ただいま、ユウ
珍しく早朝からギルドに来ている。
アリアが1階に戻り、いつものようにオーガ狩りへ。
道中、いきなりアリアが告げる。
「“呪われ”殲滅したって広めてもらったのよっ」
ここから発信された、ということは位置がばれるのではと思ったが、ちゃんと対策済みだった。
「ギルド長がアンテに暗号を送っただけなのよーっ。
手順は相談済で、アンテから各所につたわるのよっ」
「次の動きを誘うって事ですよね、大丈夫でしょうか」
カンを働かせたユウがすぐに聞いた。
「“呪われ”が減ったってことも、消えてしまったこともまったく反応がないみたいなのー。
ヤツラはあれをばらまいて、世界中の冒険者がパニックになるのを待ってたのかもねっ」
「何らかの時間稼ぎとも思えますね。
意外な事態に奴らが焦る可能性もありそうですね」
さすがリリア、ちゃんと考えている。
やがて、オーガ狩場でも岩の多い場所に着いた。
リリアの案内だ。
「今日は岩場に慣れておきましょう」
よく意味が分からないが、全員配置どおりに動く。
「おひるごはんのじかんですよー」
全員キョロキョロ声の主を見回す。
もう分かっていると思うのだが・・・。
「おまえら、岩場にもどって飯食うからな、ついてこい!」
アリアがグレた。
「はい、ユウさんはその岩に。
隣がユウね、他はてきとうにー」
ギリギリ2人座れそうな岩を指して言う。
もっと大きな岩もあるのだが・・・。
お言葉に甘えて並んで座る。
ギリギリなのでピッタリくっつく。
アリア様、リリア様、分かりやすい配慮ありがとう!
鎧はつけているが、茶さんの感触と体温が伝わってくる。
「今日もいい天気、ですよねー」
「うん、いい天気だね―」
「クモです!」
雲じゃなくてクモだ、ノールックで蒸発させる。
「おいしいですね」
「うん、おいしいね」
「え? お、大きい」
食事中なのは幸いであった。
肉か骨でも大きいのがあったかと思ったに違いない。
全員が怪しげな手の動きがない事を確認した。
弁当の包みを茶ユウに渡し、黒ユウが立ち上がった。
「“呪われ”です、ものすごく強いです」
踊りだす。
魔力容量は増やさずに先にゲージが明るくなる。
それから容量が200%に向けて増えていく。
まだ、その順序に何の利点があるのかは分からない。
満杯になり点滅を確認・・・意味が無いと直感的に分かった。
「最初に“呪われ”と言いましたけど、別のものです。
そうとう離れてるのにいるのが分かったのと、呪いも持っているんで。
ここからは、・・・私には無理です」
「場所はわかるー?」
「ザンさんのいる方面だと思います。
いまのところ1匹だけです」
「ようすを見て、できればザンさんに期待ねーっ!」
周囲の警戒をオンにする、忘れていた。
「はい、ユウさん」
座ると、茶さんが弁当を手渡してくれた。
いつものように鍛錬を続け、早めに帰った。
ギルド長に会ったアリアが戻ってきて、不可思議な事を言った。
「東の、壁の都市方面ってことで情報をいれとこうとしたんだけどっ。
先に報告が入ってたんだってー、現地の“冒険者の町ゴザ”に」
「誰かが見つけたということではないんですよね?」
リリアだ。
「うん、ゴザの森の奥に“授与魔法”のがいるって匿名で連絡があって、討伐隊がでたらしいよーっ」
「匿名ってどういうことでしょう?」
「ギルド長の考えでは――わたしも同じだけど――ギルド内の人っぽいらしいよー。
わたしたちなら間違いないから、裏が取れたということねー」
「恐らく、いや間違いなく、ザンさんじゃないと無理です!」
みんな気づいていると思うが、言わずにはいられなかった。
「うん、彼は確か壁のとこにいたよねー、早くに行くことはできるはずよっ!」
彼らが戦う事になれば援護くらいはここからでも出来るかもしれない。
でも、まだ会うことも出来ないし、ここからは数ヶ月の距離だ。
動きが見えるまで、祈るしか無い。
せっかく茶さんと並んで食事できるのに、新しい魔物とザンさんの事が頭から離れない。
「ユウさん、もしもだけど話せることで何かあれば相談に乗るから。
僕じゃ頼りないかもしれないけど」
「いえ、とんでもないです!
一緒にいてもらうだけで嬉しいです、安心できますから、好きですから」
皆、からかったりなどしないが、目が泳ぎ、知らんふりをするのに必死で自然に会話出来ない。
全員が全員、似た感じの人が集まったパーティーであった。
ロロだけは珍しく笑顔だ。
なんなんだ。
風呂ではルーナパイを忘れて、なんとなくアリアの体やリリアさんのおっぱいを眺めていた。
「考えすぎちゃダメですよ。
今はこちらで出来ることをやりましょう」
リリアさんが久しぶりに近づいていた、おおきなおっぱいも一緒だ。
大事な事に気づいた気がする。
茶さんの時もそうだったが、必死で答えを求めてもそれは逃げていく。
前にも思ったが、おっぱいやおしり達も同じだ。
欲望を求めず、自分にできる精一杯・全力を尽くしていれば向こうからやってきてくれる。
実際そうだった。
ただいま。
2話ぶりに誰かが言ったような気がした。
翌朝、ギルド長によると、討伐隊は現在不明だそうだ。
ザンさん達、魔物暴走撃破の最強2パーティーが向かうという。