐き、ジェギも同意する。


「ああ、マトモに通用するのはザン君だけだ。

どうしようもない、いまのところは」


「安全な範囲や注意事項も書き換えてもらわないと危険ですね」

イジワも色々考えているようだ。



初めての敗走。

当然あり得る事で、誰にも怪我など無かっただけでも良しとするべきか。


まだやっと昼になる頃か、食事は後に考えてまずギルドへ。



ザンの中で、いきなり以前の記憶が蘇った。

キングの討伐、【視】の覚醒・・・。

「どうした?」

イジワの声で意識が戻され、ブンブン首を振るザン。


黒い煙?

発煙筒か、風上の木の影から漂ってくる。

不気味というよりも、学園祭のアトラクションのようだ。


隊列の中央にいる魔法師2人の前に人の影が現れ、消えた。

確かに誰かがいたが、消えた。


声を出そうとする前に、もう一度現れ・・・

ザンは一瞬に移動するが間に合わなかった、赤い魔法陣が見えた。


全神経を全方向に集中したザンはもう一度数100メートル離れた誰かの動きを見たが、すぐに消えた。

「逃げられたようです、飛び飛びに姿をとらえましたが・・・」


エリルが声も出せず固まっている。


ルナノが血を流し倒れていた。

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