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ザンのキング殺害事件、解決編

黒い人は出ません。


千匹くらいか、もっとか。


さすがにあれだけの数を相手にすると、結構な時間が経っていた。



といっても、その数自体が常識外れなのだが。

いくら密集していたとは言え、変異クラス以上である。


というか、強い弱いというよりもザンの飛行しながらの“斬り”での瞬殺があったから出来たことだ。


Aランク冒険者なら変異クラスを減らすことだけなら無難にできたはず、時間さえかければ。

まあ、そんなことをしていれば一気に押し寄せてきて終わりだが。



巨大な壁を利用しながら総力で撃破するはずの『キング』クラス。

暴走発見後の通常討伐は有り得ないと言ってもいい。


オークキング自身の言葉によれば、かつての英雄と呼ばれる存在ならば成し得たのだろう。

英雄イジルと大魔法使いルーナだっけ、彼らのことかもしれない。




日の暮れかかった森を走る6人。


念の為“授与”魔物に備え離れられない。

1匹も残りらしき魔物はいなかった。

東西に散らばった可能性はあるが。


平地へ出ると馬車が待っていた。

先程打ち上げた、安全と帰還を知らせる狼煙(のろし)のおかげだ。



御者が特に聞いてくることはない。

「大丈夫ですか」とは言っていたが。


ジェギが尋ねる。

「ギルドマスターの居場所が分かればいいのだが」


(あわ)ただしすぎて無理でしょう」

「では、ギルドに行くしか無いか」



貴重な通信石は討伐隊に持たせることはない。

ギルド経由で呼び出すことになりそうだ。




「イジワ、さっきの技は?

普通、剣が折れるか弾かれると思ったけど」


「英雄が使った技だけど、子供の頃から真似だけはしてて。

いや、体が勝手に動いた、感じだ」


「兜割り、だな」

ジェギが答え、モスコも頷く。


「Aランクのエースクラスの剣士が使うのを見たことがある。

トドメに使う、物理防御無視の技だといわれる。

良くはわからんが」





町では馬車が列を作り、動かない。

荷降ろしの順番を待っているようだ。


馬車を降り、徒歩でギルドへ向かう。



テントの屋根が並び、荷物が積まれている。

冒険者の姿も増えているようだ。


中通りはあまり変わって見えないが、休業の張り紙も見かける。

ギルドには外まで冒険者の行列が出来ている。


入口に近づくと、オレ達を見て行列を空け、中に入れてくれた。

今日の仕事終わりの人達だ。



「マスターは出てます、呼びます!」

受付にも事務にも何も言わないうちに、向こうが気づいて走ってゆく。

リュリュさんだ。



5分ほどでギルド長が飛び込んできた。


オレ達は1階の1番手前の席で待っていた、すぐに会えるように。

全員立ち上がり、ギジェが代表して言う。


「オークキング含め、恐らくほぼ全て殲滅しました」



「・・・・・・」

マスターは黙り込んだ。


「いやすまん、全面的に信じるよ。

ただそうすると、これからの手順が肝心だ。

こういうケースは古い記録や書物でしか知らんからな」


「多くとも数十程度のはずですが、討ち漏らしの変異種の調査と対応は必要でしょう」

「うむ」



通常通りの緊急受付の継続を指示して、7人と椅子を抱えたリュリュさんはいつもの応接へ。





ジェギにたまに話しかけながら、ギルド長はいわゆるフローチャートと呼ばれるような手順表を紙に書いている。


キングの馬鹿デカイ魔石が無造作に置いてある。



小声でエリルさんやモスコさんに話しかける。


(迎撃の準備はそのままですが、大丈夫なんでしょうか?)

(そこだ。あまりに大掛かりな準備をどう変更するかで、手間も金も大きく変わる)

(ここでいくら時間を掛けても、最良の判断が必要なの)




やがて、20分くらいで判断が下された。

もう日が暮れていた。


・今すぐ討伐終了の知らせとともに、募集自体は不公平の無いよう継続


・明日までに到着する物資は買取り、冒険者にも後述の賃金を支払う


・壁の両端にA・Bランクを2組ずつ配置、緊急討伐の報酬あり、魔物遭遇時は通常の2倍報酬


・討伐応募冒険者全員に成功報酬の5分の1支払い


・魔物の死体運搬・焼却部隊を500名ほど募集、Cランク以下限定だが全額支払い



リュリュさんが討伐広報と各地ギルドへの連絡指揮を取るようだ。



彼女と入れ替わりに、中間砦からの魔物残影なしと魔素低下が報告された。

壁両端と砦からは、魔物観測を兼ねて『魔石泥棒』の監視も行うそうだ。




現在状況の変更はここまで、後は討伐確認とキング他の部位回収が必要だ。


キングと取り巻きだけは、魔石と鮮度が必要な部位のみ持ち帰った。

残った体は一旦冷凍はした。


明日ここにいる2パーティーを先頭に、魔石回収・部位回収を兼ねた調査隊が再編成される。




リュリュさんがもう戻ってきた。

基本、指示だけで全て動くので問題ないそうだ。


この人、意外に偉いのかもしれない・・・。



彼女がパチパチとそろばんのような物を指で弾き、ニンマリ。


「明日来る物資や冒険者含めても、通常時の半分をかなり切る予算で済みますね。

保存可能物資は適当に倉庫を建てて放り込んでおきますし。

明日夜は豪華にパーティーです!」



完全に信用してくれているがいいのだろうか・・・。


いやいや、本当なのだから信じてもらえないと困る。

などと考えていると、キングが復活したりとか妄想してしまう。


魔素も監視もオーケーらしいから、間違いなく大丈夫なのだけど。




ギルド長が立ち上がった。


「改めて礼を言う。

本当によくやった、偉業を称える。

例のアレの借りが返せるとは思わないが、報酬は期待してくれ!」



ここでお開きとは行かず、ジェギから“授与”魔物出現と魔法陣による援護が報告された。

ザンからも、現況は分からないが知り合いだと思う、と補足した。


思わぬ答えがムダラからもたらされた。


「アンテのネットワークで、その存在は通告されていた。

時間が掛かるらしかったが、もう完成していたとは。

まさか全世界の“授与魔法”持ちを殲滅しているのか・・・」



ユウさんは恐らくもう“アンテ”という組織にいる。




「オークキングが喋っていたんですが。

過去の記憶を話していたようです」

イジワの言葉で思い出す。


「そうか、これは伝承に過ぎないが・・・。

定期的に出現するキングは同じものらしいと聞いたことはある。

英雄譚にも書かれているが、その通りだという事だな」




「では、明日は“授与魔法”対策を兼ねてキング回収頼むぞ。

もちろん私も同行する」

ギルド長の締めで、今日はお開きとなった。



【山】の効果を試したいが、キング討伐が知らされた今は隠れて練習は無理だろう。


出来るなら3人で窓から飛んで宿へ戻りたいくらいだ。




応接室を出た廊下で、ルナノが指輪を見せこっそり2人に言う。

「これ、魔力を貯めてくれるみたい」


いつもの半分くらいか、光が薄れている。


「2発全力で撃った時に魔力消費しなかったの。

普通のを撃つ時は普通に減ったけど。

で、見たら少しずつ暗くなってた」


イジワは夫婦の会話を邪魔しないように一歩下がっている。


「また明るくなるよな?」


「前はもらった時だった、確か。

付けて、一晩過ぎたら光ってたと思う」



ああ、初夜の記憶に戸惑っていた時だ。

それが今は・・・。


キングを倒した時よりも大きな達成感にザンは震えた。

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