ユウ、追いつく
集中するという能力。
今更、ではある。
試すのが良いのは当然だが、今一度考える。
以前は50レベルで準備が整い、ザンと共に戦うことになると思っていた。
既に【舞】による補助はフルになっている可能性が高い。
【勘】を使い、全ての能力を統合・発展させる。
この【無】“集中する”を極めることが、総仕上げのように思える。
集中ならば、間違いなく“癒やし”を究極に高めるはず。
美味しいけど調理法も分からないボア肉を食べる。
幸せを感じる時間だ。
これを、【無】を使って味わってみる。
フォークで刺して口に持っていくが何も起こらない。
噛みしめると・・・
濃厚さ、僅かな甘み、ソースの上品な酸味。
他の感覚が遮断されて味わうのみに集中。
飲み込むまでそれは続いた。
「イッちゃったかと思ったよ」
目の前にアリアの顔があって、驚きでビクンビクンとなった。
「はい、イッちゃいました、ああんっ」
ガシャンと音がした、茶さんがフォークを落としたようだ。
「冗談です、集中の能力でボア肉を味わってました」
ロロが腹を抱えて無音で笑っていた。
「味の解説とか無理なんで先に言っておきます。
表現力には限界があります」
「まあ、効果とか聞くのは後でいいか。
もう食べながらイクんじゃないよ」
外見うら若い乙女、のアリアの言葉遣いにツッコもうと思ったが、解呪が終了してからでもいいかも。
ロロも最初は全く喋らずとっつきにくかったが、今では一番アリアに馴染んでいる気がする。
風呂では潜伏する。
潜水したりはしないので念の為。
リリアから隠れて、ルーナパイを味わう。
舐めたりはしないので念の為。
「うひひひ、たまにはいいじゃねえか。
その熟れまくったおっぱいを触りまくってもよー」
「もう、ユウちゃんったら」
(中略)
「・・・ふう」
アリアのも興味があるが、解呪ができてからのお楽しみにしておく。
予想通りだった。
満量まで3分も経たなかったのではないか、魔力200%。
アリアの腕からの反応を見る。
10分の1も点滅していない。
「アリアさん、もう解呪していいですよね?
すぐ回復できる程度なんで、先にやっておきたいです」
「わかった、頼むよ」
「では、全力で。」
【無】を使う。
遠隔では使えなかった【想】もだ、本当に今の全力。
正式詠唱が最後の仕上げだ。
「ユウ、イッキまーす!」
さっきは味わうのに夢中で分からなかったが、目が見えなくなるわけではない。
これまでにない光がアリアの足元に現れた。
15歳位?の少女アリアだった。
呪いの反応は全く無い。
ユウは、消えない魔法陣を自ら解いた。
「あっ、ちょっと待ちな」
全員がなにか言う前にアリアが言葉を発した。
懐の何か見ているようだ。
ユウは察していた。
ギルドに丸一日連絡せず、言い訳のように朝寄った時くらいに分かった。
アリアは通信手段を持っていて、敢えて隠している。
今通信があるとすれば、魔物暴走の件か。
遠いザンを探ると、とても平穏だ。
まさか先遣隊で1000匹以上、底しれぬ強さのキングまで?
ザンさんならあり得るかも。
そんなことより・・・。
「アリアさん、鏡を見てください」
ユウが手渡した鏡でアリアが自分を見る。
「あら、あたし、戻っちゃったわ(はーと)」
語尾が不審だったが、スルーして言う。
「これからは、鏡を持ち歩いて『ふさわしい言葉遣い』でお願いします」
「わかりましたわ!」
わざとらしすぎる、要注意だ。
「あと【想】、つまり魔法維持の法則がおそらく分かりました。
距離が離れるにつれて弱くなり、遠いと使えません」
「なるほど、さすがだね・・・さすがだわ!ユウさん」
途中から目をキラキラさせて語調が変わった。
そういうのは要らない。
ユウが役目を果たしたので、もう誰も何も言わない、言えない。
特にリリアは感慨深げだ。
おばさんアリアと数ヶ月とは言え一緒にいたのだ。
魔力の増加分は自然回復しないのだが、予想つまり点滅の半分も減っていない。
「次々いってみます、火山のは全部倒せるかもしれません」
昨日までとは雲泥の差だ。
ゲージ点滅の半分程度で倒せる。
ゲージ点滅自体も、同じ魔物で昨日の半分程度か。
火山のものは一掃、レベルも2つ増え“53”。
「そんなに倒しちまっていいのか?」
「ユウの言う通り伝染性だとすると、早く倒すべきでしょうね。
“悪魔教”も自然増加を待つだけで何もできそうに・・・
もしかしたら新しい病原菌を撒くかもしれませんが」
ロロとリリアによる分析だ。
茶さんはイケメン、ルーナはおっぱいのそれぞれ担当なのでオーケーだ。
次は更に東側を討伐する。
世界の半分以上は倒した。
ただし、“呪われ”に限るが。
明日にはまた増えている可能性もある。
いくら魔力があっても、初の【無】での集中を連続で使うためか、精神的に疲れる気がする。
“54”だが、これからはレベルアップも厳しいだろう。
「みなさーん、もうそろそろ寝ましょうか!」
キョロキョロ部屋を見回す全員。
アリアと気づいて気まずそうだ。
翌朝は、アリアが朝からギルドでなにか確認するという。
(予想通り!)
魔物暴走はAランクの“魔斬の両腕”“魔断の風”2パーティーのみで討伐されたそうだ。
本当にやったんだと、予想していても驚きだった。
他のメンバーは言うまでもない。
ザンはユウと同じ様に“斬り”からのすごい能力を伸ばしているだろう。
ユウは誇らしく思った。
その夜には全“呪われ”討伐成功、“55”に届いた。
もちろん、こんなことで“悪魔教”が止まるはずは無いだろう。
大教皇もそのまま、まだ見知らぬ親玉も全く分からない。
これからだ。
R15なので自主規制すみません。