ユウ、撃破の舞台裏
いつものようにシンヨルメンバーとオーガを狩る。
平々凡々とした毎日だ。
だが、毎日の積み重ねが結果を出す。
実は、今日は何となく不安を感じる。
全く根拠はない。
治癒に使う“癒やし”の緑色が、濃くくっきりとしてきた。
少なすぎて既に分かりにくいが、消費も明らかに減った。
毎晩使う解呪も、魔法陣の色の純度や明瞭さが進化しているはず。
リリアが前衛とここを往復しながらわざと傷を作ってくるが、一度足から血をブシューと吹き出しながら戻った時はびっくりした。
治ってもふらついていたので、『元気に戻る』ように念じてもういちど癒やすと、オレンジの混ざった黄色だった。
血が補充できたのかは分からないが。
最初から症状を把握して癒せるようになれば良いが、もしかしたら【勘】を磨くことでより効率的に出来るような気がする。
医者が経験により正確な診断が出来るのと同じだ。
で、オレンジ色だが、これは赤に近いのではないかと思う。
血に関係があるということだろうか、アリアに尋ねる。
「うん、これはおおっぴらには言えないけど」
アリアが冗談のように真剣な顔だ。
「神の力、というか光や癒やしの力と“悪魔教”の力は、基本的には同じものなんだよ。
表裏一体というのがふさわしいかねぇ」
「同じ、なんですか?!」
「大きな力をより簡単に得るために、奴らは生贄を捧げその血を使う。
その赤だね。
自分の努力や才能で得た力じゃあない、自分で自分を呪うのさ。
最後には自分の魂を捧げてでも力を得ようとする」
「魂を捧げたら自分では無くなるのでは?」
「そこまで行くと、そんなことは些細になるんだろうねぇ」
正面方向のオーガの光点が消えた。
“45”、まさかのレベルアップだ。
昨日で44.99くらいだったのかも?
いや、確かにそうだけど、根本的に違う。
もうこのレベルになればオーガ100匹以上は倒す必要がある。
ずっと毎日のようにこの狩りを続けて、既に100匹は優に超えている。
つまり、まるまる1レベル分稼いだからには上がって当然なのだ。
朝から感じている不安が少しだけ軽くなった、気がする。
【勘】が根拠もないのに告げている。
【聴】の感覚が広がった。
探ってもいないのに、“呪われ”オークが見える。
異常に強いオーク。
近くにザンの強い光があるが、気づかず離れていく?
とにかく何かが起こっている、この2つの光点を追う。
「みんなごめん、魔物感知を止めます」
アリアはもちろん、背後でシンヨルやリリアが戸惑っている。
「ザンさんと、異常に強い“呪われ”オークを追います」
もちろん、魔物感知があれば狩り効率も安全性も上がるが、本来この仲間の強さでは不要でさえある。
「なにか理由があるんだろ、勘だね?
移動はかえって危険だからここにいよう。
倒せそうかい?」
「わかりません。
その場にいるザンさんなら問題無いはずですが・・・。
朝から不安を感じていて、さっき消えたんですが。
いや、不安というのは別で・・・とにかくやってみます!」
拳を舞う、しばらくするとくるくると跳ぶ。
5分ほどで満杯になった。
足りるのか?
ゲージは全て点滅している。
ん? 点滅が減ってわずかに余裕が出来た、オークが呪法陣を撃った?
ザンは・・・
伝わってくるのは困惑、“呪われ”に近づいてはいるが何も出来ない。
ザン自身には異変はない、力が充実している。
答えは『見つけられない』だ。
点滅の量が増えだした、まずい!
無詠唱で両手を上げ、瞬時に集中し光を飛ばす。
見える。オークだ、普通より大きい。
水面の輝きのように澄んだ水色に包まれ・・・イケた。
オークの吸っていた力が、撃たれた誰かに戻っていく。
アリアとルーナに支えられたが、気を失ってはいなかった。
ほんの一ミリ、ゲージが残っている。
ウメハラマジックの再来だ。
でっかい光が飛んできた。
“51”、もうこんなに増えないと思っていたが、確か6レベルも上がった。
「アリアさん、恩恵が大きくて・・・オークにしては変わってましたが」
「ザンさんのいたのは壁の町、魔素が異常に濃いところだよ。
あそこには変異オークといって、異様に強い魔物がいる。
“恩恵”も大きいんだよ」
ユウははっとして感じられる全域を探る。
他にはこれほど強い“呪われ”は存在しなかった。
「“呪われ”であれほど強いのは一匹だけです。
今までと違いますよね」
「思い当たる節はある。
帰りにギルドで確かめるよ。
予想通りなら、ユウの【勘】で大きな謎が解けるかも」
【舞】で程なく魔力は回復、スッカラカンから5分もかからず。
回復し始めは遅い、減り過ぎには注意だ。
後半はぐんぐん戻る、レベルアップ恐るべし。
一応、ユウの心配とギルドでのアリアのいう『情報』の確認のために早めに帰る。
宿で洗濯を終え待っていると、アリアが戻ってきた。
「予想通り魔物暴走、いわゆるスタンピードだよ」
シンヨルやリリアは大体知っていたが、ユウに教えるのと復習を兼ねてアリアが説明する。
・世界の数カ所に存在する魔素の異常集中ポイント
・数年~数十年の周期で魔物がそこから大量発生する
・北部の魔物暴走はかつて世界に渡る大被害をもたらした
・巨大な壁によってその暴走を食い止めるようになった都市、ドーラ
「ザンさんはそれに巻き込まれたんですね?」
「それはちょっと違うはずだよ、ユウ。
常に砦から監視と魔素濃度を調べるから、たまに変異種がいれば討伐される。
暴走が起こればそれに応じて武力を集めてから対応するからね。
今日、ギルドには暴走発生の知らせと近所への冒険者と物資の応援依頼が出てた」
「えーと、それならどういうことでしょう?」
「今回はオークキングが出たって事だからねぇ。
本物の魔物暴走だよ。
先遣隊だろうから、まずければすぐに逃げる。
そこで何があったかだねぇ・・・今はどうだい?」
「元気ハツラツ、闘志満々ですね」
「周囲までは見えない?」
「とにかくザンさんは動き回ってました、それ以上は無理です」
「おい、その説明じゃ分かんねぇだろ」
アリアに対してだ。
ロロは一言多いが、気がつく人だとも言える。
「キングは通常10匹のジェネラルを従える。
ジェネラルはナイトとかの子ボスをそれぞれ10匹、更にそいつらが10匹以上子分の変異を連れてる。
つまり、1000匹以上の強め以上のヤツがいるってことだ」
ザンに心配はない、元気だ。
“呪われ”は1匹だけで、あの地域ではこれまでもいなかったはず。
いても不思議でなく、ザンなら問題ないはずなのだ。
今まではいなくて、1000匹でやっと1匹。
恩恵の多い、強いオーク。
他の地域では、まんべんなく存在して増えているのに。
半分だが、解った。
「ロロさんありがとう、参考になりました。
“呪われ”の発生は、高確率で伝染病のようなものだと思います。
その元が人為的なものかは分かりませんけど」
「なるほど、世界規模で見えていて【勘】を使っての判断ならツッコミようがないねぇ」
「あと、新しい力がまた来たようです。
恐らく集中力ですが、まだよく分かりません」
“51”の数字と中央には魔力ゲージ、右下には【無】が増えていた。
【無】“集中する”