ザン、余計なお世話する
翌朝、ルナノの指輪“女神の祝福”は輝きを取り戻していた。
魔物の運搬・焼却、つまり事後処理部隊500名のうち100名が魔法師。
いつもの比率だそうだが、ほとんどが森林の中であり不安要素はある。
まず合同の土魔法で森の側の平地に大穴を開ける。
ここですぐに脱落する者もいた。
Eランク以下がほとんどだ。
土魔法が苦手なら他の作業を選べるが、ここでダメでもランクなりの報酬は出る。
そのかわり、名目上『緊急討伐』という重要な依頼であり、評価は落ちる。
Dランク以上ならまずそんなことはしない。
少なくとも安定収入、出来れば上を目指す者達には成果を上げるチャンスである。
ほとんどを占める『ザコ』変異オークは頭部を集め魔石を回収。
体と処理済み頭部は人海戦術で大穴へ往復運搬。
Cランクには魔法袋が貸し出される事もあり、効率アップに貢献する。
点在するジェネラルなどの中ボスは1日経過するので皮のみ剥がれ、油を撒きその場焼却。
腐敗しないようにしっかり焼かれ、消火までが仕事。
最奥部近くを除き、一日がかりでほとんどが穴へ放り込まれた。
ギルドへ戻る前には魔石を隠していないか身体検査されるが、共同依頼ではお決まりであり全員慣れたものだ。
本隊のギルド長とザンら一行は、魔素密集地帯手前へ。
キングと取り巻きは冷凍していたおかげでほぼ鮮度は保たれているが、後使えるのは丈夫な皮を除きほんの一部のようだ。
職人兼冒険者とギルドの職人たちが傷のない部位を綺麗に剥がす。
キングはザンが斬りつけた部分に傷はあるが、ほぼ丸ごと皮を持ち帰るようだ。
細かい端切れさえ高価な素材だ。
一通り剥がし、どう転がして反転させるか相談していると
「このままひっくり返せばいいか?」ザンが問う。
全員避難後蹴りつけると一発で転がった。
念の為書いておくと、全長20メートル余り、小さなビルくらいのデカさだ。
普通、吹っ飛ぶのはザンの方だ。
無意識に使った能力に多重思考が反応し、理解した。
【山】だ。
回収が終わると、ジェネラル他もザンが蹴り転がし一箇所に。
油も撒いているが、Cランク程度の同行者では表面しか焼けず。
既に丈夫な皮はないので、エリルとルナノが節約しつつ魔法でバラし、時間短縮。
穴へ戻ると、俊足のCランクによる魔法袋運搬もあって作業は8割ほど終わっていた。
大量に仕入れた『プリューム』や似た果実の配給で食事の心配はない。
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千体を超える死骸は、炭になるまで燃やされ埋め戻された。
結局、心配されたことは皆無で全ての『終結宣言』が出された。
夜は、壁の手前の広大な空き地で祝勝パーティーが開かれた。
会場中一通り回って、疲れと安心感と酔いでクラクラしている。
ザンは【山】について考えていた。
【重】を使えば同じ事ができそうだが。
根本的に違うようだと答えは出た。
いくつものパターンが脳内で計算されたようだが、実際に使わないと不明な部分が多い。
多少酔っても計算値とかはきっちり出るようだ。
そういえば、『風林火山』の最後か。
どうせならもっと前に『風』とか欲しかった。
疾きこと風の如し、だったか、ザン自身は『ときこと』という読み方が好きだ。
カッコイイ。
まあ、風と火はこれまでの能力でいけるかも。
林は暗殺者向けだな。
アサシン転向もかっこいいかも。
最初の【重】の考察は多重思考を使ったが、あとは適当な想像である。
「ザンさん、飲んでますか?」
リュリュさんがエール瓶を持って目の前にいた。
エールをついでくれる。
両肘で持って、器用に飲み干す。
またついでくれるが、側のテーブルに置く。
ルナノが一緒の間は、会う人全員同じ様に注いでくれるので遠慮せず全部飲み干した。
オシッコもルナノ任せだから安心だった。
でもどれだけ飲んだのか・・・。
【丈夫な体】、何でも有りか。
「そういえば、リュリュさんは独身ですか?」
「ちょちょちょちょ、ルナノさんに言いますよ!」
顔を真赤にしている。
「聞いただけですけど・・・イジワも独身だし、まあ、その、そんな感じです」
「そそそそんなの、歳が3倍のおばちゃんに・・・
あれ、もしかしてエルフのこと知らない?」
『歳が3倍』と聞いてよほど変な顔をしてしまったに違いない。
というか、エルフで間違いなかった。
誰かに聞くつもりが、ずっと忘れていた。
「イジワは凄いやつです。
オレがいなくても数年でAランクのエースになってたはずです。
男に興味ないですか?」
オレもなぜか意味不明な事を言っていた。
興味ないわけない、あせりまくってるし。
色々問題はあるはずだが、多重思考がもたらした答えだ。
(ウソは駄目だが、精神的な遊びは必要だ。)
と、自分が考えているようだ、ややこしいので無視。
わけがわからない。
問題ないわけではない。
そのうちオレ達のパーティーはここを旅立つだろう。
だが彼はマジメすぎる。
夜練習だと言って遊びに行ったりすることは100%無いし。
ヤリたいざかりの年頃のはずなのに。
病気か性同一性障害とかなのかもしれない。
「じゃあお願いしますね」
何をお願いするのかは分からないが、リュリュさんが喋る内容は頭に入らず、無視してイジワを探しに行く。
いた。
座って落ち着いて食事していた。
さすがに訓練に出かけてはいなかった。
多重思考を顕在化させて、イジワが逃げられない状況を作るのだ。
今後なにか起きた時に切り抜けるための訓練にもなるはず。
これでいいのだ。
「頼みがある。
リュリュさんと一緒にいてやって欲しいんだ。
今忙しいだろうから、後で会う約束をして欲しい」
「何があったんだ?」
「とにかく今晩、できれば明日朝まで一緒にいてあげて欲しい。
本人はわけがあって断るかもしれないけど、絶対必要なんだ。
頼む!」
「それほど言うのなら・・・分かった」
ザンは手近の席に座った。
同席者が興奮して声を上げた、「おお!英雄が同席とは、光栄・・・
目が覚めると、宿の部屋のベッドにひとりだった。
ちゃんと部屋着になっていて、普通の朝だ。
もしかしたら、キング討伐も夢だったのか・・・?
頭の奥には
“55”
【山】【視】【多】【重】【足】
ああ、現実だったか。
そういえば、飲みすぎたような?
肘で口を覆って自分の息を嗅ぐと酒臭い。
ルナノが着替えさせてくれたんだな。
扉がノックされ、どうぞと言うとイジワだった。
俯いている。
「どうするべきだろうか。
酒も入っていたが・・・。
リュリュさんと過ちを犯してしまった・・・」