ユウは知りたい
ふわっと、降りた。
え?暗い。
こわい。
しゃがみ込んでしまう、と、違和感。
自分の体に。
月明かり?
少しずつ見えてきた。
ここは倉庫?
向こうになんとか見える岩、木。
森だ。
ほぼ暗闇の山中、自分はどこかの穴にいる。
これでは動けない。
何をしたらいい?
その前に体の違和感を確かめたい!
なんとか、なんとかして動かないと。
ドサッ
落ちてきた。人?
人だ!
そんな!!!
暗闇の山中、目の前に死体
恐怖で発狂するかとおそれながら、もうひとりの自分がいた。
女神様の輝き。
人の縁。
私のやるべき事は。
力がある。
誰かが、女神様が何かを示してくれたのかもしれない。
思い出せた。
やるべきこと。
今は全力を!
無駄なのかもしれない。
駄目かもしれない。
その時は絶望しよう。
進んで、見えた。
ぼろぼろの衣服の女性。
しゃがんだ。
手をかざす。
「治れ!」
何も起こらない。
おそるおそる手を伸ばす。
触れる。
温かい。
肉親の死に立ち会った事がある。
冷たかった。
まだこの人は温かい。
「治れ!」
もっと全力を。
どうすれば全力を出せるのか分からない。
覆いかぶさった。
まだ生きているなら、やる。
「なおって!なおって!」
体全体が熱くなる。
女神様、お願いします!
祈る。
ただ祈る。
外は明るい。
洞窟のような窪みにいる。
頭の下が温かい。
女性は座って微笑んでいた。
膝のぬくもり。
そのまま抱きつき、泣いた。
今まで生きてきた全ての穢れを洗い流すように、泣いた。
感情がすこしずつ静まりつつ、考えていた。
彼女に何を話すべきなのか。
自分の冷静さ、私って何て冷たい人間なんだろう。
嘘はいけない、けれど話せないことが多すぎる。
決めるしか無い。
この人が目覚めたように、私も目覚めた。
何も覚えていないことにしよう。
仕方ない。
夜にここに来たときは絶望した。
今は少しまし。
なぜこんな事になったのか。
あんなに希望に満ちて旅立ったのに。
欲張りすぎた。
そう、何でも治せるなんて欲張りすぎた。
チャンスを与えられたのに自分は・・・。
そう、これはチャンス。
自分で切り抜けなければならない。
ここに来たからには自分で切り開かねばならない。
覚悟を。
覚悟を。
自分から切り出した。
「ここはどこなのですか?私は何者なのですか?」
衣服がぼろぼろの女性は、少し間を空け答えた。
「どういう事?・・・本当に?」
私は自分の顔や体をもう一度触って確かめながら言った。
「私は何なのでしょうか。どう見えますか?」
後の半分は本当に聞きたかったことだ。
答えて欲しい、答えて!
「・・・・・」
沈黙に、より冷静になれた気がする。
私は冷静だ。
いや、もっと冷静になろう。
ぐるんぐるんと自分の中で空回りしている。
欲することを聞こう、正直に。
「私はどうすればいいんでしょうか?」
女性は答えた。
「一緒に・・・来ますか?
来てくださいますか?」
ユウはゆっくりと頷いた。
外国人のような金髪の女性。
一方私自身は、顔は分からないが、恐らく、若い。
痩せている。
小学校や中学校の時くらいに。
山中、獣道らしきを道を二人は歩いている。
「絶対に離れないで。魔物や猛獣がいる。死ぬわよ」
コクンコクンと頷く。
町に向かっているのだろうか、その後全く会話はない。
歩くうちだんだんと現実感が湧いてきて、もう一度整理しようと思った。
あ、初めてか、整理して考えるのは。
そういえば、外国女子のニホンでの通学や学校生活の動画を見た事がある。
「まさにアニメ」「夢のよう」「憧れです」「すごいね」と多くの外国人のコメントが並んでいた。
最初は学校まで自転車で行くのだが、はっきり言えば遠すぎ、不便すぎ。学校も普通。
私は羨ましそうにコメントを書いていた外国人と全く同じ、ここでは。
面接?で隣りにいた男性を思い出す。
私と違い、常に現実的に行動していた。
彼がいなければ【丈夫な体】にも気づかなかった。
私といえば、派遣やバイトはしつつ、本命は男性探し。
結局は裏切られ続けた。
いや、これからの事を考えよう!
確かめたいことは多すぎる。
本当に若くなったのか、顔は変わったのか。
いや、魔法もだ!
もし詠唱が必要なはずの魔法を普通にポンポン出すわけにもいかないだろう。
ここでの“普通”がどんななのか。
ちょっと待って、昨日【何にでも効く】治癒魔法を使ったはずなのに、最初何も起きたようには思えなかった。
確かに効いたのは間違いないけれど。
他は、他は・・・
この人がまずどこに行って、私がどうなるか分からないと何も始まらない。
いい人であることを祈るしか無い。
大丈夫と思いたい・・・。
何かを通り抜けたと感じた。
魔物を防ぐ結界?
見えてきたのは山小屋、じゃなく普通の家。
牛や家畜らしい声が聞こえ、畑もある。
テレビや本で見た、多分薪を割る台や斧みたいなのもある。
ちょうど裏から女性が出てきた。
若くはない、やはり金髪に日除けのような布を頭に乗せていて、質素な服装。
農作業だったっぽい。
「リア!」
向こうからはそれしか言わなかった。
「この子は大丈夫。
あっちに戻って伝えることが沢山。お願い」
お互い頷くでもなく、小さめのおばさんと私達は手を洗い、全員家の中へ。
「着替え・・・その前に手当を!」
「待って、まず先に話す。お願い。
あなたは少し待って」
私は木製の硬い長椅子に腰掛け待たされ、二人は食堂らしいテーブルに。
間仕切りは無く、3メーターも離れていないが内容は聞こえない。
やはり崖から落ちて来て、おそらく傷も無しか。
蚊帳の外。
今のうちに言うべきことを考えておこう。
できればザンさんを探して会う。
その他は・・・。
何も分からない。
実際分からない。
(元の)現代と女神様の事さえ言わなければいい。
多分。
やがて話が終わったのか、リアはぼろぼろの服を脱ぎほんの軽く体を拭き、おそらく前と似た地味な服に。
おばさんは少し見ていたが台所へ。
「汚れてもいないのねぇ」
? ああ、治癒の余波なのだろうか。
知らないが。
この世界初めての昼食をとった。
特に見た目で変わったところはなく、味も薄めだが普通に美味しかった。
「ロワに戻りたいけれど・・・。
もう少し、数日落ち着くべきでしょうね」
心配してくれているのだろうか。
私もこの人達のことが知りたい。
自分の事も・・・・・。
手鏡を借り、自分の顔を見た。
瞬間分かった。あの頃。
中学生の頃のセーラー服を着た自分が思い浮かぶ。
そんなに自分が可愛いとか思ったことはないが、恋愛とは無縁な割に、アイドル的だったり不良っぽいリーダー的な男子との勝手な噂がひっきりなしだった。
仲の良い友人にさえ嫉妬されることもあった。
モテてないけどある意味モテ期だったのかも?
着ている物は最初から自分でも分かったが、庶民か偉い身分か微妙な普段着?
1つだけ自分に関する懸念は消えた。
おばさんの名前はアリアさん。
夕食は当たり障りのない世間話らしい話題ばかりで、自分から言えることはなかった。
まだ、ザンさんのことも、他の何も言えなかった。
奥の部屋にベッドがふたつ。
お客様待遇は仕方ないのかな。
リアさんはアリアさんと一緒に、ごめんなさい。
翌朝、リアさんは消えていた。1人で町へ戻ったと聞いた。