ザン対観察者キング
オークメイジは杖を振ってくる、速い。
同様のパターンで首を・・・避けた!
これでは浅いと思った、が、倒れた。
仕留めたようだ。
ザン自身の纏える長さが以前より更に伸びている。
イジワの剣より短い程度だ。
短剣なのに変な感じだが、有利に働いている。
後ろでは3人が、全部が剣や棍棒を持った変異オークと戦う。
先程までの余裕はないが問題無いようだ。
20対3なのだが、もう5匹程倒している。
エリルとルナノは非常に備えて構えている、問題無い。
ザンはまずジェネラルの前に出る、フェイントのようなものだ。
真横からナイトの剣が振り下ろされた、ヤバかった。
見えていなければ・・・。
背後を取ろうとすると首を晒さぬよう素早く反転してくる。
先程までの相手とは違う。
メイジとの一戦を見ているのだ。
初見の飛行する人間にさえ対応できている。
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キングは見ている。
20メートルはある巨体で、こちらの手の内と動きを観察している。
いつもの戦いでは予測され防がれるだろう。
能力的にも計り知れない。
苦労してでも敢えて違う動きをするべきだ。
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ザンは敢えて“纏い”を止める。
ジェネラルとナイトの振るう剣と腕の隙間を抜ける。
わざとジェネラルに背中を向け、偶然を装って飛び、避ける。
ナイトの腹に蹴りを入れる。
結構効いているような、特別製の【足】なのだ。
2匹の視界から消え、一気に2匹の足4本の腱を斬る。
瞬間移動のように上昇、ジェネラルの首を斬る。
“44”
もはや足の止まったナイトは一瞬だった。
ノーマル・・・いや変異オークは半分に減っていた。
ヤツラは普通の変異オークよりも『硬い』ようだ。
ちゃんとキングの動きは見えている。
キングは、『待っている』。
ザンは一跳びで3匹の変異の首を刎ねた。
恐らく、普通の剣とザンの“斬り”には既に圧倒的な差があるのだ。
邪魔をしないよう、下がってきたオークの首をまた刎ねる。
ザコとの勝負は決した。
注意深くキングの様子を見ていたが動かなかった。
オークキングが笑った、ような気がした。
「マトモニ ショウブ ナガクナカッタ」
「喋れるのか!」
言ったのはザンだ。
後ろでは、ジェギも含め全員が驚いている。
「エイユウ ツヨカッタ
オマエ ハヤイ デモ エイユウヨリ ヨワイ
ゼンブデ コイ コロス」
ザンは一気に跳び、更に加速して飛ぶ。
思わぬ方向から剣が振られた、一瞬遅れた。
左足に痛みが走り、地表に落ちた。
踏み潰される。
前に倒れたままのザンの体が横に吹っ飛んだ、もちろん自分の意志で。
足は切れていない。
間違いなく折れているが。
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今の一撃は斜め45度から、ザンが【視】で設定した境界線だ。
観察だけで見抜かれた。
まず全ての視界を確保するべきだ。
攻撃を受けないことにまず全力を注ぐべき。
斜め方向の視界と思考リンクをオン。
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「ヒール!」
ルナノだ。
痛みは残るが、骨は繋がったようだ。
「次は攻撃に集中して。ヒールは私が」
エリルが指示、確かにそうするべきだ。
足で地面を叩く、だいじょうぶだ。
もっとも、一度飛べば足などいらんのです・・・要らないのだ。
「ドウシタ」
安心要素は、オーガのようにいきなり後衛を襲ったりしないことか。
それに、一対一の勝負をしたがっているようだ。
もちろんこちらは手段を選ばないが。
覚悟を決めて、跳ぶ!
ここで感覚に慣れるしか無い。
死にさえしなければ、何度でも避けて機会を待つ。
いざとなれば、全員連れて飛んで逃げる。
多分出来る。
今度は左から斜めに振り下ろしてきた。
やはりさっきまで死角だった境界の角度だ。
なんとか躱し背後を取ろうとすると、右下から返しの剣が来る。
こいつ達人かよ、速いし。
敢えて剣に向かいギリギリ躱し、少し虚をつけたか足を斬りつけることが出来た。
だが浅い、なにしろ相手がでかいのだ。
ちょっとしたビルくらい、か。
瞬時に向き直って更に剣を振ってくる。
避けるのはヒヤヒヤするが、可能だ。
【重】で特に疲れたことは今まで無いが、いつまで続くのか。
キングに隠し玉があればまずい。
いや、これでいい。
この【視】【多】と感覚のリンクを完成させつつ、急所となる場所を斬り続けるのだ。
チャンスになれば、例の作戦で一気に決める。
剣を避け、肘の腱を斬りつけることに成功。
斬る幅が短剣の幅でないことはとっくにバレているはずだが、感覚が追い付けないのかもしれない。
「地面の踏みつけはこちらにダメージが来る、来たら飛び上がれ!」
キングが片足を上げたのを見て、ジェギが叫んだ。
なかなか卑怯じゃないか・・・。
キングが地面を踏みつけると亀裂が起きた。
5人がピョーンと飛び上がる。
ダチョ○倶楽部かよ・・・。
踏みつけた足に斬りつける、手応えあり!
余計なギャグをかますからだ。
膝をつくキングの左肘も斬りつける。
同時にジェギの剣が伸びた。
喉を突くが・・・剣が折れた。
そのまま一旦縮み、再度、口へ伸びた。
噛みつかれ、砕かれる剣。
剣は縮むかのように見えたが、再びすぐに伸び口の中に刺さった。
全てこれを狙ったジェギのフェイントだ。
ジェギがキングの硬さを知らないはずか無い。
剣先が折れていることもあり、急所へは届かない。
だが、時間稼ぎには充分だった。
「ルナノ!」
ここで勝負をかける。
もう一方の足へ行くフェイント後、顔に取り付く。
嬉しい誤算で左目に“纏い”の斬りが通った。
短剣ならではだ、方向を変えて“纏う”だけで攻撃が刺さる。
こうなれば、右目も同様に斬れたかもしれないが、作戦続行だ。
ルナノの全力ファイアアローが届く寸前躱すザン。
右目だけでなく、顔面がえぐれ骨が露出した、エグい。
念の為、もう片足も潰す。
前へ倒れたキングにイジワが迫っていた。
飛び上がり、真っ逆さまに剣を後頭部に突き立てるが。
弾かれるか折れるはず。
だが、剣は見事に突き刺さった。
見事だ、どういう理屈かは分からないが。
「すまん、たまには活躍させてくれ」
イジワも結構言うものだ。
ちょっと嬉しい
・・・クラクラっと脳内に変化が。
“55”
イジワもルナノも似たように感じたのか、おでこを押さえている。
一日で20以上増えたわけだ・・・。
脳内右下には、わかりやすいようなそうでもないような文字・・・
【山】“動かざる事”