ユウ、転職する?
目標地点は火山の火口あたりである。
火山活動が安定している時にはファイアドラゴンは火山から出てくることはない。
火山活発化の時の興奮状態と、弱まった時のストレスなどと言われるが正確なことは分からない。
本来の生息地は南方の火山帯である。
そこから彼らが出てくることは、余程のことがなければありえない。
数十年前、一匹のドラゴンが南からこの地へ向かった。
人々のうわさの伝搬はゆっくりだが、ギルドの通信網により警告が発せられ大騒ぎで住民たちは避難。
結局、ここの火山に住み着いただけのようで、『巣立ち』だったなどと言われている。
異変が起きたのはここ数年のこと。
前触れ無く周辺地域を飛び回るようになった。
直接の被害は甚大とは言えないが、まれに地上にに降りて歩くだけで火災を起こしたり、その巨大な姿だけでも恐怖であった。
出発直前には地元、『竜の町』パルナのギルドに顔出しだけは済ませてある。
周辺ギルド共同依頼でもあり、形式的なものだ。
2組のパーティーは順調に進んでいる。
黒ユウの警告により現れるアースドラゴン亜種はほぼ単独だった。
ユウの魔法は自粛、主に茶さんとリリアが一刀両断してゆく。
あらかじめ接近が分かるので魔法や弓を使う必要もなかったし。
危惧されるのは、突然探知できずに『凶悪な魔法』を使う相手の出現、もしくはファイアドラゴン自身がそれを使ってくる事だ。
膨大な黒ユウの魔力を半分消費させたのだ。
特にファイアドラゴンの場合、遠隔で炎を落として倒せるのか全く分からない。
できれば、Aランク初陣である “新たなる夜明け”メインで倒すのがベストだ。
黒ユウが魔力切れを起こした時点で敗走一択。
だが、ちょっとした嬉しい異変もある。
徐々にではあるが、魔力が回復している。
一時間で数%もいかないが、普通の魔法師と比較すればその多さは言うまでもない。
これまで、こんなに減ることは無かったので分からなかったのかも。
こっそりとアリアにのみ報告した。
そのまま進む。
アースドラゴン亜種というかトカゲは出るが、おかしなのはいない。
徐々に周囲が高温になってくる。
火口が近い。
普通は火口だけ熱いはずだが、ファイアドラゴン生息地の特徴だ。
移動しながら周囲の空気を冷やす。
熱気にやられては元も子もない。
黒ユウがやっている、ルーナがやれば魔法攻撃に支障が出るので。
ほぼ無視できるほどの魔力消費、もしかしたら自然回復のほうが早いとルーナには伝えた。
「ファイアドラゴンだと思います。凶悪な感じはありません。
強いですが」
黒ユウが指をさす、まだ見えないが。
「見えた。
高温・長射程のブレス。
物理防御・熱耐性。
飛行速度と物理攻撃も並ではない。
分かりにくくて済まない」
体のどこか一部が見えたのだろう、先行した茶さんが皆を制しながら言った。
「普通のドラゴンならいけると思うよ-。
いまさらだが、本命は例の魔法陣だった気もするぐらいだねぇ。
もちろんギルドは知らなかったはず」
いけるかどうかはともかく、後半は全員が納得したようだ。
「暴れた原因は例のトカゲだった・・・とかかねぇ」
「ちょっとかわいそうかも」
黒ユウが心にもないことを、いや今回は正直だった。
「回避可能な剣士2人が先行、他は岩陰から援護。
まあ普通だけどねぇ。
あとは、危なければユウが超丈夫な氷壁を張れるからあわてないよーに」
剣士2人が巣らしき岩棚へ飛び込んだ。
真紅のドラゴンがゆっくり舞い上がる、奇襲など意に介さぬように。
巨躯をひねり、尻尾を叩きつけた。
2人とも回避、再度リリアが飛び込み斬りつけるが変化は見えない。
ドラゴンが急加速! これが本来の速さか。
火口をぐるんと一周、勢いに乗せて2人にブレスを。
氷壁が現れブレスは散り、ドラゴンは通過。
ターンし、こちらへ。
気づかれた。
あっという間にブレスとともに目前にいた。
一瞬早く張った氷壁にぶつかる、壁の根本が崩れそうだ。
瞬時、【想】込みの氷壁をもっと地中深く張る。
再度こちらへ来る、しつこい。
いつのまに茶さんとリリアが翼付け根を斬りつけているが傷はわずかだ。
もう一度ドラゴンは離れ・・・まさか逃げる?
例の魔法陣と似た『得体のしれない相手』と認識された?
分かったのは【聴】の光点を探ってその意志を感じたからだ。
ユウは氷を上空に具現化、瞬時に巨大な氷槍のインフェルノもどきを落とした。
速すぎて頭は無理、体のど真ん中へ。もちろん【想】を込めて。
墜落するドラゴン。
【聴】の光点は消えてはいないが弱まっている。
「全員で仕留めるよ!」
アリアの指示で、先行した剣士2人を追う。
追いついた。
茶さん、いや『茶髪の君』がドラゴンの脳天を突き刺す瞬間だった。
首には無数の傷があったが、これでは無理と判断したのだ。
最後は大ジャンプから、全体重と落下の加速を込めた一突きであった。
ファイアドラゴン討伐で周囲の温度はかなり下がった。
もうルーナの魔力でも大丈夫だ。
そして、最も低レベルの黒ユウには劇的な変化が。
ビクン!
ああ、イ・・・違う。
“31”の文字。
右下には一つ増え、【舞】。
ユウは踊った。
練習せずにいきなりだったのでまだ拙いが、見る人が見ればそれは “天賦の才” と同種のものに見えたはずだ。
夢中で踊るユウを他の全員が呆然と見ていた。