ザンとパクリ疑惑
『お披露目』が、大きいとはいえ魔法屋の1フロアだったので、“魔斬の両腕”の噂は徐々に広まったようだ。
夕方ギルドの繁忙時間には、かなりの者が特にザンの事を話した。
翌日には、ジェギが自分達以上と言った、というのもあり大げさになっていた。
ザンが両腕から剣を出し変異種を倒したのだという噂。
ちょっと合っているだけに悔しいが、それでは某大先生に申し訳ない。
あとは、イジワとルナノがザンの両腕にくっついて魔物を倒すのだという話。
確かに『両腕』だが、それでは妖怪だ。
国語の勉強は大事なんだと実感。
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2パーティーの対練と、魔法とザンの斬りの複合訓練。
これは少なくともザンがジェギに勝てるまでは終わらない。
もしかしたら、ザンやウインドだけが知る“レベル”が追いつくまで続くのかもしれない。
ここでひとつ問題が起きた。
マントの補助効果『能力強化』だ。
ザンたちだけではなく、行動を共にするジェギたち3人にも発生している。
一時は外して練習しようという話にもなった。
ザンが離れた時や別行動の時に、能力の戻った状態で戦うのは危険だからだ。
だが、一段高い練度で練習することには大きな意義がある。
6人全員が恩恵を受けており、今までを超える感覚で対練できる。
更にこの状態を高めてゆくのだ。
それには、討伐を含め全員が同一集団として行動する事になる。
ザンはこの地をいずれ去る。
その時『能力強化』が無くなれば、元の状態で戦うために練習が必要だろう。
それでも、身を持って知ったこの状態を再び目指すことで高みが見えてくるはずだ。
一方ザンはジェギと戦いながら、『能力強化』により更に多く複雑になった瞬時瞬時のパターン変化に多重思考を追いつかせる事に神経を注いだ。
視界を広く、周囲すべての状況を見るようにした。
少しでも多くの情報を入れ、【多】の処理を増やし負荷をかける。
何かが見えてくるはずだ。
戦いの最中は【多】に頼れるわけではない。
新たに発見したパターンを、感覚として使えるように練習するのだ。
それは意外と早かった。
『お披露目』の翌々日に、ザンはジェギの剣をさばきその首に木短剣を添えた。
“33”になっていた。
数度やってもザンは勝った。
レベルが上ったせいもあるだろう、訓練で劇的に経験を得た瞬間、か。
「勝った時になにか見えたんじゃないか?」
ドキッとしたが、もちろん比喩だろう。
「はい、一段見えることが増えたような、不思議な感覚です」
「ジェギさん、勝てたからというのではないですが・・・」
いや、間違いなく勝てたから言うのだ。
「ジェギさんの本当の能力を・・・あ、すみません」
そうだ、能力の詮索はご法度なのだ。
「ははは、気を遣わせてすまん。
君が見せてくれるのに、私が隠すのも変だからな」
ジェギは驚くほど簡単に能力を見せた。
木剣が伸び、闘技場の壁を軽く削り土煙が見えた。
「この剣はどれだけ伸ばしても重さを感じない。
伸ばせるのは概ね目に見え意識できる範囲だが、ここまで伸ばすのに何年もかかった。
だが、これ自体あまり意味はない」
まるで、ザンの能力が進化したような能力だ。
しかし、今見えたのは木剣による壁を削った土煙、つまり・・・。
「これを真剣で伸ばして振り回せば、誰を斬ってしまうか分からない。
障害物があれば話にならない。
つまり、一方向に使うものだということだ。
元々、私は槍を使っていてこの能力で魔物を仕留めた。
伸ばす事は役に立ったが、槍だけの狙撃では魔法と同じだ。
そこで私は既に大きく伸びていた基礎能力を使い、剣技を習いひたすらそれを磨いた。
モスコとも練習を続けた。
現在使うのは、格上に対する必殺の突きとしてだ」
「通常の剣技に組み込む事はしないのですか?」
「ただのこけおどしに過ぎん」
「違うと思います。
自由に斬る長さを変えることで新しい技が出来るはずです。
剣技ならばジェギさんが上です。
生意気言ってすみません」
「・・・これだけ短期に剣技を洗練させ、地力の差を埋めるどころか超えてしまった君の言うことを信じぬわけにも行くまい。
相手を願えるだろうか」
「喜んで」
剣を振りながら伸ばすのは初見殺しとしては使えそうだが、たしかにこけおどしだと感じるのだろう。
ジェギさんの元々の十八番である遠くへの突きは一見同じ意味を持ちながらも、巨大な突進してくる魔物にとって不可避の技だ。
振り下ろすと思われた剣がそのまま伸びてくる。
辛くも躱す。
様々な振り、突きから剣が伸びる。
まるで楽しんでいるように。
ついには、ザンを伸びる木剣で抑え込んだジェギ。
「近接で突き刺されて死にました。負けました」
「思い込みとは怖いな。
まだまだ修練しなければ実戦では使えないが・・・こんなに剣を楽しめたのは何年ぶりだろう。
ありがとう、ザン君」
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風呂は昨日から入り始めた。
肘袋だけはつける。
イジワもいる。
考えてみれば何でも無いことだった。
自意識過剰、だったのかもしれない・・・。
食事は3人で部屋だ。
持ち運ぶ装具が多すぎる。
「ゴザのみんなはどうしてるかな。知り合い少ないが」
「うん、オレの装具も見てもらわないと」
「こっちで探そうか?」
「あのサイクロさんは特別だよ、“天賦の才”持ちじゃないかと思ってる。
赤い模様も他人には見られたくないし」
「服屋に行く時に探してるけど、ギルドに聞くのが早いよね」
新しい服を着たのを見たことがないので聞くと、
(えっちな下着を探してる)
と耳打ちしてくれた・・・。
その夜は燃えた。
パクリではありません、たまたまです。マジです。
あと、最後は自主規制で5000文字くらい削りました。