ユウ、魔法を習う?
農作業は手伝わせて貰えなかった。
何かできることがあればやりたいとは言ったが、良い服を汚してしまうと大変だと。
正直助かったけれど。
朝食は遅めのブランチ。
一般的に一日二食なんだと思う。
そういえば、昨日の昼は遅めでアリアさんは食べていなかったっけ。
おやつはあるのだろうか。
「記憶が無いんだって?」
「はい」
「・・・・・・」
黙り込んだ。
いや、私がなにか切り出せばいいのだけど。
なぜか焦った。
「そ、それでいきなり夜だったんです」
嘘はあそこに転移するまででいい。
朝一人でいた時に予習済み。
あとはほぼ全部本当に起きたことを言えばいい。
そこに人が落ちてきて、治せるはずと思って、色々やって、目が覚めて。
でも、もしも長い詠唱無しの魔法が異常だったり異端なら・・・。
もう治癒魔法のことはばれているはず、それがどんな位置づけなのか知る必要がある。
「・・・・・いきなり治してみようとしてダメだった、
触れていたら体が熱くなって、恐らく意識をなくしたか眠ったか、
ということでいいかい?」
「はい、そうです」
「あんまり得意じゃないけど、偉そうに分析してあげるねー」
妙な言い回しだけど、多分本当にそういうのは苦手なのかな?
「リアの言うあそこなら、落ちたら死ぬね。
おまけに・・・いや、いい。
暖かく感じるのは治癒魔法の特性。
やけどするような熱さだった?」
「いいえ、思い出せる限りでは自分の体の中から出るような?」
「うーん、そのレベルの魔法なら触らなければ使えないのはおかしいよ。
・・・でも、本当なんだねぇ」
アリアさんの目が優しかった。
「騙してごめんよ」
嘘か本当かを見抜く魔法、いや秘術。
凄く鋭い勘のようなものだが、正確。
普通の会話なら、何気なく事実と違うことも混ざってしまうらしい。
だが、尋問形式の時には絶大な威力を発揮する。
「最初からウソ。
本当にどうするべきか考えたよ。
あとは全部本当だった・・・。
何か深い訳がありそうだねえ。
だから信用はしてもいいかもと思ったよ、話次第では」
うわーー。うわーーホント。こりゃないわ。
どう誤魔化したら・・・。
「話せることだけでいいから言ってごらん。
敵じゃなきゃあ力になれるかもしれないよ」
敵? なんか怖いワードキタ━━!!
ここはネットの世界じゃない。
リアルで怖い言葉を連発されてガクガクブルブルだが、どうにかするしか無い。
話せること、話せること・・・。
女神様のことは、ダメだよねやっぱり。
「えーと、えーと。
わたしたちは凄く遠い世界で暮らしていました。
えらい人に治癒魔法とあと数種類の魔法を使えるようにしてもらいました。
山に飛ばされて、そこにリアさんが落ちてきたんです」
「それは悪魔の類なのかい?」
「いいえ!女神様みたいな感じです!」
やっちゃったー、やっちゃったー!あせっちゃったー。
女神様とか言っちゃった。
禁止ワードど真ん中ストライク!アウトー!
「神のようなものかい。神の名は?」
「わかりません、わたし信仰はしてないですし」
そうだ!本当かウソか分かるのなら。
「別の世界から来ました!」
アリアさんには本当だと分かるのだ。
別世界というのがよく伝わらなかったらしく、別の星と言っても伝わらない。
そういう概念がないのかな、星って言えば空に光っているもの、っぽい。
図を書いて、別の人間界、と言うとなんとか分かってもらえたよう。
文字を書いたが読めないようで、言葉で説明。
しっかり思い出せば、情報の禁則らしいものはなかった。
“レベル”について教えなければいい。
『女神様』とはっきり言ってしまったが、神らしきものと勝手に思ってくれたみたいだし。
「驚きだわー、こんな夢のような事に関わるなんて。
あなたは、魔法の論理や使い方がまったく分からないのねえ。
ここからはあたしの知る魔法の常識を言うね。
すごい力、治癒魔法をもらったと言ったね。
ほぼ即死のリアを治したんだから間違いなく真実ね」
「でも最初は何も起きなかったです、多分。
訓練をしなければ魔力は少ないんでしょうか?」
「実際に治した、浄化つまり霊的物理的な汚れを落とす余波が起きるほど魔力はあるはず。
でも全く初めて、訓練なしだった。
つまり技量の問題ね。
やっと体全体で触れて発動できたけれど効率が悪過ぎて意識を失うくらい消耗した、恐らく。
そんなところかな。
合ってればいいけど」
アリアさんは思い出したようにメモを見て、
「わたしたちって言ったけど何人で来たの?
一緒じゃないようだけど」
「もうひとり、ザンさんという剣士です。
おそらくこの世界にいるはずです、たぶんですが」
ほんの少し一緒にいただけだけど、会わなければならないはず。
確信はないけれど。
「火魔法と水魔法を教えてあげよう。
あまり時間取れないけど」
「お願いします!」
すぐ外へ出ての5メーター四方もない広場。
大丈夫?
「火球出て、飛び、爆ぜよ、ファイアボール!」
随分直接的だ。
祈るような詠唱のイメージとは違った。
言ったのと同時に15センチほどの火の玉が出て、飛び、爆発。
家の側は密林ではないので燃え移ることは無いだろう。
と思うと、似たような詠唱後、ウォーターボールで消化。
火の矢、水(氷?)の矢と次々出して、終わり。
「作って、飛ばす。あとは見たとおり。
じゃあ戻ろうか」
「あの、まだ覚えてもいませんけど!」
「大丈夫、多分だけどぉ」
家に戻るアリアさんに駆け足でついていく。
「あー、時間無いって言ったよね。だからあれで」
「詠唱さえ覚えてないですし・・・。」
「いい?詠唱は魔法の形や方向やスピード、あと効果があればいいの」
説明ヘタクソか!とこっそり無言でツッコむ。
「でも、練習くらいは・・・」
「イメージでできると思うよ。
あと、さっきの詠唱覚えないでねー」
「???」
「そろそろリア戻ってくるから。
お茶でも飲もうか」
上品な香りのハーブティー。
アリアさんに言われた通り思い出し、一つ一つイメージ。
「こんにちはー」
扉が開き、リアさんが立っていた。
ただいまじゃないのか・・・。
もうひとり、でかい、女性だ。
初めての獣人?かと思ったが人のよう。
露出は多く筋肉もりもり。
胸や肩などには皮の鎧のようなものを付け、腰にはでっかい剣。
バタン!と乱暴に扉を締める。
ちょっと怖い。
「行くよ一緒に、ユウさん」