ユウと新たな仲間たち
「麓に戻る前に大事な話をしておかないとね」
まだ全員火口付近にいた。
ファイアドラゴンが倒されても、地中の熱は残っている。
周囲の温度はかなり下がったと思ったがやはり暑い、というか熱い。
この辺一帯が数十年灼熱地獄だったのである、当然だ。
ルーナではやはり力不足で、黒ユウが地中全体と地上の温度調整を行う。
トカゲが近寄ってくる可能性は増えるが、このメンバーなら問題ない。
もし例の『凶悪なヤツ』が来ればやはり黒ユウが遠隔狙撃する。
魔力回復量が少しだが、さらに上がっている。
「その前にロロさん、ちょっといいかい?」
アリアがロロさんだけを呼び、少し話して戻ってきた。
私達2人にうなづく。
念の為に、こっそり『審問』したようだ・・・。
なぜロロさんだけなのかは思い出せばまた聞こう。
「赤い魔法陣、いわゆる呪法陣と魔物へのそれの付与については聞いているね?
“授与魔法” って名前が付いたようだけど」
茶さんが言ってたことだ。
「アレと遭遇し、倒したことは一切言わないこと。
それと、火口にはすでに弱ったファイアドラゴンがいた事にする。
討伐は討伐、文句は言わせないから安心していーよ。
うちのユウの魔法陣についても秘密。いいね」
最後だけは分かるが、あちらの3人も不思議そうだ。
「最後に、あんたたちにとってはトドメの話だよ。
例えばファイアドラゴンしかいなかったとして、普通の混成パーティーで勝てると思うかい?
実はあたしも良く知らなくて、“新たなる夜明け”プラス補助程度で勝てる相手だと思い込んでたんだけど」
「耐火装備に “永久凍土” クラスの魔法師または集団、あとは物理防御を破れる剣士・・・いやそれより弓か魔法が必要でしょうね。
数年悩まされて討伐決定したはずが、杜撰過ぎる依頼ですね」
「つまりそういうことだねぇ。
交渉や後始末はすべてあたしに任せて、最初に言ったとおりでね。
いい?」
「あの魔法陣や魔物は知らない、弱ったファイアドラゴンを討伐した、ですね。
わかりました」
「あ。あとはしばらく一緒に活動しようかね。
なんなら、“新たなる夜明け”にまとめて加入してもいいよぉ」
「一時的でも嬉しいですが、・・・もったいないです僕らには」
黒ユウは、さすがに『余熱』に耐えられず踊りをやめ、地中の温度調整をしながら話を聞いていた。
インフェルノもどきの“具現化氷槍”は、聞けば存在しないそうだ。
伝説の氷槍 “グラム”とでも呼べばいいと言われた。
【想】付き“グラム”はもちろん撃ち抜いてすぐ解除した。
地中のマグマが吹き出しては大変・・・。
【舞】は踊りというか、説明にまさしく“舞闘”と浮かんで来る。
マジに踊りながら敵や武器・魔法を躱しつつ戦闘する日が来るのだろう。
・・・サーシャにまた会いたい。
帰路も、まばらにトカゲはいたが、群れを作ることも無かった。
やはり、例の『凶悪なヤツ』が関係していたのか。
油断はできないが、もうアレはいないように思えるが。
馬車の通れる道に入ってしばらくして、往路で使った馬車が現れた。
定期的に来るつもりだったようだが、初回で会えたらしい。
さすがナーラのギルド長ガドラさんの派遣した御者さん。
ご苦労さまである。
少し待ってUターンしてきた馬車に乗り込む。
温泉町へはあっという間だった。
ギルドでやはり形式通りの報告。
ギルドの者も他の冒険者も喜び、讃えてくれた。
ドラゴンの皮をメインに売れそうな部位と拾い集めた鱗、すべてこっちの魔法袋から一旦納品。
2パーティー共有でギルド預りとなり、必要時には武器防具として加工できる。
魔法袋の無い“新たなる夜明け”が新装備を作るかは微妙だが。
宿に戻り、汚れた鎧やアウターなど洗って部屋に干す。
こちらの3人はローブを脱いだ直後から予備のローブに着替えているので相変わらず変な集団だ。
4人部屋に集まり、再び話が始まる。
「どこから話そうか・・・。
赤い魔法陣とそれの魔物への付与、それがいわゆる“悪魔教”関係だってことは知ってるね」
3人ともうなずく、ユウもBランク以上は知っていると聞いていた。
“授与魔法”というのは最近分かり、名付けられたものだ。
「今回は知らないという事にしたけど、場合によってはそうする必要があるんだよ。
特に今回は、新人Aランク潰しが関わっているからねぇ。
ギルド関係者には3種類いる。
ひとつは対悪魔教である“アンテ”に関わる者たち、そしてごく一部だが“悪魔教”に帰依するか協力で利益を得る者たち。
それ以外のほとんどがそんなことなど知らない、これが厄介。
多分ここのギルドの連中もそう」
ルーナが厳しい表情をしている。
もしかしたら・・・。
「私も悪魔教らしき者を追っていました。
故郷の村に来た神父を追って村を出たんですが、手がかりは消えていました。
村に帰ると・・・神父の事は誰も覚えていませんでした」
「やはり、何かの理由で一旦外部に逃れていた者たちだけが『アードス』や他の関係者を覚えているということだね」
「アードスで間違いありません!
その後奴を探すのと、うわさにだけ聞く“アンテ”と繋がりを得るために色々聞いても無理でした。
胡散臭く見られるだけで・・・。
最終的には冒険者でランクを上げることでたどり着けると思ったんです。
“アンテ”について教えていただけますか?」
「うん、今日から“アンテ”に加われるとしたら他の2人はそれでもいいかい?」
「僕はルーナに聞いてからずっとそのつもりでした」
「嫌だったら一緒にいねえよ。アリアさんにあそこで言ったとおりだ」
「じゃあ今日からよろしくね。
あたしは“アンテ”のアリアだよ」
反応できない3人に、黒ユウとリリアがうなずく。
コンコンコン
扉がノックされ、「どうぞー」とアリアが言うと、少女が入ってきた。
「ユウさん、みなさんおひさし・・・数日前に会ったばかりですね」
舞闘少女サーシャだった。