ザンへの援護
5人は10メートル程度離れて立っていた。
誰も倒れてはいない。
全員無傷に見える。
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何が、いや誰が“授与魔法”オークを倒したのか。
魔法陣や魔法自体について知識の乏しい中で、脳内で示されたのは『解呪』の可能性だった。
『面接』の時見たユウさんの紙には【何でも治す】、その中には【呪い】とも書いていた。
今でもありありと文字を思い出せる。
しかし『解呪』で魔物が倒せるのか?
見たままだった。
ユウだ。
しかし大問題がある。
まだユウさんには会えない。
だが答えはもう出ていた。
カンニングをする気分だが、多くの可能性から導き出された答え。
『世界のどこかから、癒やしの力で狙い撃ちした』
ザンがあらゆる方向を一斉に見ても、隠れた敵を発見できなかった。
何か索敵能力を使い、しかも相当遠くから狙った、という答えだ。
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考えたのは全て一瞬だった。
仲間の中央へ降りるザン、全員が駆け寄る。
「すみません、離れすぎました。
体は大丈夫ですか?」
全員口々に「問題無い」と答えた。
「赤いのが消えた瞬間、力が戻った」
「前より魔力が回復してるみたい」
「体力も回復してるように思うが」
バラバラに似たことを言っている。
「状況を見ると、変異オークを倒しきった後に狙われました?」
ジェギが冷静に答える。
「誤爆を避ける、というか出せる魔法陣の数や量が決まってるんだろう。
隠れて待っていた、確実に我々を狙って」
答えは一致した。
皆も頷く。
「まだいけますか?
あっ、さっきの援護は仲間です。オレと同郷の人間です。
相当遠くから狙ったようです」
全員不思議でたまらないだろう、先に言っておく。
「行きたいんだろう?
行くなら纏まって進むぞ、さっきのが現れるだけじゃなく、いきなり『生まれる』可能性もある。
その時は頼む」
ザンは大きなジグザグを描きつつ飛ぶ。
ジェギ達に見られてどうこうという事は言っていられず、普通に飛んだ。
飛びながらすれ違う変異オークを全て屠る。
虐殺である。
オークらも、綺麗に整列しているわけではないので手前にいたのもいる。
ジェギ・イジワ・モスコがそれらを全て倒してゆく。
エリルとルナノは更に後ろで監視と、牽制・おびき出しをおこなう。
たまに2人に行き着く敵は、能力を上げたイジワが逃さない。
うち一匹はルナノの魔法で上半身を吹き飛ばされた。
同様の能力向上と指輪、その上ザンのマントによる効果だが、エリルも開いた口が塞がらない。
ルナノは違和感を感じた、全力攻撃でも魔力が減らない。
指輪からの魔力の流れを感じ、見ると輝きが少しだけ減っていた。
一方、ザンは【視】への感覚調整を続ける。
放っておくと、斜め上とかあらゆる方向に意識が向いている。
確かに意識に直結しているし、多重思考で追いつけるが、『感覚』が違う。
いきなり視点の違うモニター画像で運転するようなものだろうか。
例えば真横から向かってくるトラックがそのまま見えるとする。
横だと意識できれば、それに応じて止まったり避けたりはできるが、瞬時に連続して動くのは普通は無理だ。
多重思考とのリンクは、きちんと別々の視点だと処理できる。
だが、根本である体を動かすことはザン自身がおこなうのだ。
ザンは、今は雑多すぎる情報を切り捨てることにする。
左右と後ろ、そして上下のみの情報に絞る。
大量のオークに対応しながら自身の動きとのリンクを確かめてゆく。
すべての方向とは行かないが、ほぼ死角は無くなった。
“42”
更にレベルが徐々に上がってゆく。
普通なら正気の沙汰ではない量の魔物、それも変異オークなのだ。
周囲に魔物が一匹もいなくなった。
ジェギさん達が頼りだ。
スタンピードに遭遇経験のある彼らに状況を尋ねる。
「今までこれ程一気に討伐したのは見たこと無いし、記録でも見ていない・・・。
普通は大群が壁まで到達し、集団魔法と大砲で切り崩す。
左右に散った魔物をA・Bクラスで掃討し、残りは物量で食い止める。
最後は、キングか同格の親玉を壁に呼び寄せ、決戦だ。
前回は壁が半壊した」
モスコが補足してくれる。
「初期に一気に大量討伐出来たのが大きいな。
散ってしまえば壁に戻って待つしか無い。
あと、先にジェネラル以下のクラスを狩っただろ?
あれで、やつらは統率を欠いていた。
いや、結局ザン君が大量瞬殺出来たのが一番だが」
「後はキングか同格のやつが残ってるね。
ザコは少ないけど、精鋭が守ってるはずよ。
数は50もいないと思うけど、ボスは無理かもね」
エリルさんが最も聞きたいことを教えてくれた。
「キングを狙ってみます。」
「ああ、キング以外は恐らくいけそうだが。
キングは通常部下がやられるまで動かない。
無理なら即撤退するぞ、ザン君」
「聞いてください。
オレは新しい“天賦の才”をもらいました。
キングと闘う時はオレが動きを止めます、出来れば目を塞ぎます。
そこに集中攻撃してください。
オレは後ろが見えますから。
オレに向けて魔法を打てば直前で躱すので当てられます」
「わかったわ」「分かった」
最初に答えたのはやはりルナノとイジワ。
オレのビックリ人間ぶりをダテに見てはいない。
“魔断の風”メンバーも2人の様子を見て納得するしか無い。
魔素発生源方向へ全員走る。
ボスたちはピクニックにでも行くかのように、ゆっくり歩いていた。
ジェネラルとその下位のナイトとメイジ1匹ずつ。
あとは20程の変異オーク、雑用係なのかも?
こちらに気づいたオークメイジが魔法を飛ばす。
ザンは魔法を斬り、まっすぐメイジへ飛んだ。
その背後にいた巨大な物はオークキングだった。