ユウ、立ちふさがる強大な壁
アンテご謹製の正確な地図は、朝にギルドで受け取り済みである。
夕方帰りで良かったのだが、ギルド長は少しでも助けになりたいようだ。
”呪われ”という概念と、狙撃の情報はアンテ派の重要人物で共有される。
ただし、まだ未完成で時間も掛かると伝えてある。
距離が離れたり何らかの条件によっては実際そうなる事もあり得る。
地図はギルドに秘密裏に補充されるまでは貸し出しの扱いだ。
届けばアリア達に譲渡される。
模写はメモ程度以外禁止、所持者死亡で燃え尽きる魔法を掛けてある。
あともう一つ、シンヨル(“新たなる夜明け”)がギルドに借りていた魔法袋は、アンテのメンバーということで永久貸与になった、
これも、補充が届くまでにギルドが必要になれば、一旦返すことになる。
何もない時は、なるべく舞闘の動きを心がける。
魔力の回復が若干早いが、それ以外に何らかの違和感を感じる。
【想】の時以来の謎解きだが、ヒントが“舞闘”はひどい。
結局“レベル”は上がらなかったが、この積み重ねと様々な試行錯誤がやがて実を結ぶはず。
昔、ポイントを貯めるサイトで数ポイント足りなくてプレゼント応募できずくやしかった事がある。
それからは、ミニゲームとかくだらないコンテンツでポイントを稼いだ。
いつの間にか、数百ポイントとか貯まっていた。
一生何かに夢中になれれば、前の世界でも色々できたのかも。
努力しても夢が叶うとは限らない、とか偉そうに言うのはぜんぜん違うと思う。
努力できる人は何かが変わるという確信がある、ユウには。
ユウはそっち側ではなく真反対だった、仕事現場以外では。
あの日までは。
死んでもいいから何か変えたいと思ったから、面接会場に入ったのだ。
魔物が周囲から完全にいなくなり、アリアが号令を出す。
「帰るよー」
ずっと指示を受けているユウ以外はビクッとしたようだ。
声が若くて別人だ。
いつもよりも少し遅めでもう日が暮れかけている。
「どうだったかい?」
「今日は変わらずですけど、積み重ねですから」
アリアは満足そうにうんうんと頷いた。
ギルドには明日でいいから、と全員で宿へ。
全員軽く飲みつつ、夕食。
アリアのおかげで、年齢詐称と飲酒が両立できた。
感謝だ。
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ユウは思わぬ苦難に直面していた。
もしかしたら絶対に乗り越えられないほどの大きな壁。
女神様からの最大の試練、なのだとユウは悟った。
リリアのおっぱいである。
当初は、このままルーナとともに攻略、次はおしりへと狙いを変更するはずであったのだが。
逃げるでもなく、絶妙な距離をとられる。
そのくせ、ルーナに抱きついていると微笑ましい目を向けてくる。
百戦錬磨の食えない相手だ。
今までその体で何人の男を・・・やめておこう。
だが、その中一筋の光明も見えてきた。
アリアの若く未成熟なおっぱいである。
これ以上若返ったらどうなってしまうのだろう。
風呂上がりは自家製魔法でキンキンに冷やしたジュースを飲む。
脱衣所にあるサロンなので、皆下着だけだ。
「アリアさんの解呪はいつ頃すればいいんですか?」
「あと4・5日かねえ、別にいくら遅くても“呪われ”優先でいいけど。
それに10年以上前の呪いだし・・・」
ん?今の姿で20歳くらいに見えるのに10年前ということは?
赤ん坊に戻ったアリアを思い浮かべてしまうがそれはない。
年齢の話を思い出して、アリアの場合は予想など無意味だと悟る。
さて、今夜も全員集合だ。
残念ながら8時はとっくに過ぎているが。
アンテ製の地図を広げる。
最初にいた教会総本山の町ロワのすぐ東の森を抜けたのだが。
ロワは自然の岩山に囲まれ、砦のように守られている。
南東方向にも広大な森が続き、迂回してここまで来るには数ヶ月どころではないだろう。
この、南東の森あたりがおそらくターゲットとなる。
“呪われ”が多いのも分かる。
これほど世界中に散らばっていることに違和感はあるが。
「前回、かなり強く“恩恵”を受けたようなんです。
初めての試みだったせいかもしれませんし、分かりませんが」
「なにかを超えた時、つかんだ時の“恩恵”は誰もが心当たりがあるはずよ」
ルーナが経験を話す。
「砂漠でミミズの集団を討伐した時だったけど、とにかく見た目も嫌だし飛び出てくるタイミングも最悪で・・・」
「あの時はちょっと笑ってたがな。あんな弱いのに手こずって」
ロロは相変わらず無遠慮だ。
「完璧に予兆を察知して苦手意識が消えた瞬間、結構な“恩恵”を受けたような感覚があったのよ。
相当弱い魔物だったのに」
「“恩恵”だったら、壁の近くの変異種とか一番だけどねぇ。
ヤバイ相手だけど。
試験会場だったはずだから、ザンさんが相手してそうだねー。
他所にもいるけどここから数ヶ月だし、そこのギルドによっちゃヤバイし」
狙うおおよその地域や魔物種類を説明、いよいよ実行だ。
オーガ、昨日より強いので呪いも相応に強いようだが行けるだろう。
特別な詠唱をおこなう。これは絶対だ、ユウの中で。
「ユウ、イッキまーす!」
他の全員には結果が分からないので説明する。
「昨日より呪いも強かったですが、半分行かない消費で倒せました。
あとは【想】、つまり魔法維持は使えないようです」
茶さんが何か気づいたようだ。
「確か“恩恵”とか魔力が戻ってくるはずだけど、追跡される恐れは?」
「一旦上空真上に飛んでいるみたいです。
だから昨日も、天に昇るだけでここに来るとは思わなかったんです。
見える人もユウさんとアリアさんくらいで限られてるようですし」
「あたしゃ見えてないんだけど。
ただ、あらゆる事態に備えてはいたけど。
変なものかもしれなかったし」
しばらくして光が飛び込んできた。
“40”
2つも増えた、やはり“恩恵”が多い。
毎回は無理だろう、恐らく。
右下に【勘】、説明は・・・“鋭くなる”とある。
「アリアさん、例の・・・サブ能力が来ました。
カンがするどくなるみたいです!」
「ちょっと待ちな」
20代でこの口調は、・・・まあ有りか。
調理台から大鍋、ロッキンチェアーに大弓、大型コンロが部屋に散らばっている。
四次元・・・違った、魔法袋から必死でなにか探すアリア。
「あった」
取り出したのは三個のサイコロ。
また乱暴に散らかったものを詰めていく。
リリアは諦めているようで何も言わない。
まず、サイコロの出目を予想するが当たらない。
一応リリアがノートに結果をメモしてくれている。
それでは、と転がした瞬間に予想するがまるで当たらず。
1個ずつだと、やっと当たりだす。
「というかアリアさん、こっちのサイコロから1、6、3と出やすくなってますよね?」
「最初は順序を変えて投げて、分からないようにしてましたね」
リリアまで見抜いた。
サイコロはどこかへ消えた。
「このサイコロのことは極秘事項だよ、アンテの命運がかかってる。
ユウの『勘』というのは、実際に起きてるけど目に見えたり気づかなかったりすることを総合的に判断して答えを見つける力だろうねぇ」
なるほどと思ったが、ここに来てそんな曖昧な能力が役に立つのだろうか?
不安と希望がユウの中に渦巻いていた。
ユウは立ち塞がる強大な困難を越えられるのでしょうか。おっぱいの行方は?