ユウとドSアリア
ユウは涙が止まらない。
「よかった・・・」
アリアが意外にも冷静に言い放つ。
「他の情報は、全員で話しても纏まらないだろうから。
色々仲間内で話したいこともあるしねぇ。
一旦戻ってゆっくりとやろう。」
ギルド長に向き直る。
「ガドラ、あんたにも後で情報共有するけど、あえて話す内容は選ぶことになるよ。
もちろん疑ってるとかは無いから安心しな」
「お任せします。
私など及びもつかぬ大きな計画なのでしょうから・・・。」
宿に戻り、食後には改めて6人集合。
「まあ適当にくつろぎながら聞いとくれ。
ドラゴンを倒してからも色々バタバタしてたからね。
ここのギルド長はアンテ繋がりだから安心するといいよ」
改めて、ギルドとアンテとの繋がりが一枚岩ではないこと始め、全員に基本的な情報が語られていく。
ユウやリリアは元々知っていても、それがどこまで共有されるのか知っておくことは重要だ。
大教皇から始まり、なんと暗殺を試みたのがリリアであり『ほぼ死んでいた』彼女を助けたのがユウであることも明かされた。
「色んな引っ掛かっていたものがほどけただろ?」
とはアリアの言葉だ、
“審問術”までもアリアは明かした。
信用できる確信がなければアンテには加えられないし、その存在をはっきり肯定さえできないので、3人も納得するしか無い。
何より、味方なら心強い存在である。
明言しなかったのはユウのいた国が別の世界であるという事のみ。
説明が面倒だっただけかもしれない。
話はザンへと移った。
アリア達3人も、ザンのことはユウと一緒に神、いや女神に力をもらった存在だと知っていただけで具体的に話し合うのは初めてだ。
「安心したというのが正直ですけど・・・。
どれだけ困難になっても乗り越え、もうAランクに・・・。
すごい人だったんです。
少し話しただけで・・・能力の選択で助けてくれたんですけど、こんなにすごい人だったとは。
とにかくすごいです」
安心と同時に驚きしか無かったユウにとっては、正直な感想だった。
「いきなりAランクになれるほど強いのに、弱いっていう評価なのはどういうことでしょうか?」
茶さんの疑問はほぼ全員が感じていた事だ。
「ユウ、説明できるかい?」
アリアに問われ、思っていることを答えてみる。
「えーと、一番簡単に言えば魔物を倒したら貰える『恩恵』がまだまだなんだと思います。
サブの能力をもらって一見すごいんですけど、そもそもの本当の能力はヘタレ・・・なんじゃないかと。
わたしで分かるのはそれです」
「あれがヘタレって・・・。魔法陣の事よね」
ルーナは素直に驚いている。
「前いきなり使った時も、全力で使ってしまったとはいえ丸半分魔力使ったし。
コントロールさえできてないし」
「さあ、遅くなったからもう寝ようかねぇ。
ここの全員はユウの能力も知ってるから、これからしっかり練習と確認しようじゃないか。
ユウ、頼んだよ」
「はい」
「一発軽めに全員にかけとくれ」
「? はい」
白金の魔法陣が部屋全体に広がる。
「やっぱ、肩こりにはこれが一番だねぇ。
風呂入らずに寝れるしねぇ、おやすみ」
しまった。
お風呂タイムが・・・。
出ていく男性2人。
「茶さ・・・」
告白の答えを聞こうと思ったが出ていってしまった。
脳内の『茶さん』で呼んでしまったので気づかれなかった。
今日は諦めて寝よう・・・。
今ので回復したとはいえ、丸一日の強行軍は堪えた。
~~~~~~~~~~~~
翌日からまた以前の訓練だ。
今度は茶さんも一緒だ。
ただし、魔力3分の1消費までは“癒やし”の力の見極めと練習になる。
もちろん【聴】は使うのでAランク“新たなる夜明け”+リリアに魔物は任せっきりで構わない。
彼らの技能向上にもなるし、ユウ自身もレベルが上がる。
小さな魔法陣がアリアの足元に浮かぶ。
アリアは既に若干、数歳若返ったような気がする。
微妙すぎて誰も口に出さないのだが。
アリアの顔をしげしげと見るユウにアリアが言う。
「後で見せたげるよ。呪いの痕跡」
やっぱり。
アリアの実年齢は知らないが、呪いだったのだ。
いや、今はそれより自分の能力確認だ。
魔力はほぼ減っていない。
レベルがあがったせいもあって、効果は上がっているのは確かだ。
魔力減少値を報告、あとは指示に従おう。
「解呪を念じながら同じ強さで」
意外にも、水色の魔法陣が浮かび上がる。
効果は・・・恐らく先ほどと変わらない、そのかわり魔力の減りが少ない。
リリアのわざと作った傷にも試した。
結果は散々だった。
治癒に集中すると魔法陣は緑だったが、痛みが減る程度で治らない。
魔力の減りが少ないので、改めて普通に強めると治る。
以前試した時は、いきなりで治ったはずだが。
法則性がまるで分からない。
昼食は、ユウの【聴】と遠隔攻撃に任せてのんびりしたものだ。
「進みはどうですか?」
茶さんが心配してくれるのが嬉しい。
「今までやってこなかったので、まるで手探りです。
それでユウさん、この前のお返事はどうでしょうか?」
全員不思議な顔だったが、それぞれ思い出して知らん顔をしてくれる。
「ごめんなさい」
「えっ?」
「まだすぐには答えられません。考えさせてください」
「・・・はい」
ずいぶん大胆と思われるだろうけど、ずっと機会をうかがっていても2人きりになどなれないのだ。
それより、答えを知りたかった。
もう一度問い詰めたい気持ちをユウは必死で押さえた。
午後からも似たようなもので、全く結果が出ない。
他メンバーは順調に連携や技を上げているのに。
「仕留めたら帰るよー」
アリアが大声で全員に告げた瞬間にそれは起こった。
ロロがまともにオーガの後衛潰しを受けた。
オーガはリリアの居合で瞬時に首が飛び、ロロもだてにAランクではないので蹴りで牽制し躱したが、同時にオーガに蹴りを入れられスネからぐんにゃり変な方に曲がっている。
Aランクと言っても経験が浅いとこんな事もあるものなのだろうか。
ロロ自身は、帰ると聞いて気が緩んだと全面的に認めた。
「いい実験台ができたねぇー」
アリアがニヤニヤしながら言う。
「ああ、存分に試してくれ。役に立ててよかったぜ」
ロロがいきがって答えたが、それは最悪だった。
「まず曲がりを戻すから、我慢・・・」
茶さんがまず処置しようとするが、アリアさんが制止する。
「待ちな!そのまま試すよ。
ユウのはそういう力のはずなんだ」
「でも、曲がったままだったら・・・?」
「もう一度折ってやり直せばいいよ」
青ざめるロロだが、いきがった手前やめろとは言えない。
「存分にやってくれ!」
緑色の魔法陣が出るが、やはり治らない。
「ユウ、最後だから全力でやってごらん。
帰るだけならユウさんにおぶってもらえばいいしねぇ」
アリアがニヤニヤしているが、ユウはもっとニヤニヤしていた。
「ユウ、イッキまーす!」
よく分からない掛け声とともに、緑色の魔法陣がひときわ光った。
ロロの足は真っすぐ伸び、何も起こっていないように見える。
ロロは恐る恐る足踏み、手で足を確認し、岩をガンガン蹴る。
「すげえ、完璧じゃねえか!
ありがとうな!」
「あ、いえ」
ユウは自身の魔力の減りに驚いた。
減っていなさにである。
ほぼ減っていない。
制限付きで魔力を増やし、リリアの傷を治したときよりも。
~~~~~~~~~~~~
ギルドに寄っていたアリアが宿に帰ってきた。
「例の”授与魔法”のがまた出たそうだよ、ザン君が倒したってー」
ロロさんの名前が伏せ字みたいですw