ユウと凶悪なヤツ
「ここまでですね、行けるのは」
今日はVIP用馬車1台だ。
本来2パーティー、6人程度なら1台で全く問題ない。
これまでが余裕ありすぎだった。
御者は大体の地形を把握しているのだ。
ギリギリ行けそうにも見えるが、これ以降は向きを変える場所もない。
「本命はファイアドラゴンだけど、アースドラゴン亜種も多いから注意ね」
ユウ以外は皆知っているはずだが、教えるついでにアリアが全員に言う。
「すぐ岩に入るから、最後の打ち合わせでもしとこうか」
「その前に、ちょっとユウさんいいですか?」
茶さんからご指名です!
話が聞こえない場所まで全員から離れ、告白タイムへ。
「ユウさん、ありがとう。・・・ルーナの事です」
お礼を言われるほどのことがあったかと、少し黒ユウは悩む。
「実を言えば・・・腹が立っていました。
あなたが彼女を『お姉ちゃん』と呼び始めた時は」
無表情に見えたが、怒っていたとは。
「あの、妹さんのことですよね。
全く知らなくて・・・今もくわしくは聞いてないですが」
「僕の勝手な思い込みでした。
ユウさんは本気でルーナと付き合ってくれて、彼女は笑顔が増えました。
改めてきちんと言っておきます、本当にありがとう。
・・・あと、例の件は永遠に誰にも言いません。
乗り越えて、少女になりきろうとしているあなたは凄いです」
ん?
ああ、呪いで成長できないとか、病気とか、そんな感じに思ってるのか。
「じゃあ仕事に戻りましょう!」
茶さんが戻ってゆく・・・。
しまった、逆告白のチャンスが。
「やつはそういう趣味じゃあないと思ってたけどねぇ。
結婚式には呼ぶんだよ」
「はい!盛大にするのでおふたりともきてくださいね!」
リリアが顎が外れんばかりに驚いているが、アリアは平然としている。
「ウソです、まだそこまで進んでませんから」
進むも何も、まともに会話したのは今日が初めてだが。
「ユウ、一見まじめに見えても女性の体目当ての男は多いんですよ。
簡単に気を許してはいけませんよ」
リリアさんは心配してくれるようだ。
そんな経験でも・・・いや、一般論か。
「大丈夫です。貞操観念は固いんです」
大ウソツキである、まさに黒ユウ。
どこでそんな大層な言葉を覚えたのかとリリアは思ったが、ここはスルー。
後は両パーティーのすり合わせ。
「基本僕が先制と足止めをし、複数の場合は魔法と弓の援護です。
ロロは高確率で魔物の両目か急所を射止めて行動不能に出来ます。
変わった急所の相手や特殊能力を持つ相手は、僕が必ず言います。
言わなければ通常の頭部破壊で。」
「こっちは基本はリリアが先頭、不足ならユウがおぎなう。
あたしは基本指示を出すだけだけど、強敵が出れば意味は分かるよ。
あと大事なことだけどお、ユウは特別『目と勘がいい』から離れた敵の位置が分かる。
道中で見たとおりねー」
2人のユウの発言に注意し、メインターゲットへ向かうという事に。
彼らはAランクであり、茶ユウもルーナもかなり跳躍する。
ロロは・・・種族的なものか、常識を超えた身軽さだ。
こちらの2人も心配ない。
ユウは、風をまとって飛び上がる、というか自分を吹き飛ばす。
一見普通に身軽なのだとしか見えない。
2列になってでこぼこに上下する斜面を進む。
「5匹、左前方から固まって来ます。
あ、右前方からも一匹、これは変です。
同じ種類だけど凶悪です。」
詳しすぎる警告に驚く“新たなる夜明け”の面々。
というか、見えないのでは・・・。
後は、茶ユウがその正体を教えてくれるはず。
普通のアースドラゴン亜種だが、オーガ並みの俊足だった。
5匹のトカゲだ。
ただし、オーガのように跳躍はしない。
視界に入るとドラゴンは散開、囲んで獲物を狩るようだ。
前の2匹は茶ユウとリリアが一刀両断、その間を抜けてきた1匹がズザザッと止まって動かなくなった、弓だ。
左右のはかなり離れているので、黒ユウは両方に注意。
練習通り、普通に仕留める手はずなのでまだ撃たない。
「右前のは魔法、効果不明!」
茶ユウが言い、黒ユウも見る。
位置は分かっても他に注意を取られて気づかなかった。
頭の一部だけ見える、こちらをうかがっている。
一方、左右に散った方は隠れた。
連携?
突然異変が起こった。
赤い魔法陣、両パーティーを包む巨大さの。
何かが吸われる?意識も・・・
「ユウ!癒やしを!」
アリアの許可だ。
必死で祈る、でかいの来い!
白と金色に輝く大きな魔法陣が現れ、赤いのを上書きして消してゆく。
魔法アースドラゴンは見えない、隠れた。
「遠隔で倒しなさい!」
上空から炎が落ちた。
反応は消えたが、皆には見えないので言う。
「倒しました」
左右の反応は逃げていくが、これも倒し・・・
クラっとしてアリアに素早く支えられる。
「相当消耗したかい?」
「半分持っていかれました、癒やしの方で。
こんなの初めてです。
あっ、他の敵は逃げて消えました」
他の全員が集まってきた。
「今のは・・・それはいいとして」
茶さんは能力の詮索はしない。
「助かった。恐らく情報に聞く魔物への“授与魔法”でしょうか。
受けて感じたのは、いわば『生命吸収』とでもいうべきでしょう。
ユウさんがいなければ全員・・・」
「ユウちゃんの方が“大魔法使い”ね、まさに。
ありがとう」
ルーナさんに思い切り抱きしめられた。
おっぱいの感触を鎧を通しても感じる、気がする。
「後の方針だが、ユウ次第だねぇ」
「例の凶悪なのがいたら、見つけ次第遠隔で撃ち抜きます。
魔力の消耗は、魔法陣のと吸われた分です。
まだ充分ですけど、マズければ途中でも言いますから。
普通の敵ならファイヤドラゴンでも、茶・・・ユウさん達ならいけるはずです」
「じゃあ、続行だね?」
「はい、皆さんお願いします!」
お願いしたいのは“新たなる夜明け”メンバーの方だったが。