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ザン、初めてのダンジョンへ

宿は思った以上に快適だった。


血まみれになった装具は既に洗って部屋干ししてある。

血まみれで、そのまんまギルドはいいとして武器屋に行ったんだっけか。


彼らも慣れてるのか。


衣類は2人が安物を買ってきてくれた。



飯は及第点。日替わりらしく、少々の肉とサラダ・炒めたポテト・ミルクを入れたらしい疑似味噌汁。

山の幸だね。


和洋折衷だが、ニホンに近いものも感じる。

【丈夫な体】を信じて、遠慮なく味わった。


問題なく普通に美味しかった。



そしてなんと、風呂があった。

昨日も元の世界で入ったばかりで、そう特別な感慨は無いが。


姿見、というか大きな鏡は・・・無いか。

鏡自体全く無い。



風呂に浸かったまま自分の顔を確認しようと思ったが、湯面の揺れで満足に見えない。


洗い場に固定式シャワーと湯桶があるようなのでそちらへ。

まるで現代日本並みだな、と思い・・・もしかして僕たちのような転移者が関係しているのでは?と頭によぎる。


いや、今はやることだけをやっておこう。

時間はある。


シャワーから湯桶にまず貯めて・・・冷たっ! シャワーは水か。

にやけているイジワは放置。



照明(魔法?)が暗くて、自分の顔は反射ではすごく見づらい・・・が、目標達成。


何のことはない、中学生くらいに戻った自分だ。


イジワやルナノ、他に会った人たちは皆ハーフ(ダブルと言うべきか)っぽい顔立ち。


髪色は金髪だが、日本語が通じるので違和感が無かったんだと今更思う。



怖くてじっくりは見れなかったものの、食堂で獣人の冒険者パーティーらしき3人を見かけた。

Dランクらしい。


あとは大勢に混じり、Cランクパーティーもいた。

室内用の軽鎧を着込んでいる他は、特に変わった所は無く、言われなければ気づかないくらい。


ここは冒険者御用達宿、みたいだな。




さっぱりした後は2人の部屋に招かれる。


まず言われたのは、一緒の部屋に、つまり二人部屋から三人部屋にしないかという提案。


「えっえっ」と2人の顔を交互に見ると、

「そんなんじゃないから!」ときっぱりした答えが。



僕も疑問だったが、ここは『普通レベル』の(それにしては設備充実だが)宿屋ということで2人部屋でも350ジョネン。

3人なら400ジョネン。


良心的だが、Fランクでやっとゴブリンを狩れる程度の彼らには経済的に厳しいはず。


毎日薬草採取依頼が出るたび出かけ、ゴブリンは運が良ければ複数狩ってなんとからしい。


ダンジョンは多少実入りがいいらしいが、続けて通うのは危険が増す。


武器防具の修理や購入に回せる金は相当厳しいかも。

「助けて欲しい。」という事らしい。



いやいや、助けてもらってるのはこちらのはず・・・それに、やっと高級っぽい武器が買える程度だが余裕がある。

お金があるのにわざわざ3人部屋に一緒に泊まる理由はあるのか。


大アリだな。

情報メインで助けてもらいたい事は莫大にある、もちつもたれつ。


勿論すぐには返事できないが。

「前向きに考えます。恩人ですし、パーティーメンバーですし」




そのあとは、雑談というより様々な情報を聞いた。

ダンジョン含め地理やギルド関係等々。


この街はゴザという。


北側には魔物の住む森。

町があるくらいだから街道までは安全だが、深く進めば徐々に凶暴な魔物が棲んでいる。


辺境、とまでは行かないが緩衝地帯と言える町。

冒険者の町である。


農産物は隣町からふんだんに売りに来る。


Bランクもいるが、パーティーで居を構えているらしい。

Aランクはあちこち引き合いがあるのでここにわざわざ留まらない。

Sランクの実態は不明。



追々情報は聞くとして、今日は部屋に戻り就寝。


不思議と異世界という感覚は薄く、ペンションにでも泊まっているような。

来たばかりだもんな。


そういえばユウさんは・・・・・



~~~~~~~~~~~~



扉をドンドンと叩く不審者、飛び起きた。

不審者はルナノという奴だった。



新しい朝が来た希望の朝だ。

ってかもう昼近いような。


「旅で疲れてるだろうから寝かせてあげたのよ」


「稼ぎ減らしてごめんなさい。なんなら今日の宿代は・・・」

「そんなの心配無用。

どうせ今日は剣の腕見せてもらって、今後の活動予定決めたりで潰れる予定だったし」



予定ではギルドで依頼確認、諸々の必要装備購入、そして僕の技量を披露した後は時間があれば手頃な依頼へ。


まあ、最後はちょっと仕事するよりも今後の方針を決めるべきだろう。



買ったのは、装備や獲物運搬用のリュックと袋類。


「剥ぎ取りの練習も本番にはしないとね。」

ナイフ兼短剣も購入。



さて、お披露目である。


奇襲を受けにくい、割と見通しの広いポイント。

割とまばらに木が生えている。


3人共歩みを止め、僕は少し離れて剣を抜く。


「いきます」

数回振り下ろす。


「型は無いのか?」

「教わっていません」


剣に(魔法を?)“纏う技”は教わったが、型などは教わっていない。

という設定だ、計画通り!



「ううーん?」

2人で声を揃えて言うなよ、マ○カ○か。



本番はこれからなのだ、まずは幹が数十センチ程度の小さな木。


斜めに振り抜・・・けない。数センチで止まった。

そして何度も。同じ。

何度も・・・・・


・・・・・・僕は orz を具現化させた。



~~~~~~~~~~~~



僕は『荷物持ち』として役立った。


あの醜態を見た後も、イジワとルナノは僕を同部屋に迎えメンバーとして認めてくれた。

朝晩の修練、木剣での模擬戦にもイジワは時間を割いてくれた。



パーティーメンバーとしてもレベル上げは可能なはずだ。

勿論修練もできるなら尚更。


もしもの事があれば、【丈夫な体】を活かすために盾になるつもりだ。



ルナノは中級治癒と中級火魔法、加えて初級の水魔法をなんとか使えるようになっていた。


イジワも僕に教えることで若干得るものがあったようだし、僕自身ゴブリン1匹なら倒せるようになった。


ただしEランク、つまり見習い冒険者卒業・昇格は、僕の加入により効率が悪くなり一旦遠のいたと思う。

悪いことをした。



不満といえばいつの間にか、ルナノの自分への呼称が『僕ちゃん』になった事くらいだ。

めっちゃニヤニヤしながら言う。


ルナノだけなので念の為。



~~~~~~~~~~~~



一週間程が経ち、再びEランク目指して効率アップのためダンジョンへ。


森のダンジョン、中に森があるわけではない。

普通は森に出る魔物の亜種が、上の層では初級、地下五層まで降りればCランク級程度まで出る。


たまに宝石や武器のドロップがあり、魔物の出現がそこそこ多いので魔石の稼ぎもいい。



1階層はジャイアントバット。


動きが早いが、天井が2メーターちょっとのここでは落ち着いて対処すれば問題ない。


2匹目倒したところでレベルが6に上がった。

やっと、というかオークどれだけ強いんだろうか。



2階層も以前は苦労しつつも大丈夫だったそうだ。

2人共実力は確実に上がっているし、問題ないだろう。


僕はカウントしないとしても、補助くらいになれば。

「僕ちゃん、ラピッドウルフはかなり素早いから体当たりには気をつけて」


僕は最後尾、背後の見張りかつ荷物持ち。


「真ん中過ぎたか。あともう一度倒したら帰ろうか」

マップを見ているのはルナノだが、イジワが決定するようだ。




「うわぁ!」「ぎゃっ」

複数人らしき叫び声が奥から響いた。


僕は意味がわからなかったがイジワが即断。

「逃げるぞ!ルナノ先頭にザン、最後に俺が防ぐ!」


モンスタートレインというのか、実際何が起きたか知らないが、数十匹・・・どころではない、角から現れこちらに向かうのが見えた。


ルナノが戻って追い越すのを待ち、ほんの少し走ったが背後で「構うな逃げろ」と聞こえた気がする。


振り向く。

もう間に合わないと判断したか、そうだろう、どう見ても間に合わない。


イジワは止まって剣を構えている。


【丈夫】なのは僕の方だ! 心で叫びつつ、イジワを追い越してウルフの集団に向けて走った。



正面衝突のようなものだが、塊で突っ込んでくるわけではない。

奴らは何十匹どころか数えきれないが、一匹一匹はラピッドウルフでしか無い。


体当たりにはバランスを崩しつつなんとか踏ん張る。

取り付いてきたヤツの爪と牙が食い込むが軽症だ。


剣先が1匹に引っかかり動けない、そのすきに2メートルほどの通路の隙間を10匹は抜けていく。


まずい。


剥ぎ取り用のナイフを抜き、左手に。

その一振りでウルフが真っ二つに。


踏ん張り、右手も無茶苦茶に剣を振る。

剣はもう折れていた。



感覚が変わった。



折れて短剣程度の剣と、剥ぎ取りナイフが狼どもを全て斬ってゆく。

一匹残らず。


絶対的な斬り。

ただし、まだ短い。


そういうことか。

全てを斬るというのは、これなのだ。



レベルは“7”になっていた。

痛さを感じていないだけなのか、怪我の感覚も無し、動きに支障なし。



背後でも、折れる前の剣をすり抜けたウルフと2人が戦闘しているようだ。


「ザン、前は頼む!」

イジワはこの状況を見極め、任せてくれた。

現実、この状況はそうすべきだと判断した。


ラピッドウルフ全て、僕が斬り伏せているのだから。


無限に感じる数のウルフ。

脳内左上の数字が“8”に、上がった。




最後は、数匹が残っていたように見えたが逃走した。


そうだ、2人は?

振り向くとルナノは呆然と、イジワはゆっくりと近づいてくる。



どうでもいい事かもしれないが大事なことに気づいた。

鎧はさすが女神様謹製、見た目は普通の革鎧のはずだがほぼ無傷。


破れた衣服から恥ずかしい部分が出ていたら変態・・・じゃなく大変。

股間はセーフだ、改めて安心。



「これがあのときのアレだったのか」


「使い方がまずかったみたいです。やっとわかりました」


呆然とするルナノに僕は言った。



「僕にもいちおうヒールください」


次は「ユウ編」です。

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